第13話 初めての街へ
俺はアルトを背負い、水平線の端にみえる街を目指し、ゆっくりと足を進める。
彼女はあまり重みを感じさせず、全く負担にはならなかった。俺の筋肉が強くなったのかもしれないがそれはそれ。
背中に感じる柔らかい感覚をできる限り無視しつつ街を目指していると――
「すぅ……すぅ……」
「よく、知らない他人の背中で寝れるもんだな。こちとら美少女を背中に乗せてドキドキだってのに」
背中から規則的な深い寝息が聞こえる。聞いているとこちらも眠くなりそうだ。
歩いているため揺れているはずだが、気にせず寝れることに若干気にはなる、が頭を振って街を目指すことに集中する。
現在歩いているこのただっ広い草原に魔物は居ないようだ。洞窟生活ではどこにでも魔物がいたので、非常に違和感がある。
警戒は怠っていないが、心理的に余裕があるのはいいことだとつくづく思う。突如襲われるなんてこともざらであったし。
数分歩いて街に近づくと、入口の目の前に検問がみえた。どうやら街に入るにためには必要なようである。また、俺は身分証明書になるのもは何らもちあわせていない。
ちなみに、気配探知のスキルは常に使用してるため、視界の端っこにレーダーとして映し出されている。スカウターのようなものであるが、そのスキルの効果として、俺に対して敵意を抱いているのが赤点で表示され、無関係な人々は緑、仲間は青で示される。
街にいるであろう人々を探知可能な位置まで近づくと、凄まじい数の点がレーダーに表示されて少々驚く。生きてる人がこんなにも居ることに感動してしまったのだ。
まだ街に入るための検問すら通り抜けていないが、人が多くてなんだか疲れてきた。要らない人は感知しないフィルタリング機能ってあったかな……。
異世界で初めての街に向かうことに対して、やはりワクワクしているようだ。
街中から微かにガヤガヤと声が聞こえる。
遠くから見た限りでは小さめな街だが、そこまで発展はしておらず、例えるなら元の世界で言う中世あたりだろうか。
まるでタイムスリップしたような感覚を覚える。洞窟の中で何日過ごしたのかは分からないが、やっと違う世界に来れたような気がする。
検問の待機列に混ざってみると、検問の列はそこそこ長いことに気がつく。だがこの間でも、俺は暇を感じることがなかった。
何故なら並んでいる内容にある。
今検閲を受けているのは馬車だ。馬車が使われているということは運送技術は余り進展していないのであろう。
しかしまぁ、テレポートがあったぐらいなのだから魔法の文化に発展を集中させているのであろうが。
馬車の検査が終わって、街に入っていく。次に検査を受けるのは獣人とエルフのカップルのようだ。
「っていやいや。獣人って……本物? しかももう片方はエルフって――」
この獣人という存在は大きな背丈に、人間の体八割、動物の体二割といった人型の獣に近い。しかし、コスプレのような付け焼き刃クオリティではなく、本当に生まれながらに生えていたのだろうということが分かる凄まじいケモミミを持っていた。
思わず息を飲み、ついついガン見。男性の獣人はふさふさなケモミミが愛らしい。彼は俺より身長は上だし、体格も圧倒的にあちらの方が良いものの、まず元の世界では見られない存在である。
次は彼のすぐ隣にいる女性のエルフらしき人間を観察する。特徴的な尖った耳、スラリと伸びた足など男を引き付ける様な魅力が多々ある。
ファンタジーの世界であることをもっとも間近に感じた瞬間であった。アルトだって吸血鬼のような格好をしていたが、それよりも強く感じた。
その時に、背負ってる彼女何かを言いたげにしていたが、寝ているので気のせいだろう。
こんなことをぼーっと考えていたら、俺たちの番が来た。
「おや? カップルさんかい?とりあえずさっさとやるからギルドカードか、身分を証明できるものを見せてくれ」
「アルト……起きろ。それと俺たちはカップルじゃないもんでね」
俺は否定の言葉を述べつつ、揺すってアルトを起こす。
「んっ……んん? ……ああ……おはよーゆぅ……」
まだアルトは眠いようだ。無理やり降ろし、取り敢えず早く街に入りたいので簡単に今の状態を説明する。
「むぅ……でもそんなのないよ?」
「おいおい……無いのかよ……」
彼女は不満そうな声を上げながら、ギルドカード等、身元を証明するものをを所持してないことを伝える。
