Web小説史に残るマスターピース

前作から引き続いての拝読です。

人一倍お人好しでまっすぐな性格の主人公・月ノ下真守。彼よりも少し実際的あり、豊富な知識を蓄えている頼れるヒロイン・星原咲夜。二人の高校生が学校内で起こる様々なトラブルを解決しながら、気づきや教訓を得てともに成長していく『放課後対話篇』シリーズの3作目です。

ミステリの楽しさ、社会的風刺の刺激、そして学園モノの醍醐味である爽やかな読後感を与えてくれるのが本シリーズです。本作は5つの短編で構成されております。(特に気に入った1編を選んで紹介するつもりでしたが、どれにするか決めかねるほど全篇が面白かったので全篇紹介したいと思います。)

1)「金の価値と「落書きの止め方」」
ヒロイン・星原さんの家の堀にスプレーで落書きされる事件を主人公・月ノ下くんが”金の価値”をうまく使って解決へと導くお話です。
個人の表現方法とそれを行う場所、そしてお金や他者からの評価という報酬について、とても勉強になるお話でした。
2)「怪談とアジテーター」
ある日、月ノ下くんがクラスのメンバー数人と肝試しをする計画が持ち上がった。しかしその肝試しを中止にしてほしいという依頼がクラスメイトの平井くんから月ノ下くんのもとへ来る。平井くんはなぜ肝試しを中止にしたいのか、どのようにして計画を中止にさせるかというお話です。「作り出された雰囲気にどう立ち向かうか」というテーマを、学園内にありがちな同調圧力に落とし込んでくれているため、誰にも理解しやすいです。また、本作には珍しいホラーチックなストーリーも見所です。
3)「幽霊部員とマクガフィン」
演劇部の部員に佐藤進くんという人がいる。しかし彼は幽霊部員のようで、演劇部の仙川さんは彼の姿を一度も見たことがないらしい。仙川さんの依頼を受けた月ノ下くんと星原さんは、幽霊部員・佐藤くんの正体を突き止めることになりーー。
興味を惹かれる謎から、意外な答えが飛び出てきます。リドルストーリーやマクガフィンなどの文学技法についての勉強にもなりました。星原さんのホームズっぷりと月ノ下くんのワトソンっぷりにも注目です。
4)「心理テストと疑似相関」
本作のサブヒロイン・日野崎さんからの以来で、彼女の妹を尾行することになった二人。なんでも妹と相合傘をしていた男との関係が気になるらしい。妹と彼の下校の様子を観察し、そこから彼について様々なことを推測する3人はエスカレートし、相関関係から心理テストまでを駆使し、彼のことを分析していきます。
結果として誰よりも意外な一面が明かされたのは日野崎さんの妹でもなく、妹と相合傘をしていた彼でもなく、日野崎さん自身であったことが面白いです。月ノ下くんと星原さんの関係にも進展があったりなかったりします。
5)「「弱者の強み」と見えない監視者」
日野崎さんから「うちの部の様子がおかしい」と相談を受けた二人は、日野崎さんの所属する女子サッカー部を調査する。本来伝わるはずのない情報が、顧問である飯田橋先生に伝わっていることが頻発しており、部内の誰かが顧問へ告げ口をしているのではという考えが部内での疑心暗鬼を生んでいた。事態の収束を図る二人は、誰が顧問への告げ口を働いているかを特定することにした。
ミステリー色が強めだったこともあり、冒頭から一気に集中して読ませていただきました。この章のテーマである「弱者と強者の立場の違いによって浮き彫りになる人間性の一面」に関する文章に、星原さんの意見がかっこいいなーと思いつつ、つい我が身を振り返ってしまいます。月ノ下くんも星原さんも日野崎さんも、それぞれに考え方が違って、それでもお互いのことを心から尊敬し、またそれを相手に素直に伝えることができることがとても眩しく映りました。

全体を通して文章がとても綺麗で、ライトに読めながらも深みのあるお話にいつも胸を打たれます。全体的にダークなテーマを取り扱いつつも、それをただダークなままでは終わらせないところが、私はとても好きです。
星原さんの知識や、月ノ下くんの考え方や行動を目にするたび、こんな人たちが実際に自分の周りにいたらいいのになと、つい考えてしまうのが止められません。しかしそれは無論無茶な願いだとわかっているので、せめてこの作品を通して、また二人に出会える日を心から楽しみにしています。
素晴らしい作品をありがとうございました。

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