第3話 転生ではなく
波風 夕という少年を送ったのでやっと一息つける――はずだった。
「ふぅぅぅ……緊張したぁ……でも、久しぶりに楽しかったかなぁ」
私は初めて人間という知能を持った相手と会話をしました。見たことはあるのですが、やはり初めてというのは神でも緊張ものなんです。
「はぁぁ……ついつい面倒臭くて押し付けちゃったけど転生、だから力の具合は年をとっていくにつれて分かってくれるわよ。うん。大丈夫」
そういいながらも私は改めてゆっくりしようと椅子に腰掛けたその瞬間――
「女神さまぁぁぁ!!」
玄関を張り倒さん勢いで天使が飛び込んでくる。彼は私が創り出した天使なので、アキバチックなのは仕様です。
それは置いといて、すごく嫌な予感がした。 走馬灯のように彼との会話を思い出した。
『スキル付与はめんどくさいんで自分で付与しちゃってください!』
……あれ? 私って彼になにをあげちゃたの?
スキル付与は神が転生者にステータスを与えるために使う技術。それほど転生者は多い。今回は初めて人間を転生させたけど……
「あはは……これ不味いかも……」
気づいた時には既に遅し。彼は既に別世界に転生済みである。
天使がついに私のところにきた。 それもすごい形相で。
「女神さま? 彼に何をあげたんでしょうか?」
それはすごい威圧感であった。私は女神なので普通なら立場が上だが、この場において権力はなかったも同然である。
「あはは……三種類の
「なにをやってるんですか!? あの魔法がどれだけ凄まじい魔法だかお分かりになられますか?!」
「あぅ……だって怖かったもん……夕君」
これはシャーリンの特技の一つ“うるうる上目遣い”である。これに天使は――
「もうだまされませんよ?」
「……だよねー」
さっきとはうって変わり、ため息を吐いて窓から見える川を横目に見る。
「波風君が世界を滅ぼすような魔法を創り出し、使える――とは思いませんが、彼がその様な暴挙に出ないようしっかりと管理してくださいね? 女神様?」
「は……はい」
女神。面目丸つぶれである。ちくしょう。
創造魔法はあまりにも消費魔力が大きいので、彼ら天族にも扱えるものは少ない。なのでこの事は余り大きなことは感じてなかった天使であった。
が。
「それと」
「えっ」
「まだ終わりではありませんよ?」
これほど逃げたいと思った日はない。
これほどまでに部下に追い詰められる経験は二度もなかったのだ。いや、追い詰められたことはあったんだけどね。
「彼、転生ではありませんよ?」
「そんなことかぁ、えっ?」
「彼を最初から転生と考えを纏めていたのは貴女ですが? 報告書と違いますよ?」
「ちょっとまってね?」
全力で履歴を調べた。脳内には想像すると転生者がどのような形で異世界へ渡ったかわかるのだ。その結果は、
「してないじゃん?!」
そこには
波風 夕 十七歳 男
。転生off
。創造魔法
。運±0
など色々書かれていた。
「女神さま? 貴女一応神様ですよね?」
「あははは。これどうしよっか」
「もうしりません」
シャーリンは乾いた笑い声をあげ、天使は頭を抱えている。
「もう私ってばほんとにドジっ子!」
「報告してきます。ほんとにお父上が偉いお方でよかったですね」
これをきいてついつい一瞬暗い表情を浮かべてしまったが、天使はそれに気がつかなった。
天使が去った後に、不意につぶやく。
「私だって、好きでやってるわけじゃないのよ?」
私は女神、そしてその父親は最高の権力者である。いくら娘といえど……あの人の容赦のなさは背筋が凍る。
「夕さん……あの人だけには逆らっていけませんよ……って、こっちにはもう来れるはずないか」
誰もいない場所でぼそりと呟いた。
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