第8話 ここから出るために
スキルというものは体に何らかの影響を及ぼし、魔力の有無に関わらず、その起こす現象をアシストしてくれるという魔法じみたものである。とはいえ、魔法の存在ももこの世界にはあるのだが。
スキルの効力の素晴らしさは使用して実際に体を動かした通りである。追加して早々に妄想した通りにアクロバティックに動くことが出来る、といった能動性が俺自身に追加されたため、このスキルを持つのと持たないのとではこの世界での生存能力を分けることを意味する。
何をするにしても案ずるより産むが易しってことだな。
「『
片手を何も無い空間に向けて前に押し出して、魔法を使うポーズを取る。もう一度主張するが、中二病ではないので心配はしないで欲しい。……いや、本当は三分の一……いや、半分? くらい患者なのかもしれない。この世界に期待を望んでしまった点が特に顕著である。
それはさておき、変わらず魔法を放った反動と魔力消費の効果もあってか、体の中の三分の一ぐらいの暖かいエネルギーが一気に霧散する感覚を味わい、足の力が抜けてふらっとなる――が、倒れるのも恥ずかしいので足に力を入れてぐっとこらえる。
ここからの流れは脳内に浮かぶイメージ通進めればいい。
「ぐっ……『
思いっきり声を上げて叫んで魔法を唱えてしまったが、以前とは違って直ぐに変化が起きない。
変わらず手を差し出したままのポーズで止まること数十秒、待ち望んでいたスキル習得の感覚がやってくる。
「一応成功、なのか? でもなんで今回は遅かったんだろうな」
もしかしたら
「さて、早速発動してみるか。この綺麗な泉の水は飲めるのかな?」
新しく作ったこの
スキルの起動の仕方は口では説明しにくいが、例えるなら身体の何処かに有るやる気スイッチをオンにする感じだ。
目の前の綺麗な湖をゆっくりと覗きこみ、スキルを発動させると、これまた面白い事が起こる。
――――――――――――――――――――――――――
名称 魔力の泉
レア度 LV3
備考
人間には無害。
魔力を含んでいる湖。飲めば魔力を微量回復する。
――――――――――――――――――――――――――
「ゲームみたいな説明だな」
そんな感想を抱きながら視界の端に浮かぶ半透明に見える映像を眺める。
この映像は使用者だけ見えているのか、それともほかの人のにも見えるのかは要検証ってところだな。
とりあえず、これは有害ではないということが分かれば満足だ。早速喉を潤すことにしよう――と思ったが、中に海藻が生えているることに気がついた。
その海藻はとてつもなく、体に悪そうな色をしていた。
「なんじゃありゃ……」
透き通った湖底に生えている海草は全体的に紫色。それだけでも体に悪い影響を与えそうであるのに、さらに白い斑点がぽつぽつと浮き出ている。植物の病気を連想してしまう。
「まさか、食えないとは思うが……調べてみようか」
今のところ、これ以外に食べられそうなものは見受けられない。草すら生えていないし、周りは石ころだらけなのだ。毒々しい海藻が食べられるとは考えたくないが、この閉鎖された食べ物なし環境のままでは間違いなく餓死してしまうので、対毒のスキルを作ってでもアレは食べる覚悟でいなければならないのだ。
覚悟を決めて毒々しいワカメのような海藻を見つめ、スキルを発動した。
――――――――――――――――――――――――――
名称 怪力の海藻
レア度 LV5
備考
人間には無害。魔力が豊富な場所でしか生えない貴重な海藻。食べればATKが0.05だけ上昇する。
味は最悪である。
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「……」
絶句してしまった。こんなものが無害だと? なおかつ魔力の泉よりレア度のレベルが高いとはどういうことなのだろうか。
「とりあえず水飲むか」
両手で水すくい、一気に飲み込む。
乾いた……体に水が染み込んで――って
「なんだこれ。なんか魚臭いんだが」
何故か魚の生臭さを感じる。喉が乾いているのだが、ガツガツ飲めるものではない。喉が乾きすぎておかしくなってしまったのだろうか?
「……一応、味見ぐらいはしとこうか?」
そうして湖にはいり、掴んだのは、わかめもどき。怪力の海藻という名前があるが、俺からしたら完全に紫色をした白斑点のわかめである。ぬるぬるして気持ち悪い。
「唯一の食料なんだ。生きるためには食べるほかないだろ……俺」
体が拒否しているのがわかる。現実を認めたくないのだろう。だが、先のとおり唯一の食料。そして俺の筋力も上がるし、生きる可能性を上げるとても重要なものだ。ただ色と匂いが悪いからってなにをそんなに拒否しているんだろう。
覚悟を決めて池の中のわかめを引き抜こうとする力を強めると、ヌルッと、そしてすぐに体がぞわりとするような気持ち悪さが全身を駆け巡る。
「……生きるためだ」
挫けそうな心を必死で持ち直して、ぬるっとしたわかめを引っ張り抜く。
水から出したと同時に強烈に臭ってくるのは、まるで魚が腐った匂い。
「お前のせいで水が魚くさくなったのかよ……っ」
鼻をつまみたくなるほどの強烈な悪臭に三度ドン引きする。だがしかし、こんなところでとまれない。
「せーのっ」
口に入れた途端ぬちゃっという感覚。そして……
「……!?」
無言で物体を吐き出した。
味ってレベルじゃないぞこれ。気絶するぞ。
この時の俺の顔色はわかめより紫色になってるかも知れない。
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