第6話 スキルの力
意識が途切れてからしばらくすると、俺は莫大な情報が頭に押し詰められているような錯覚を覚え、目を覚ました。
「あぐっ……ぁ……!?」
途端に襲いかかる激痛に思わず呻き声をあげる。その痛みは今までに感じたこともないような、死を感じられるほどの苦痛である。
脳に、そして次は体へと、ありとあらゆる情報が無理矢理埋め込まれる感覚である。意識は完全に覚醒したが、身体が爆発してしまいそうな激痛。全ての痛みを総集した感覚に耐えかねて右へ左へとゴロゴロと転がる。
「ぐぁぁ……ッ、これ……が……試練かよっ……転生間際にやっとけよ……っ!」
脳や体がパンクしそうな状態の中、確実に俺の中に変化が起こる。
「頭が……熱……いっ?!」
今までに感じたことがないほど熱い物が頭に入り込んできた錯覚を覚える。もしかしたら錯覚じゃなくて、実際に起きていることかもしれないが、痛みでもう何も考えられない。
「ぐぁ……体もか……ぁ!」
同じように体にも感覚を覚える。まるで融解した物質を流されている感覚だ。体の組織が異常な速度で壊されるなか、超高速で再構築される。いまはそんな状態であることを本能的に感じ取った。
「ぁぐ……これが試練だか……意志比べだか知らねぇが……俺はっ、俺自身には、負けねぇ……負けたくねぇんだよ……」
今の感情は辛さに負け逃げ出す気持ちではなく、子供っぽく、そして純粋な競争心であった。
「はぁ……ぁぁ……」
目を閉じる。 俺はシャーリンとの会話を一つ一つ思い出す。
『夕さんなら出来ます。必ず』
当たり前だ、こんなので死ぬより、魔法を使って、この世界で二度目の生を謳歌しやる。
そうだよな、こんな小さい女の子に課題を出され、それを遂行出来ないのはごめんだ。 死んでも死にきれない。
「死なねぇ……ぜってぇ……死んでも、死なねぇよ……ッ!」
その状態で永遠とも感じられた五分が経過しようとするとき、不意に肩に手がのせられた、気がした。
「……ぁあ?」
耐えかねない激痛の中、意識を逸らしつつも不思議な感覚が疑問点に思っていたが、その触れられた部分から痛みが引いていく。それはどんどん身体中に広がり、癒されていく。時同じくして、のたうち回って移動した俺の体も、元あった場所へと運ばれていく。これが、事象の巻き戻り、なのだろうか。
「っぐ、はぁ、はぁ……っ、俺の、勝ちだ……」
『はい。よく頑張りました。夕さん』
その言葉を最後に女神の手の感覚がふっと消えた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
痛みはどんどん癒えていき、思考がはっきりとし始める。
幻痛が響く体は特に異常がない。伸ばした手の先には何も無かったが、いつの間にか天使のネックレスは首に掛けてあることが理解出来た。
「なかなか良いものくれる、じゃんか……」
安心感のせいか、俺は意識を手放した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ポタン、ポタンという水が落ちる音を聞き、再び俺は目を覚ます。
「……夢じゃなかったかぁぁ……あぁ……生き、てるぅぅ……」
なにより首に掛けられているネックレスがそれを証明してくれる。俺は何度死ぬ寸前のような激痛を味わったのだろう。常に死んでいたのかもしれないが。
「って、おお。すごいな。今まで少ししか洞窟の奥が見えなかったのに、今じゃはっきり見える。夜目ってやつ?」
地面には光る石のようなものが転がっており、ある程度は光源が確保されていたが、奥の方はそれがないので真っ暗であった。
しかし、今ははっきりとそれが見える。暗視能力の追加、か。
「ステータスをみてみるか」
(ステータス)
――――――――――――――――――――――――
名前 波風 夕 レベル1
年齢 17
性別 男
HP(体力) 250
MP (魔力)2500
ATK(攻撃力) 50
DEF (守備力)40
DEX(器用さ) 50
AGI(敏捷性) 70
INT(知力) 50
LUK(運) 20
―――――――――――――――――――――――――――
一通り上がっているようだ。特に魔力がずば抜けて高くなっている。とはいえ、魔力をゼロにして特殊なアイテムを使わないと回復してくれない、というのも困る。憧れの魔法は少し我慢して、記念すべき初めての魔法は全魔力の半分ほどを使用する
今のところ使える魔法は――
―――――――――――――――――――――――――――
消費MP 250
消費MP 2000
消費MP 1000
―――――――――――――――――――――――――――
「……かなり良心的な消費量になったもんだ。使える魔法も増えしな」
女神の試練耐え抜いたことにより、良心的な価格で魔法を使えるようになり、更に
この魔法は名前の通り、自分や、物などに能力をつけられるようになるのだろう。なぜだかわからないが、そのような考えが浮かんだ。
「過度なものは弾かれるんだよな、ならこれなら!」
魔法の起こし方を知っていた。先ほどの過程で叩き込まれたのだと推測しよう。なんかこの世界の言語においてもどのようなものだか分かるみたいだし。
《
手を胸の辺りに当て、そう念じた。
すると、体中の暖かいモノがごっそりと空へ吸い取られるような感覚が襲いかかり、足から崩れ落ちそうになる――が踏ん張って耐える。
「くっ……『
これを一番最初に付加した一番の理由は、何もない場所では自分の体が一番の武器になると考えたためだ。
魔法を使って直ぐに変化は起こる。体が僅かに光り、点滅したかのように消えたのだ。
「……なるほどな」
俺は軽く腕を振り回し、拳を前に突き出す。
この時に無駄な力が入っておらず、より効率的に攻撃ができることに気がついた。格闘家のプロ並みの体捌きが出来るのではないのだろうか。
「これが、スキルっ!? 明らかに体の運びのスムーズさが明らかに違うぞ……!?」
見よう見まねで空手の型をやってみたが、案外形になる。
なら……ものは試しだ。男子なら一度は憧れるであろうバク転を行ってみる。手を振り抜く勢いで一気にジャン――
「プふぁぁぁ!? こぇぇぇぇ!?」
予想以上に高い。高くジャンプしすぎじゃないか!? 何メートル飛んだのかは分からない。ただ、家の二階から飛び降りるような高さで現在系で空中落下中である。
「うわぁぁぁっ……あ?」
硬い地面に落下するのだから足の骨折は免れない――と思ったが、衝撃は明らかに――弱い。というか、普通にジャンプした程度である
「ぁ、あぁ……怖かった」
足が震えて動けないまま時間は経過し、やっと落ち着いたところで続けて能力創造を使おうしたが……使えない。発動すらしなかった。
「……? あっ……そうか一日に一回が限界だったか。消費魔力も……か」
俺はスキルの凄まじい力にしばらく感嘆していた。バク転どころかバク宙であったことにこの時点で気がついたのは内緒である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます