第5話 女神の試練
ほんとにゲームだな。
ステータスをみて俺はふと呟く。
(ふふふ。よくできてるでしょう?)
自慢げにシャーリンが話す。
確かにこれには驚いた。ステータスと念じれば自らのステータスが出ることなんて元の世界にはなかったからな。あったらあったで大騒ぎだが。
他の世界はこれが普通なのだろうか?
ぼんやりとしていると、シャーリンはふと思い出したように早口で話す。
「いくらここが魔界でも、高めのステータスを用意したはずです! 転生者の新たな生命になにかあったら困りますからね!」
……え? あれでか。完全にレベル1のステータスなんだが。これがここのダンジョンで普通なのか? これが高めであるのか?
そうとは考えにくいんだが。
(おい女神)
(様ぐらいつけてくださいよっ)
(ステータスを見てくれ。これで魔界を生き延びれるのか? 全くそんな気がしないんだが)
「欲張りはいけませんよー?これでもサービスしましたから。なにせオール9999に――」
(よく見てから話してくれ。その数字すらはいってないぞ?)
(えっ? えっ?)
憎たらしい女神は焦ったような声を上げる。
わざとじゃないよなこいつ。
その数十秒後、俺は女神が叫ぶというところまでは予想できた。
(ああああああ! ステータス保存してなかったぁぁぁ!)
予想通りである。
(保存ってお前……この世界はゲームかよ。俺は本当にどこ世界にいるんだろうな)
女神は俺の脳内で叫び、俺は今後の行く末が心配になってきた。
(あああどうしよう……夕さんを安全に生活させるつもりがもう死の危険です……)
(おいおい、ラスボス手前でレベル一のなにが安全なんだ?)
魔界っていうんだから、勇者が戦うラストステージがメジャーだろう。まぁ俺も男なので勇者にも憧れたりするが、レベルは一である。
(何かないか……何かないか……そうだ! 貴方には私が差し上げたスキルと魔法があるじゃありませんか!)
(スキル? 魔法? そんなものもらったか?俺)
(あげましたよ!? ステータスを開いてスキルページを出してくだい!)
また訳がわからないことをスキルページって念じればいいのか……?
(スキルページ)
―――――――――――――――――――――――――――
所持魔法
―――――――――――――――――――――――――――
所持スキル
七属性の魔法の才能
空き
空き
―――――――――――――――――――――――――
正直何から話せばいいのか分からなかった。
だが、クリエイトとは何かを創ることなのはわかる。
ぱっと見嬉しいのは魔法の才能だな。
「まずは消費魔力の確認からしてください! 魔力は取り敢えず足りるはずです!」
詳細って念じてみれば、出るか?
(詳細)
―――――――――――――――――――――――――――
説明
物質創造 消費MP25000
この世界 で一度見たものを空間から取り出せる。
MPがある限り使用可能。3秒間だけなら触れずとも操作できる。
魔法創造 消費MP300000
イメージした魔法が創れる。その魔法を使うにも別途MPが必要。
このスキルは1日に3回しか使えない。レベルが上がる事に限度が増える。
不老不死、復活魔法などこの世の理に逆らう魔法は創れない。
能力創造 消費MP100000
体術、剣術、等のスキルを創り、付与することができる。(このとき必ずスキルのレベルは1の状態)
1日に一回だけ使用可能。レベルが上がる事に限度は増える
魔法創造と同じように世の理に逆らうような能力は創れない。
七属性の魔法の才能 MPを使用しない
七属性(火、水、風、土、聖、闇、無)のレベルが上がるまでの経験値が半分になる。
―――――――――――――――――――――――――――
これが俺の使える魔法だろうか? 使用魔力が破格すぎて唖然としてしまう。バランスがおかし過ぎやしないだろうか。俺の所持魔力(MP)は三桁だぞ。
「どうでした?」
(チートに遭遇してレベル戻された気分だよ)
「で、でも一応魔法は……」
(使用魔力量が桁違い過ぎて使えないんだが?)
