第10話 決戦

「間もなく小惑星帯に入ります」

マリナの声で俺は我に返った。いよいよ、決戦である。

「ポイント05cまで減速。短距離センサーと操舵を連動、自動回避モードに設定」

「ジャミング開始まで、あと8分20秒」

「全員、戦闘配置。小惑星帯に入ったら、どこに敵が潜んでいるかわからないわ。油断しないで」

「前方、小惑星多数。回避コースをマップに出します」

「思ったより小惑星の密度が高いな。もう少し速度を落とすか?」

「だめよ。これ以上時間はかけられないわ。これくらいなら、なんとかなるわよ」

これが、いつもの美月である。訓練中でも、小惑星すれすれを猛スピードで飛ばして、教官から大目玉を食らったことがある。小型艇の操縦なら腕は確かだが、こいつは超大型艦だ。はたして、それを計算に入れた操艦ができるだろうか。

「マリナ、回避コースの余裕はどれくらいある?」

「この速度だと、だいぶ少ないです。出しますね」

マリナがそう言うと、グリーンで表示されたコースの周囲を囲むように薄い黄色の領域が表示された。

「たしかに、きついな。美月、大丈夫か?」

「大丈夫よ。まだ少しでも余裕があるってことは、フライトコンピュータが追従できる範囲ってことよね」

「それはそうだが、ここで攻撃を受けたら、ほとんど回避の余裕は無いぞ」

「わかってるわ。でも、だからこそ、ここに敵がいる可能性は低いのよ」

それはそうだ。普通の奴なら、こんな無茶はしない。こいつ自身、自分の行動が他人の想像の斜め上を行ってるとわかっているから、タチが悪いのである。

「たしかに、お前の頭の中を読める奴なんかいないだろうけど、一応用心しろよ」

「なんか、気に障る言い方ね。そうよ、私の考えが読める奴なんているわけないじゃないの」

そう、ただ一人の例外を除いて・・・。それはお前もわかっているはずだ。

「一応、忠告は聞いておくわ。ケンジ、前方にプローブをいくつか展開して」

「了解、プローブを3機発射、パッシブモードで20光秒先に展開。展開完了まで90秒」


プローブは小型の探査ポッドである。中距離のセンサーを搭載し、複数機が連携して半径最大1光分の範囲を警戒できるのである。たとえば、小惑星の裏側に潜んだ敵も、先行するプローブで前もって検知できる。ただ、派手にスキャンすれば、逆に相手にこちらの存在を知らせてしまうことにもなりかねない。今回のような敵の意表を突く作戦では、自らは信号を出さないパッシブモードで相手が出す微弱な信号を検知するのが基本だ。このモードでは、検知範囲はだいぶ狭くなるが、敵に気づかれる可能性は低い。

「プローブ所定位置まであと30秒。パッシブモードの索敵範囲をマップに表示するぞ」


航路マップ上にプローブの検知範囲が表示される。3機のプローブそれぞれ、球状の探知範囲が、まだだいぶ重なっている。そして、その内側に赤い光点がひとつ。

「プローブに反応。距離、15光秒」

「敵なの?」

「反応が微弱だな。機雷の可能性がある。敵も、こういうルートは一応警戒しているようだな。どうする?」

「機雷なら、起爆範囲外を抜ければ問題ないわ。回避して先に進むわよ」

「了解。他にもあるかもしれない。一応警戒してくれ」

「それは、ケンジの仕事よ。見逃すんじゃないわよ」

「ああ、ただ、パッシブモードだとかなり範囲が制限される。いつでも回避行動が取れるようにしておいてくれ」

「わかったわ。そっちは任せなさい」

「まもなくプローブが所定位置に着くぞ。今のところ、他に反応はないな」

「気を抜かないで。これは化かし合いよ。尻尾を出した方が負けなのよ」

「わかってるさ。でもまぁ、美月の上を行く化け物はそういないと思うけどな」

「それ、どういう意味?」

「そう言う意味だ」

「ふん、何とでも言ってなさい」

美月はそう言うとちょっと真顔で前方を凝視する。こういうときのこいつの集中力は桁外れだ。小型艇の操縦席なら、それだけで十分である。だが、大型艦の指揮を執るのは、ちょっと次元が違う。周囲がこいつの反応速度に追従できなければ、かえって機動が遅くなってしまう。そう言う意味で、俺の役割の重みが増すわけだ。こいつの考えを先読み出来るのは、俺だけなのだから。


「コース変更、053、340、最短コースに戻るわよ」

「了解。ここからが勝負だな」

「敵の予想センサーレンジまであと3分17秒です」

「敵センサーレンジ到達5秒前からジャミング開始よ」

「了解した。ECMスタンバイ」

「あのさ・・」

珍しくケイが真顔で言う。

「敵は複数で、ある程度の範囲に分散していると考えれば、連携してジャミングの中心を割り出せるんじゃないの?」

「言われてみればそうね。ただ、ジャミングしなくても位置がバレるのは同じだわ」

「そう言う意味では、どちらにしても敵に居場所を把握されてしまいますね」

そう言うことになる。そうなれば、少なくともこの作戦は半分失敗だ。我々が迂回ルートをとると考えているだろう敵の意表を突くと言う意味では。ならば・・・

「美月、プローブを使ってみるか?ジャミングをかける直前にプローブをアクティブモードに切り替える。敵はプローブのスキャンに気がついて、位置を特定しようとするはずだ。そのタイミングでジャミングをかけたら、敵は混乱するんじゃないか?」

「そうね。ケンジにしてはいい作戦じゃない。褒めてあげるわ」

「それじゃ、プローブだけ元のコースに戻そう」

「それなら、3機あるプローブをそれぞれ異なるコースに入れて時間差でスキャンさせれば、さらに混乱を助長できる」

脇からそう言ったのはサムだ。

「いいわね。ケンジ、サムの作戦で行くわ」

「わかった。プローブをそれぞれ異なる軌道に入れて、こちらのジャミング開始の15秒前から5秒間隔で順次スキャンを開始する」

「いいわ。こちらがジャミングを開始する前にプローブのスキャンで、可能な限り敵の位置を把握して」

「了解だ」

なにやら面白くなってきた。うまくいけば敵に一泡吹かせることができるだろう。

「敵の推定センサーレンジまであと30秒です」

「ケンジ、用意はいい?」

「準備完了だ。5秒後から順次プローブをアクティブモードに切り替える。3、2、1、スキャン開始!」

「敵の位置は?」

「ちょっと待ってくれ、今データを読み取っている」

「敵センサーレンジまであと15秒です」

[なんだ、これは]

「どうしたのケンジ」

「敵が想定した範囲にいない」

「どこにいるの?」

「最短コースの中央に全機集まっている。これじゃ、敵の真ん中に突っ込むぞ」

「敵センサーレンジを再計算。推定検知範囲まであと3秒です」

「ジャミング開始して!」

「ECM起動、ジャミング開始」

危ないところだ。想定より5秒ほど早く敵のセンサーレンジに飛び込むところだった。

「間に合ったわね」

「冷や汗ものだな。いずれにせよ、プローブのスキャンに敵は気がついているはずだ。混乱してくれることを祈るしかないな」

「最終的な敵の検出位置は?」

「現在位置から2光秒先、現在の相対速度で40秒」

「問題は敵がどう動いているかね。プローブ3機に加えて、こちらの本体、合わせて4機のどれが本物か判断に困ってくれると助かるんだけど」

「判断できなければ、手駒を分散するしかなくなるな。それに、最初に想定したほど敵は分散していない。だとすれば、ジャミング中心の割り出しは、少し時間がかかるだろう。いずれにせよ、こちらにとっては好都合だ」

「それじゃ、一気に抜けるわよ。速度をポイント2cまで上げるわ。10秒ほどで敵の向こう側に出る。ジャミング解除と同時に索敵、攻撃するわよ」

「了解っ。攻撃は任せてよ。最大火力で吹き飛ばしてやるから」

ケイは楽しそうだ。

「あんた、無駄撃ちするんじゃないわよ。最終戦で弾切れなんて冗談はやめてよね」

「分かってるって。一撃必殺でいくから」


まぁ、これは宇宙戦ゲームみたいなものだから、負けたって命にかかわるわけじゃない。でも、みっともない負け方をしてしまえば、後々までの語り草になってしまうだろう。さすがに、後輩たちの笑いものになるのは辛い。

「恥ずかしい負け方だけはしないようにしようぜ」

「ケンジ、何を弱気なことを言ってるのよ。恥ずかしくない負け方なんてありえないわ。勝利あるのみよ。それも圧倒的な勝利ね」

「アイアイサー、艦長殿」

美月はちょっと不満そうな顔をする。まぁ、こいつの辞書に「負ける」という言葉がないのは知っている。一見無謀にも見える行動も、こいつなりに計算されたものだ。それはわかっている。だが、もし、その自信が打ち砕かれた時に何が起きるのか。幸いにも、そんな状況に陥ったことはないし、想像もつかない。もしかしたら、そんなことは起きないかもしれないのだが、俺はこいつを支えきれるのだろうか。いや、そもそも俺がそんな心配をする必要など無いはずだが、なぜか気になってしまうのである。