「……なぁ、そういうのを俺たちは持ってないんだが、入れないのか?」
「いや? この紙を書けば入れるぞ。この街で悪いことはしないって約束の紙だ」
この兵士は意外と出来る兵士らしい。この国が警備バッチリなのか。流れ民でもバッチこーいな国でもそれはそれで治安が悪そうである。
「ならそれで頼む」
「わかった。ただ、ここに書かれているように、必ず冒険者になるならギルド、流民だったら役所で登録をするんだぞ。それとギルドに登録しても、身の安全は保証してくれる訳ではないので気をつけろよ!」
俺とアルトは別室で筆ペンのようなものを使い、サインした。文字がかけるか読めるかどうか心配だったが、あの試練で叩き込まれたらしい。英語を使う感覚で出来た。
そして。
「んじゃ登録しろよー! サイバルを楽しめよーカップルさん!」
この街は“サイバル”というらしい。それと兵士。後で覚えてろよ。この街に入っていきなり変な目でみられてるじゃねぇか。
アルトは耳まで真っ赤にしていた。相当怒って居るのだろうか。
俺たちは少しだけ先にある、大きな建物を目指した。市役所とは一味違い、まるで病院のような堅牢そうな建物である。どうやらあそこが冒険者ギルドらしい。
「やっぱりユウもギルドカードないんだね」
「そっちは持ってると思ったんだけど?」
「僕いっつも無視して入ってるからねっ」
兵士さん。コイツ不法侵入です。
しかしそう考えると、この世界において魔法は何の役にでも立つことが分かる。
誰でも入国可能であるため、監視カメラなどセキュリティが町中に整っているかと思えば、実は全然そんなことはないようだ。第一に、変身魔法で簡単に姿がバレずに侵入可能で、挙句に空からでも簡単なのである。アルトがギルドカードを持たない理由がよくわかった。
ギルドに登録したあと、今度こそ魔法を創ろうと決意した。攻撃に鍾乳石使う人なんて目立って仕方がない。
そんなことを考えているうちに冒険者ギルドに到着した。人に出会ってからというもの、ぼーっとしていることが多い気がする。
因みにアルトも丁度いい機会ということで、冒険者ギルドに登録するようだ。
古い木の扉をあけ、歩きながら中を観察する。
ギルドということはゆわっしゃーな世紀末の格好をしている人がいたりする――ということは無かった。筋肉がすごい人は見かけたけど。
一見さんお断りのような雰囲気があると感じていた俺の完全に偏見であった。
何か目線がこちらに集中しているようだが、気のせいだろう。
ほとんどの人が髪を黒以外の色に染めていて、ちょっと驚いた俺もいる。そういえばまだアルトを除いて一人たりとも黒髪の人と出会っていない。
「こんにちわ。ギルドの登録ですか?」
「ああ。そうだ。よく分かるな」
「おねーさん僕らの心が読めるの?」
ギルドのお姉さん、俺、アルトの順で話した。
するとギルドのお姉さんは
「いえ……貴方のような髪色も瞳の色も見たことがないもので――」
あぁ、なるほどな。黒髪黒目はあまり見ないようだ。
みんな染めてるからだろうな。黒髪はいいぞ。
「いいから、早く登録手続きをおねがいします」
と、髪の色を話した途端、アルトは敵意を向けながら話を進める。
急にどうしたんだろう。もしかして髪色に関する文化も存在したりするのだろうか。
「申し訳ございません。では改めて登録への手順を説明します」
受付の人は笑顔を絶やさず話をすすめる。
アルトは軽くあしらわれたようだ。ちょっとだけ彼女の苛立ちが顔に出ていた。
「まず、この紙に名前、性別、クラスを書いてください。」
いきなり分からない単語が出てきた。クラス? なんだそれ? 三年B組とかそういうのか?
ちらりと隣にいるアルトを見るとスラスラと書いていた。クラスの部分は抜かして書いたようで、当たり前のように受付の人に紙を手渡す。
「あれ……?どうしたの?」
アルトが筆が進んでいない俺を見て問う。
「クラスってなんだろう」
「「えっ」」
二人同時に言われた。スタート位置が悪かったんだ。仕方がないだろう。女神の試練で教えてもらった記憶もない。
「ええっと、すいません。クラスが分からないんですか?」
「そうっすね」
俺は当たり前のように答える。
するとアルトが耳打ちしてくる。
(ほんとに知らないの? 隠してるだけ?)