「ええーっと……その、ごめんなさい……」
こればかりはこの女神も本気で罪悪感を感じているようだ。
やっと初めて感じ取れた――が、謝罪だけで現状は変わってくれていない。脳内に思い浮かぶ二度目の死を目の前にして己の心に沸き上がったのは、黒くてドロドロとした感情である。容器から溢れ出るその感情は自分の意思だけでは止まらなくなり、あっという間に口からも零れ始めてしまう。
「……なんの当てつけだよ」
(あ、あのっ……鍛えて、強くなれば魔法は使える――)
「俺が孤児だからか? 俺がこんな変わった人間だから、二度目も殺してやろうかって考えなのか?」
(そ、そんなことはないです! 私は夕さんの謝罪とその後の人生この世界で楽しめれば――)
「確かにファンタジーな世界が良いとは考えた。だがこの様は何なんだよ。 魔法は使えない。転生にもなってない。おまけにどこだか分からない場所へ飛ばされて早々、死ぬ危機を与えられる? おかしいだろうよ。そんなの」
(……本当にごめんなさい)
シャーリンがしょんぼりしてるのは理解できるが、それで死ぬことへの回避策が得られたわけではない。ここで心から欲しかったのは謝罪ではなく、この状況の解決策である。
「俺は生きたいんだよ。女神のミスなのか、神のなのか、それともヒューマンエラーなのかは知らないが、俺の親父が繋いでくれたこの命を無駄に散らしたくはないんだ。本当に解決策はないのか?」
(その、二つだけ、あります。安全な策として百五十年ほどこの場で魔法について修行を行い――)
「悪いけど、人間はそんなに生きられない。第一食料すらままならないこの状況では一年すら生き延びられないんだが」
神というのだから長寿、はたまた不老不死なのは容易に想像がつく。彼女らの尺度で俺がここから脱出できるとは全く想像がつかない。
「頼むから、俺たちの立場になって考えてくれ。もう、お前しか頼れないんだよ」
(……もう一方あるにはあるのですが、その……転移したばかりの夕さんの体にとんでもない負担がかかってしまいまして、こちらでも死んでしまう可能性が高くなってしまいます)
後者の彼女が提案したこの案も苦肉の策なのだろう。死ぬのは嫌だと本人が言っているのに、生死は確率に任せろといい放つものであるのだから。
「で、その案は今後生きられる力をつけられるのか?」
(それはもう間違いなく。私の第三女神として与えられる加護を全て注ぎ込みますので。ただ、それはその権能を受け継ぐことに成功すれば、の話です。これから行おうとすることは、明らかに夕さんにとって異質で、どの
「一応可能性はゼロじゃなくて、あるんだな。でも百五十年待つよりは確率がある、か」
しばらく黙り込んで考えてしまう。
まず前者の考えだが、間違いなく百五十年なんて生きられない。なにより食料がないし、このため池の水だって安全であるとは言えないのだから。
周りを見ても出口はない。完全に世界から隔離されており、孤立状態だ。助けも望めない。
「は、ははっ。絶望的すぎるっつうの」
乾いた笑いがこみあげ、横になって倒れ伏す。
正直泣きたい気分だ。あぁ、何でこんなことになったんだ。
俺は世界が変わっても慌てない性格だし、余裕で生き延びられると考えていたさ。
――が、現実はこれだ。女神のミスで一度死に、また女神のミスで死の直前に立たされている。
「魔法、使ってみたかったなぁ」
憧れた世界は情景で終わろうとしている。俺はこの世界でなにも出来ることがなく、死ぬのだ。この虚しさは彼女に伝わるのだろうか。
視界が滲み始め、全てを諦めて目を閉じたその時、女神が突然嬉しそうな声を上げる。
(ぁ、あぁ! 夕さん! まだ諦めてはいけません!)
「……誰のせいでこんな追い詰められてると思ってんだよ」
(あなたたち人間の魔法に変わる力、憧れの力を確率に入れていませんでした!)
「なんだ、それ?」
(あなたの世界の人々は魔法を持っていない! しかし、魔法よりも素晴らしい技術力があるのです! それらの元を辿ればすべて『出来たらいいな』という憧れから生まれ出たものなんです!)
「だから、なんだ――」
(夕さん、私はあなたに強くなって生きてほしい。だから……だから今ここに! 女神の試練を授けます!)
彼女がそう叫ぶと、尖った鍾乳石に光が集まり、天使の羽に似たネックレスが出現したのだ。思わず立ち上がり、その美しさに見惚れてしまう。
(夕さん、あなたは魔法を使いたいと言いました。その憧れの力は無限大で、魔力とは比べ物にならないくらいの力を持ってます)
「……」
(女神の試練、それは単純に意志の強さ比べです。夕さんの今の体では私の加護を受けることを拒否し、激痛と死をもって試練の離脱を計るでしょう。しかし、自分に打ち勝てるのは自分自身、夕さんの意志の強さを世界に証明することがこの試練です)
「体が死んだら意思なんて関係もないだろ」
(いいえっ! この世界では魂と体は別です! 体が死んでいようとも魂の意志の強さが証明されれば女神は――微笑みますよ! 試練が終われば、その受け継いだ加護は保持したまま、全ての事象が過去へと戻ります。故に、体は死んでも大丈夫なのです!)
彼女が言いたいのはつまり……どれだけ生きたいか、どれだけ魔法を使いたいのか、その意志の強さを証明しろ、というものだろう。
「この世界に対して相応しいか、相応しくないか。試練されている気がしないでもないな」
絶望的な状況からは一転。俺は目に輝きを取り戻し、勢いよく、鍾乳石に掛けられていたネックレスを掴む。掴むと同時に綺麗な声が掠れて聞こえなくなっていき、視界は一瞬で暗黒に染まる。
(私は、夕さんがこの世界で生きられるように、神々の禁忌を破る覚悟で全力でサポートします。これが……私の贖罪です)
「神が贖罪なんて言葉を口にするなんて笑いものだ――その力、是非とも存分に使わせてくれ」
(夕さんなら出来ます。必ず)
ネックレスから意識を刈り取られる前に俺は
「こっちには女神がついてるんだ。だから――勝つ」
そう呟いた。
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