「ジャミング解除5秒前。4,3,2,1、解除」

「機関、フルリバース。全周スキャンで索敵、攻撃準備よ」

「了解。スキャン開始。敵位置特定、方位270、030、距離8000に一機を確認。ターゲットナンバー1に設定」

「短距離ミサイル1番から3番、ターゲット1に照準ロック。発射」

ケイが叫ぶと同時に、短距離ミサイルランチャーからミサイルが3機飛び出していく。

「敵機さらに5機を確認、ターゲットナンバー2から6に設定。追尾開始」

「ちょっと遠いわね」

「ターゲット1番にミサイル着弾。破壊を確認」

「ターゲット2から6、全機反転、向かってくるぞ」

「ふん、小型艇5機で巡航艦に向かってくるなんて、いい度胸じゃない。返り討ちにしてあげるわ」

「ミサイル検知、機数10機、こっちに向かってくるぞ。着弾まで20秒」

「フェイザーキャノン、自動迎撃モード」

「デフレクターを全周展開、船体シールド、強度最大」

「ターゲット2から6、短距離迎撃レンジ」

「短距離ミサイル4番から12番、ターゲット2から6にロック、発射」

「敵ミサイル、フェイザー射程」

「フェイザーキャノン、砲撃を開始

砲塔からフェイザーの青白い光の筋が走る。巡航艦の一斉砲撃は見応え十分だ。

「敵ミサイル全機撃墜。続いてミサイル、敵機に着弾。ターゲット2番から6番、破壊を確認」

「他に敵は?」

「周囲30光秒の範囲に敵反応なし。とりあえず片付いたみたいだな」

「ふん、こんなにあっさり片付くなんて、つまらないわね。もう少し根性見せなさいってのよ」

「まぁ、巡航艦と小型艇じゃ、それこそ飛び道具でも無い限りは勝負にならないけどな。もともとこの宇宙戦シミュレーションは、おまけみたいなもので、主戦場はサイバー側だし」

「そう言えば、ジョージのほうはどうなの?」

「こっちも、だいぶ賑やかになってるよ。中層に、かなりの敵が入り込んできている。まだ大部分はサムが仕掛けたトラップにハマっているけど、そろそろ深層との境界に到達する奴が出てくるかもしれないね」

「それじゃ、そろそろサムもそっちに戻った方がよさそうだな」

「そうね。最悪、こっちのほうはフルオートにして、全員でサイバー戦に回った方がいいかもしれないわ」

美月がそう言い終わったのと同時に、突然大きな衝撃があって、ブリッジの照明が赤い非常灯に切り替わった。


「何事?」

「ちょっと待て。今調べてる。主機関停止、艦首シールド43%、艦首部分の装甲、一部破損。デフレクター出力、65%に低下」

「どういうこと?」

「攻撃を受けたようだ。それも相当強力な、少なくとも巡航艦の主砲クラスの攻撃だ」

「まさか、今回の相手に巡航艦クラスはいないはずよ」

「そのはずだが、この攻撃はそうとでも考えないと・・・。今、攻撃元の位置を割り出すぞ」

「とりあえず、艦首方向のシールド強化、デフレクターを全部艦首方向に集中させて」

「了解。だが、パワーがかなり落ちているから、このレベルの攻撃には気休め程度にしかならないが」

「いいから無駄口たたいてないで、敵の位置を割り出しなさい」

「攻撃元は、第6惑星付近だな。しかし、ここからはまだ1光分以上の距離だ。そんな長距離砲撃で、正確に船を狙えるなんて信じられない。しかもこの威力だ。本当にそうなら、こりゃ巡航艦どころじゃ無いぞ」

「考えている暇は無いわ。とりあえず移動するわよ。動いていないとまた狙われるわ。主機関を再起動して」

「ちょっと待ってくれ、これは俺の手に負えそうに無いぞ。ジョージ、すまないが手を貸してくれ」

「了解。サム、ちょっとこっちを頼むよ」

「了解。深層境界の対応は任せて」

「どれ・・・、うーん、これは反応炉が不安定化してるね。たぶん、砲撃を受けたショックでエネルギーがシールドから逆流したからだろう。だから安全装置が作動して、出力を絞り込んだんだ。ちょっと待ってくれ、今リセットするから」

「急いで。のんびりしてるとまた砲撃が来るわ」

美月がそう言った直後、また大きな衝撃があって、ブリッジの照明がすべて消えた。


「また攻撃だ。こりゃまずいな」

「まだゲームオーバーにはなっていないみたいね。ケンジ、ダメージは?」

「前方シールド及びデフレクター消失、艦首装甲、前部第一砲塔破損。非常用エアシールド作動中。主反応炉停止、非常用パワー残量75%。結構きついな」

「ジョージ、パワーは復旧できそう?」

「ちょっと待ってくれるかな。今確認してる」

「時間が無いわ。次を食らったら最後よ」

「わかってる。主反応炉の起動は時間がかかりそうだ。かわりに非常用ジェネレーターを使おう」

「とりあえず、ここから動かないとまずいな。せめて補助動力が使えればいいんだが」

「ジェネレーターを起動すれば、補助動力はとりあえず使えると思うよ。ただ、あまり遠くには行けない。こちらの移動に追従されたらアウトだけど・・・よし、非常用ジェネレーター起動」

