コオロギ
待ち合わせ場所は、私の家から三十分ほど電車に乗った先にある駅近くのファミリーレストラン。指定された席についても彼の姿はなく、教わった番号にかけようとiPhoneを取り出した瞬間、出し抜けに横から声をかけられた。
「キョウコさん?」
「あぇ? は、はいっ……」
昨晩受話器越しに聞いた声は、椅子に腰掛ける私の頭より少し上からかけられた。小男だった。声から受ける印象以上に若かった。と言うか、随分と幼い外見だった。
ボロボロのコートとギャザータイプのバンダナ、そこからはみ出した痛んだ黒髪、大きくとろんとした目の下にある濃いクマ、そして病的に白い肌。片手で、ドリンクバーで入れてきたらしいオレンジジュースを持っていた。
彼は無遠慮に私の姿をじろりと見回しながら、了解も得ずに向かいの席に腰掛けた。
「俺は……そうだな、コオロギ。よろしく」
「よ、よろしくお願いします……」
名乗るのになぜ一瞬考えたのか、などと当たり前の疑問を頭に浮かべる余裕もなくなるほどに、私は彼に呑まれていた。幼く、明らかに非力な外見に不釣り合いな、何とも形容し難い威圧感。例えるなら宇宙人を相手取っているような、そんな抗い難い迫力を感じた。
「悩みを聞かせて」
彼、コオロギはオレンジジュースをストローでチューチューと吸いながら、上目遣いに私の顔を凝視する。半ば尋問されているような圧迫感を胸に感じながらも、私は必死で声を絞り出し、今の状況を話し始めた。
♦︎
目の前にそそり立つのは、悪臭を放つ男根。白く薄い頭からは考えられないほどに、黒々とした淫毛はもっさりと生い茂っている。
私はそれを咥えた。逆流する胃液を必死に堪えながら、キツツキのごとく顔を上下に動かして男根に刺激を与える。上から悍ましい呻き声が聞こえる。
地獄の時間が始まった。
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