(知らないよ。隠す意味もないし)
(そ、そうなんだ)
「ええっと……宜しいですか? クラスを判別するのでこちらへどうぞ。アルトさんは別の部屋で行うのでこちらにお越しください」
「だ、そうだ」
「むー……いってらっしゃい」
元々この街に来た目的がそれぞれ違うため、ここでお別れなはずなのになぜ不満そうなのか。
まぁいいや。クラスってなんだろうな。本当に何年何組とか言われるのだろうか。ちょっと楽しみだ。
案内されたとおりに別室に入ると、暗い暗幕が部屋をおおっており、目の前には大きな水晶があった。
その占い師が使いそうな丸い水晶はふわふわと空中に浮いていて、何よりもまず最初にそこで驚いた。
よく見れば足元には幾何学模様の魔法陣があり、重ねて書かれている左端には騎士、右端には魔法使いの模様が刻まれていた。
「この水晶に触れてください」
「分かりまし――っ!?」
言われたように宙に浮く水晶に軽く触れる。すると少しだけ魔力が吸われたような感覚があり、その後触れた水晶には変化が起こる。蠢き、空中でぐにゃぐにゃとスライムのように軟体になったのだ。訳の分からない挙動を目の前にしたため、驚いてして俺は手を離す。
「あぁ、ビックリした」
液状化した水晶だったものは、魔法使いのような紋章が刻まれている場所、右側の魔法陣へ落ち、地面に吸い込まれていく。
……で? なにこれ。
「結果をお伝えしますので元の受付までお戻りください」
そう言われたので俺は戻ることにする。
戻ると、受付の近くにあるバーカウンターで、アルトがジュースのような物を飲んでいた。俺が部屋から出ることに気がつくと結構なスピードで突進してくる。
まったく回避できなかった。
高速で接近した彼女は俺の肩を力強く掴んで早口で言い放つ。
「ねぇどうだった!? ねえどうだった?!」
「お、落ち着けって。まだ分からないし」
「なら魔法クラスだね!黒魔導師? 白魔導師?それとも
落ち着いていないようだ。色々良く分からないが、取り敢えず魔法使いであることは変わりないそうだ。え、魔法使いなの? まだ確かにセクシャルな経験はしてないけど……もう?
「そう言えばアルトは自分のクラスって――」
不思議に思ったので問う。
「知ってるけど、人間から怪しまれないためにわざと判定を受けてるよ! まぁ、これから面倒はあるだろうけどね!」
「お待たせしました」
「おおー! 来た来た! 僕凄い楽しみだよ!」
丁度いいタイミングできたな。彼女のクラスは気になるが、後で聞けばいいだろう。
「それで? 結果は?」
顔には出していないだろうが、魔法使いと聞いて非常に結果が気になるのだ。答えを急かすように聞きかえす。 周りの厳つい男たちの雰囲気も何故かこちらに興味があるようで、コンサートが始まる寸前であるかように静かになる。
「……」
「ん、どうしたの?」
何故、黙る。焦らすのが趣味なのか? 俺は全然嬉しくないんだが――なぜだろう。嫌な予感がする。
「きっと
「いえ………違います」
アルトが嬉々として話すが、先程とはうって変わり受付の人は無表情で否定する。
「ユウ ナミカゼ さん貴方は――」
まるで余命申告されそうな雰囲気であるが、その雰囲気には呑まれない。なにせ早く拠点に戻って魔法を創りたいのだから。
「こちらです」
「えーっと、なにな……に――え?」
アルトが受付の人から渡された紙を横取りし、先に結果を確認するが……硬直。
固まった隙を見て俺も彼女から紙を引っ張り上げ、結果を確認する。
機体を胸に、その一枚の紙に書かれていたクラスは――
「えーっと……クラスは“
「えッえええええええええええええ!?」
ギルドの中は来た時とは違って、まるで成績表を返す時のような静かな雰囲気であったが、俺が召喚士と言う言葉を話した途端に時間が止まったかのように本当に何も聞こえなくなる。
その無音空間の中で、アルトの叫び声が非常に大きく響きわたった。
もしかして――レアクラスかもしれない?
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