ジョージがそう言った直後、ブリッジの照明が戻る。

「急いでここから動くわよ。補助動力起動、フルパワー、針路270、090」

「とりあえず、ダメージの対応を急ごう。ジョージは主反応炉の再起動をたのむ」

「了解。大きなダメージはないみたいだから、5分ほどで再起動できると思うよ」

「問題は次の攻撃がいつ来るかよね」

「最初の攻撃から次の攻撃までの間隔は5分ほどだ。それが相手の砲撃インターバルだとすれば、あと1分ちょっとで次が来る」

「ねぇ、敵はこっちの位置がわかってるの?」

「おそらく。1光分程度の距離なら長距離センサーで、だいたいの位置はつかめるはずだ」

「だったら、少しくらい動いてもダメなんじゃない?」

「そういうことになるな。でも、主機関が使えない以上・・・いや、待てよ。美月、コースを変えろ、今すぐにだ」

「な、なにを・・・。そうよ、コース変更090、120。以後、20秒から40秒間隔でランダムにコースを変えるわ」

「ケンジ、どういうこと?」

「長距離センサーは亜空間を使うから、リアルタイムに測位ができるけど、砲撃はちがう。おそらく敵の武器は高密度プラズマキャノンだ。砲撃は光速を超えられないし、最も高速の砲撃でもポイント6cくらいだろう。だとすれば、着弾までには2分弱かかることになる。相手は2分前にこちらの動きを読んで照準を合わせる必要があるんだ」

「そっか、敵が撃ってからコースがランダムに変われば追従できないってことね」

「問題は砲撃の有効範囲がどれくらい広いかね。最初の一撃はかなり強力だったけど、二回目のは、それより弱かった。つまり、二回目は中心を外れていたか、敢えて有効範囲を広げるためにビームを拡散したかどちらかだわ」

「そう考えると、次の砲撃も範囲を広げてくる可能性が高いな。こっちの移動速度が遅いのには気がついているはずだ。今の状態じゃ、少しでもかすればアウトだし、それを前提に範囲を広げてこられるとまずいな」

俺がそう言い終わったと同時に、また衝撃が来た。だが、今回はそれほど大きな衝撃ではない。

「外れてくれたか。助かったな」

「それでもダメージはあるよ。今の僕らはノーガードなんだ。艦首の装甲が破損しているから、少しでも食らえば傷口が広がる。反応炉もまたちょっと不安定化してるから、起動に2,3分余計にかかりそうだよ」

「まずいわね。このまま攻撃を食らい続けたら、そのうちリカバリーできなくなるかもしれないわ。ケンジ、何かアイデアはないの?」

いきなり俺に振られても困る。だが、このままじゃ、なぶり殺しだ。

「ねぇ、ケンジ。さっきのプローブはどこに行ったの?あれ、砲撃の検知に使えないかな」

そう言ったのはケイである。

「そうか、ちょっと待ってくれ・・・。うん、まだ生きてるな。これを砲撃が来る方に展開してやれば、回避する余裕ができる」

「あんたにしては、珍しく頭がまわるじゃない。ケンジ、回避に20秒ほど欲しいわ」

「わかった。プローブを第6惑星方向20光秒から30光秒先に分散して展開する。展開完了まで90秒」

「ジョージ、パワーは?」

「もう2分待ってくれないか。パワーが復旧したら主機関は30秒ほどで起動できるから」

「急いでちょうだい。時間が無いわ」

「了解。出来るだけ急ぐよ」

「ケンジ、破損箇所の修復は?」

「ドロイドに回すパワーが少ないからまだ20%ほどだ。主反応炉が復旧しないと厳しいな」

その時、いきなりアラームが響く。

「砲撃を検知。着弾範囲をマップに表示する。着弾まで15秒」

「回避行動。針路320、040、補助動力全開」

俺たちの船は、マップ上に赤く表示された着弾範囲と、わずかに重なった状態だ。

「着弾まで10秒」

マップ上の船の動きがスローモーションのように見える。逃げられなければアウトだ。

「際どいぞ、ショックに備えろ」

「大丈夫よ、回避できるわ」

美月が言うとおり、船はギリギリのタイミングで着弾範囲から離脱する。

「冷や汗ものだな。さすがに補助動力だけだと動きが鈍い」

「それも計算済みよ。ドンピシャで狙われたらちょっときついけど、動き続けていればなんとかなるわ」

「よし、主反応炉を起動するよ。うまく行ってくれ」

ジョージがそう言うと、間もなく機関のエネルギーゲージが上昇しはじめた。

「うまく行ったみたいだね。それじゃ主機関の起動準備に入るよ」

「よし、修理ドロイドにもパワーをまわせるな。修理を急がせよう。防御シールドを復旧。デフレクター出力70%から上昇中」

「マリナ、第6惑星へのコースを出して。一気に叩くわよ」

「最短コースだと直撃を受ける恐れがあるので迂回コースを出しますね。敵の進路予測を妨害するために、ランダムにコースをシフトさせます」

マリナがそう言うと、マップ上にコースが表示される。

「主機関が復旧し次第、攻撃開始よ」

「ちょっと待て、美月。いきなり突っ込むと不意打ちを食らう可能性もあるぞ。そもそも、あの砲撃だって想定外だ。他にも短距離の武装がある可能性もあるんじゃないか?」

「そだねー、ケンジが言うとおり、そう考えるのが自然かも知れないよ。まだ前部砲塔も復旧出来ていないから、こっちの火力も限られるし、慎重に行った方がよくない?」

美月はちょっと不満そうな顔をする。だが、こいつも猪突猛進ばかりのバカじゃない。

「そうね。ちょっと弱気な感じはするけど、こっちも手負いだし、あんたたちの言う通りかもしれないわ。ケンジ、プローブを使って偵察できるわよね」

「ああ、だが、たぶん敵の射程内に入ったとたんに破壊されるだろうな」

「それでいいわ。少なくともその攻撃がどこから来るかはわかるじゃない」

「それじゃ、さっきやったのと同じ方法で行こう。プローブを時間差で飛ばして、順次スキャンをかける。敵はスキャンに気づいて攻撃してくるはずだから、それで位置を特定しよう」

「主機関起動。通常航行が可能になったよ」

「それじゃ行くわよ。長距離センサーレンジでジャミングをかけて突っ込むわ。ケンジはプローブを先行させて、ジャミングが切れたらスキャンを開始して」

「了解」

「それじゃ、ジャミング開始、前進よ。ケイは攻撃準備を」

「了解でーす」

「速度、ポイント2c、コースは自動設定」

「推定される敵勢力範囲まで2分45秒」

「プローブは本艦より10光秒から20光秒の範囲で先行中」

「2分30秒後にジャミング解除。ケンジ、それと同時にスキャンを開始して」

「了解」

マップ上に表示された敵の勢力圏が、だんだん近づいてくる。もちろんこれは通常の長距離兵器の有効射程を考慮した推定値だ。もし、さっきの攻撃に使われたような想定外の武器が他にもあれば、ずっと手前で攻撃を受ける可能性はある。ただ、ジャミングによって長距離ミサイルなどの誘導は妨害されるので、使われるとすれば長距離砲のたぐいだろう。敵の照準はコース変更である程度外せる。だが、距離が近くなるにつれ、それも難しくなってしまう。しかし敵は、というかゲームの参加者たちは、いったいどうやってこんな武器を用意したのだろう。少なくとも、こちらが用意したシミュレーションには存在しないものだ。敵サイドにも相当優秀なプログラマーがいるに違いない。他にも反則級の武器が用意されている可能性がある。そうなると、こちらも今の装備のままでは分が悪い。

「ケンジ、ちょっとこれを見てくれないか」

ジョージが指さした先には、一つのパネルが表示されている。

「これは?」

「第6惑星のマップだよ。ネットワークで繋がっている例のゲーセンのサーバ上にあったんだ」

「ということは、ハッキングしたのか?」

「うん、前にもやったけど、あのサーバも結構穴だらけだからね。で、問題はここだよ」

ジョージが指さしたエリアには、無数の砲塔やミサイルランチャーなどが並んでいる。中央にあるのが、例の砲撃に使われた長距離砲だろう。まるで要塞のようだ。

「なんだこれは。こんなの反則だろ」

「僕もそう思う。これをまともに相手にしたら、今の僕たちじゃ太刀打ちできないよ。大規模な巡航艦隊でも撃破されそうな武装だからね」

「これじゃ飛んで火に入るなんとやらだな。美月、コース変更だ、第6惑星から離れろ、急げ」

「いいけど、どこへ向かうのよ」

「第6惑星はパスして、直接第4惑星に向かおう。わざわざ罠にはまることはない」

「そうね。でも、そう簡単に行くかしら。コース変更、第6惑星回避。マリナ、第4惑星への最短コースを出して」

「コース投影します。距離32光分、ポイント03cに増速して約100分です」

「いいわ。コース変更。速度ポイント03cに増速。ケンジ、ジャミングを解除して周辺をスキャンして」

「了解。ジャミング解除。スキャン開始。後方、第6惑星軌道上に反応多数。これは・・・敵の攻撃艇か。機種はSF2A、機数50機、冗談だろ」

「どういうこと?最新型のSF2Aが50機も?嘘よね、それ」

「いや。こりゃ、マジでヤバいぞ。SF2A50機にたかられたら、あっという間にバラバラにされてしまう」

「でもさ、そもそもそんな数の宇宙艇を動かせるプレイヤーはいないはずなんじゃないの?おかしくない?」

「ケイの言う通りよ。ジョージ、これはどういうこと?」

「おそらくAIを使った自動制御だと思うよ。本来、ここまで大規模な自動システムを動かせるほどの能力は用意していなかったんだけど、あのゲーセンのサーバ自体は、めちゃくちゃ高性能だから、それを占有できれば十分可能だと思う」

「でも、営業中のゲーセンでそれは無理なんじゃないか?他のプレイヤーもいるだろ」

「そのはずなんだけど、もしかしたら誰かがサーバを乗っ取った可能性もあるね。実際、さっきアクセスした時の感じは確かに異常だった。動いているプロセスの数が少ないというか、このシミュレーション以外には何も動いていない感じだったよ」

「もしかして、それが先生の言っていた騒ぎの原因でしょうか」

「あり得るわね。何者かがサーバを乗っ取って、他のプレイヤーを閉め出したのかもしれないわ」

「どうやら悠長に議論している時間はなさそうだ。急いで対応しないとボコボコにされるぞ」

「でもさ、そんな相手にどう対応するの?」

「武器屋のあんたがそれを言う?何か考えなさいよ」

「それじゃ、スタコラ逃げる・・・とか?」

「あんたね」

「いや、それがいいかもしれないよ。ついでに第4惑星まで一気に飛ぶ」

「ジョージ、それってまさか・・」

「そう。ワープするのさ」

「それ、ありなのか?もともと惑星系内でのシミュレーションだし、ワープは想定していないんじゃ・・・」

「本来はね。でも、この船のシミュレーションは、もともとスペースガード用のフレームワークを使っているから、機能としては組み込まれているんだ。それをアクティベートすれば、この仮想宇宙空間でもワープはできるよ」

「それなら、やるしかないな。先に反則技を使ったのは向こうだしな」

「そうね。それで、そのワープはどれくらいリアルなのかしら?」

「リアルだよ。艦隊のシミュレーションでも使えるように、周囲の空間シミュレータとのインタラクションも完全に実装されてる」

「なるほど。それは面白いわね」

美月はにやりと笑う。

「どういう意味だ、美月」

「やってみればわかるわよ。すぐに準備して」

「了解。それじゃ、ワープ機能をアクティベートするよ。これでナビゲーションと操縦システムにワープ用の機能が追加されるはずだ」

「確認したわ。マリナ、コースを第4惑星に設定して、ワープレベル3よ」

「了解しました。コースを計算しますね」

「ケンジ、敵の様子は?」

「どんどん間が詰まってきている。もう少しで長距離ミサイルの射程に入るぞ」

「長距離レンジのジャミングをかけてちょうだい。それで、長距離ミサイルはとりあえず封じられるから、敵はもう少し距離を詰めないといけなくなる」

「攻撃する?」

「手は出さなくていいわ。出来るだけ引きつけてちょうだい」

「何をする気だ、美月」

「いいから見てなさい。ワープ機関スタンバイよ」

「了解。機関始動、アイドリング状態。いつでも飛べるぞ」

「短距離レンジにもジャミングをかけて。接近戦に誘い込むわ」

「巡航艦と攻撃艇の戦闘の戦術としては真逆なんだがな」

「いいのよ。さぁ、もっと近づいていらっしゃい」

美月の顔に意地悪い感じの笑みが浮かんでいる。ちょっと背筋が寒くなる。いったいこいつは何を考えているのか。いや、そうか、そう言うことか。美月らしい意地の悪い戦術だ。

「敵先鋒、主砲射程」

「今よ、ワープして」

「ワープフィールド展開、レベル3でワープ」


ワープ航法は、我々の通常空間に対して余剰次元方向に並行した亜空間を航行する航法である。亜空間は余剰次元の方向に対して極端に歪んでいるため、その中を航行することで、通常空間をショートカット出来るのである。ちなみに、ワープレベルとは通常空間の光速に対しての倍率の2を底とした対数である。つまり、ワープレベル3は光速に対して2の3乗、つまり8倍の速度ということになる。


「ワープ正常。レベル3で航行中」

「とりあえず逃げられたみたいだな」

「でもさ、相手はSF2Aでしょ。ワープユニットを装備してたら追いかけてくるんじゃないの?」

「ふふ、それは大丈夫よ。少なくともしばらくは無理ね」

「えーどうして?」

「ケンジ、説明してあげなさいよ」

そこで俺に振るか。こいつは俺が作戦を理解していることを知っているのか。まぁ、俺が美月の作戦に無意識に気付いたのと同様に、俺が考えていることも美月には筒抜けというわけだ。そもそも、それが互いに腐れ縁と呼ぶ理由でもあるわけで。

「考えて見ろ。普通、他の船に目の前でワープされたらどうなる?」

「そっか。重力波でもみくちゃだね。まして大型艦にやられたら大変だ」

「その通りよ。悪ければ船は破壊されるわ。良くても乗員はひどい船酔いになるわね。向こうのシミュレーションが、例のアカデミーから提供されているものなら、そのあたりも忠実に再現されるはずよ」

「つまり、相手は少なくともしばらくは行動不能になるということですね」

「そうよ。だから、そのうちに第4惑星まで飛んでしまうわ」

なんて奴だ。もちろん、それが美月なのだが、こいつだけは敵に回したくない。

「目標座標まであと3分です」

「第4惑星周辺のマップを出してちょうだい」

「マップ出します」

マリナがそう言うと、前方に第4惑星周辺の3Dマップが表示される。

「我々のワープアウトポイントと、第4惑星基地の座標を出します」

「ケンジ、敵の配置は推定できる?」

「そうだな。第4惑星基地はそこそこの火力を持っているから、少なくともその射程外で、我々を待ち構えているとみるべきだろうな。だとすれば、このあたりか」

「そうね。問題は敵の勢力がどれくらいか、だけど」

「さっきのこともあるし、もう巡航艦隊が出てきても驚かないな。まぁ、そうなったらゲームオーバーだけど」

「その可能性は十分あるわね。でも、飛び込んでみないと本当のことはわからないわ」

「いや、そうでもないよ。これを見てくれないか」

ジョージが言うと、マップに光点が表示される。

「これは?」

「例のゲーセンのサーバにあったデータだよ。これもあのシミュレーションの一部みたいだね」

「ということは、この戦力も好き勝手に増やせるのか?」

「いや、戦力はサーバの処理能力に依存する。だから、無尽蔵というわけじゃないよ。実際、この戦力は少ないと思わないかい?」

「確かにそうね。巡航艦なしで基地攻略なんて無理よ」

「つまり、奴らのターゲットは基地じゃないということか?」

「そう見るのが妥当だろうね。この配置は、明らかに僕たちを待ち受けている感じだね」

「美月、ちょっと時間が欲しい。速度を落とせ」

「わかったわ。ワープレベル1に減速。これであと5分くらいは稼げるわ」

「でもさぁ、それなら巡航艦を持ってきて艦隊戦にしたほうが楽じゃない?」

「うん、つまり、巡航艦で対抗するにはリソースが足りないということなんだろう。火器管制のシミュレーションだけでも攻撃艇数十機分の演算能力が必要になるからね」

「だけど、第6惑星の基地と攻撃艇の分を回せば可能なんじゃないか?」

「たしかにそうだね。おそらく、この攻撃艇は第6惑星の基地に使っていた能力を回したんだろう。でもそれだけじゃ足りない。50機のSF2Aに使っていたパワーがあれば、それだけで巡航艦一隻分にはなるけど、巡航艦シミュレーションの構築にはある程度時間が必要だから、手っ取り早く攻撃隊を使ったんじゃないかな」

「ということは、我々が前方の攻撃艇と戦っている間に、背後から襲う作戦ね。ナメたまねしてくれるじゃない」

「ああ、シミュレーションを再構築しない場合、さっきのダメージからの回復には多少時間がかかる。前方の奴らは時間稼ぎだろうな」

「となると、正面から行ったらまずそうだな。ワープアウト直後に一気に加速して第4惑星基地の射程内に入って支援を得る形がいいかもしれない」

「ところで、第4惑星基地は大丈夫なんでしょうか。もし、既に陥落していると前提がすべて崩れませんか?」

「それは大丈夫。基地のシミュレーションはこちら側のシステムだからね。ただ、こちらの演算能力にも限界があるから、武装は限定的なんだよ。最大限にパワーをまわしたとしても、この船ほどの火力にはならないかもしれない」

「だとすると、敵の増援が来た段階でアウトだな。他に手は無いのか」

「まぁ、無いわけじゃないけど、そこまでやるか、って話だね・あくまでこれは、限られた世界の中でのゲームだし」

「そうですよね。最悪負けてしまっても、それだけの話ですから。それに、相手側は反則技を使ってるわけですし」

「言われてみればそうかもしれないな。そこまでムキになることも・・・」

「ちょっと待ちなさいよ。ここで諦めるわけ?私は嫌よ。それに、相手側がサーバを乗っ取ってしまったってことは、単なる負けで終わらない可能性だってあるわよね」

「どういう事だ、美月」

「ゲームセンターのサーバって、プレイヤーの仮想現実や拡張現実を制御してるのよ。プレイヤーは、サーバに対して、DIユニットを介して接続を行う際に、感覚神経系へのアクセス権限を与えているのよ。もし、サーバを乗っ取った奴がそれを悪用しようと考えたらどうなるの?」

「今、ゲーセンに閉じ込められているプレイヤーたちに危害が及ぶ・・・と?」

「その可能性はある。少なくとも、このまえのDIユニットハッキング事件と同じ事はできるはず」

これまで黙っていたサムが口を開く。

「つまり、彼らが人質にされている、ということでしょうか」

マリナが心配そうに言う。

「そうよ。ここで私たちがゲームを放棄すれば、犯人は何を始めるかわからないわ。だから、このまま継続しながら、なんとかしてサーバを取り戻すしかないのよ」

「それなら奥の手を使うしかなさそうだね。こっちのサーバの演算能力を大幅に上げる手がひとつあるんだ」

「ユイか?」

「そうだよ。ユイとの間には緊急連絡用のチャネルがあるんだ。それを介してユイと、もし必要があればアカデミーのセンターコンピュータの演算能力を使うこともできる」

「それなら、第4惑星基地の強化も十分できるな」

「それどころか、巡航艦隊だって出せるよ」

「おお、派手に撃ちまくれそうだね。やっとケイさんにも出番が・・」

「待ちなさい。勝てばいいって話じゃ無いのよ。勝っても負けてもゲームが終われば同じ事よ。できるだけ戦闘を長引かせて、その間にサーバをなんとかしないといけないわ」

「そうだな。でも、サーバ奪還は可能なのか?」

「サーバへの侵入ルートは確保してあるから、奪還はそれほど難しくないと思う。でも、その前に、少し情報収集しないといけないと思うんだ」

「トラップが仕掛けられている可能性にも注意が必要。できれば犯人の侵入経路を発見してトレースバックしたい」

「わかったわ。そこはジョージとサムに任せるから作戦を立ててちょうだい」

「そろそろワープアウト座標です」

「みんな準備して。ワープアウトしたら、一気に基地の射程内まで飛ぶわ。ケイ、基地の火器管制システムにアクセスして、撃ちまくってちょうだい」

「了解っ。基地の火器管制システムにアクセス、こちらのシステムと同期完了」

「行くわよ」

その直後、船はワープアウトし、目の前に赤茶色の第4惑星が現れた。

「索敵開始。敵の機数20機、機種はSF2A。攻撃してくるぞ」

「シールド全開。長距離ジャミング開始。機関全速、第4基地の主砲射程まであと20秒」

「向こうの方が足が速い。短距離射程まであと10秒ほどしかないぞ」

「短距離ミサイル発射準備、それから敵のミサイルの迎撃準備よ」

「了解。短距離1番から8番発射準備。フェイザーキャノン、短距離センサー連動、自動迎撃モード」

「来るぞ」

「敵目標1番から8番をロック、短距離ミサイル発射」

ミサイルが8発、敵に向かって飛んでいくが、命中しない。

「敵が短距離レンジにジャミングをかけてきたぞ」

「接近戦に持ち込むつもりね。こっちもジャミングかけるわよ。接近戦の用意をして」

「了解、短距離レンジでフルパワーのジャミング開始」

「フェイザーキャノン砲塔、自律照準モードへ移行。攻撃を開始」

敵は一気に群がって攻撃を仕掛けてくる。ジャミングによって精密な誘導が出来なくなっているから、近距離でミサイルやフェイザーを打ち込んで来るのだが、小回りが利く分、敵の方が有利である。

「敵ミサイル着弾。3番砲塔破損」

「敵1番、5番、7番撃墜、残り17機」

「フェイザーはミサイル迎撃にまわして攻撃機はプラズマキャノンで叩くのよ」

「了解。プラズマキャノン斉射。敵3番、4番、6番撃墜」

「敵が離脱していくぞ。体制を整えるつもりだな」

「そうは行かないわ。そろそろよね」

「間もなく第4惑星基地主砲射程です」

「おびき寄せて叩くわよ。主砲準備して」

「主砲エネルギー充填します」

美月は船を加速させる。体制を立て直した敵は、また背後から接近してくる。

「いいわ、叩き落としなさい」

「主砲、攻撃開始」

ケイがそう言うと、惑星表面から、強烈なビームが幾筋も発射され、敵の攻撃艇はあっという間に蒸発する。

「敵9番から15番消滅。残存機は離脱します」

「とりあえず、これで一息ね。まぁ、この後が大変だけど、今の火力なら問題なさそうね。これで敵も迂闊に近づけないはずだわ」

「よし、いまのうちに被害を修復しておこう。ジョージの方はどうだ?」

「うん、ユイの演算能力を借りるほうは、うまく行ってるよ。さっきの砲撃もだいぶ火力が大きくなっているしね。あとは、乗っ取られたサーバを取り戻す手段を考えないといけないな」

「そこもユイの力を借りられないのか?」

「そうしたいところなんだけど、ユイからサーバへの直接のパスがないから、ちょっと無理なんだよ。かわりに、こっち側の支援を頼もうと思ってるんだけど」

「こっち側?」

「ユイの音声回線を開くから、話を聞いてみてよ」

ジョージがそう言うと、聞き慣れた声が飛び込んできた。

「皆さん、ユイです。また一緒に仕事ができて嬉しいです。もともとゲームセンターのサーバとアカデミーの間には、戦術データをシミュレータから収集するためのチャネルがあったのですが、現在、それが使えなくなってしまっています。原因は不明ですが、サーバのハッキングとなんらかの関係があると推測されます。現在、アカデミー側でも調査中ですが、当面、こちらの基地の火力管制をサポートします。現在、長射程プラズマキャノン及び、大型のミサイルランチャーを構築中です。間もなく使用可能になります」

「こっちの戦術はわかってるわよね」

「はい。サーバ奪還のための時間稼ぎですね。想定される敵機はSF2Aが50機ですから、現在の主砲とミサイルでも対応が可能です。敵を射程内に入れさせないように弾幕を張ります」

「それでいいわ。ケイはもし抜けてきた敵がいたら迎撃して」

「了解。まぁ、ユイの攻撃を抜けてくる敵がいるかどうか怪しいけどね」

「ケイ、油断するなよ。敵だってまだ隠し球を持ってるかもしれないからな」

「へい、了解」

「20光秒先に重力波源を検知しました。敵がワープアウトします」

「来たわね。戦闘準備よ」

美月がそう言った直後、船体がぐらりと揺れた。

「何よ、今の衝撃は」

「強い重力波だな。攻撃艇のワープアウトにしては大きすぎる」

「ねぇ、あれ・・・」

「何よこれ、信じられないわ。反則もいいとこじゃない」

ケイが指さした方向を見て、俺たちは絶句した。そこには、大型の巡航艦が5隻、そして無数の攻撃艇の姿があったのである。

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