この作品群の魅力は、なんといってもその独特さにあります。
お人好しでなにかと事件に巻き込まれる月ノ下君と、クールで物知りな星原さん。
この二人が学園で巻き起こるトラブルを解決してゆくミステリー小説です。
もちろんこの物語の魅力はそれだけじゃありません。
このトラブルにはそれぞれトリビア的なテーマが隠されており、人間の不思議なところ、社会のおかしなところ、などなどが披露されていきます。
このテーマ性が実に面白いと同時に、それをミステリーで描いていくというところにこの物語の面白さがあります。
たとえばカリフォルニアの娘症候群。
知ってましたか?
では、これまで無関係だった第三者が突然やってきて、正論じみたものを並べて、これまで進めてきた計画を全部ひっくり返してしまう、そんなシチュエーションにあったことありませんか?
まぁ興味があったら、このエピソードを見てみてください。
とにかく、こんな物語普通は書けません。
だからこそ、この物語は唯一無二の面白さなんです。
月ノ下君と星原さんの友達と恋人の微妙な距離感。
二人をとりかこむキャラクターの多彩さと面白さ。
起こる事件の不思議さと、やがて現れる意外な真実。
青春小説の面白さとミステリーのなぞ解きと、テーマから立ち上ぼる哲学的な問題と。
このシリーズはぜひ第一シリーズから追いかけて楽しんでほしい!
毎日の通勤、通学時間が楽しくなること間違いなしです!
「四人いないと殺人事件はミステリとして成立しない」と昔からよく言われます。登場人物が三人だと、誰が犯人か、推理するまでもなくわかってしまうからです。
その例は極度に簡潔だとしても、ミステリというものは常にコミュニティの中で生まれるということを、このことはよく表していると解釈することも可能であると私は思います。
この世界は無数のコミュニティで構成されています。ひとつのコミュニティはたくさんのコミュニケーションの連続から成り立っており、コミュニケーションは、いわば小さな推論の連続です。とすれば謎解きは小さなコミュニティを、果ては世界を構成している一単位であると見做すこともできましょう。
謎解きとコミュニケーションが互いに不可分な関係にあるためだと私は思います。
ですから、優れた(というよりも私が面白いと感じる)ミステリ小説は、謎解きのトリックだけではなく、その機会を生むコミュニケーションの段階から、すでに優秀なことが多いです。本作『放課後対話篇』も、そんな作品のひとつです。
大きな社会問題も、相対的に小さな学校のコミュニティが抱える問題でも、共通の思い込みや偏見、価値観の違いや異文化への不理解が根本に潜んでいることがあることを、本作は幾度となく指摘しています。
それら問題には往々にして、根本のところでコミュニケーションの、そして謎解きの不正確さが存在します。
コミュニケーションは、相手を正しく理解しよう・相手に自分を良く理解してもらおうとするところから始まります。その中で生じる不首尾な結果は、やはり謎解きの不正確さから来るものです。
それを当事者や依頼人を通して、正確に事件を紐解くのは、ミステリでいう探偵の役割です。
日常から少し離れた、謎めいたイレギュラーなことが起こる。それが無事に解決をみて、その全貌がコミュニティに還元され、コミュニティの質が変容・再形成されていく。それはまるで行きて帰りし物語かのようにもみえます。
本作の主人公の月ノ下くんは、これまで学校で数々の謎解きをしてきました。それはコミュニティの体質を変えると同時に、月ノ下くん自身や、彼の周りの人物にも大きな影響を与えて来たようです。そんな彼らの今後がどのように雪世さんの筆によって描かれるのか、これからも楽しみにしています。
待望の放課後対話篇シーズン5!
あの二人と愉快な仲間たちが帰ってきた!!
学園の謎を解くために、月ノ下くんと星原さんが語る今日の放課後対話とは――?
二人の会話は、きっとあなたの「言葉にできない想い」を代弁してくれるはず。
【マイノリティの憂鬱と卒業生への贈り物】
卒業シーズン。二人のもとに、一年生の狛江いずみというテニス部員が相談しに来た。
その内容は、「テニス部の卒業生に贈り物をするはずだったのに、誰かが『自分になりすまして』妨害した」というもの。
聞けば、多数決で贈り物することが決まったものの、部内の考え方が多数派が少数派に、少数派が多数派に変わったらしく…。
少数派が多数派に勝つ方法とは?
【写真コンテストと「環境管理型権力」】
いよいよ月ノ下くんたちも3年生。入学してきた日野崎さんの妹巴ちゃんが、「加入していたサークルの副リーダーが行方不明になった」と相談してきた。
その副リーダーは毎回サークルに顔を出していたものの、もう三日も顔を出していないという。
しかし、その副リーダーの正体とは…。
その正体を知り、あんまり深刻に考えていない月ノ下くんと明彦くんだったが、探しているうちに、「写真部が他の部の部員募集の看板を製作するのに協力するようになった」ことが気になり…。
副リーダーを追いかけていくうちに見えた、写真部のある意外な真相とは?
【セルフステージと壊された鉢植え】
濡れ衣を着せられた青梅ほのかを気にかける、正義感の強い日野崎さん。聞けば、園芸部からバラの鉢植えを壊したと疑いを掛けられているという。
月ノ下くんは真相を探るが、調べれば調べるほど、誰も犯行を実行できそうになくて…。
果たして、真犯人は別にいるのか。それとも本当に青梅さんが犯人なのか。
どんなハンデを負っても、ある場所でなら活躍できる。そんな願いが秘められた"真相"とは。
【「カリフォルニアから来た娘症候群」とモニュメント騒動】
あまりウマが合わない清瀬さんに持ちかけられたのは、『モニュメント騒動』事件。
その内容は、「撤去されるはずだった『小鳥の石像』が壊された」というもの。撤去反対運動をしていた郷土研究部員は、誰かが自分たちの活動を妨害するためにやったと考えており…。
だが明かされた真相は、とんでもないものだった!
誰かを利用する利己的な思惑と、誰かを思いやる愛が交差した結果は?
など、今回も様々な事件がてんこもりです。
果たして、あなたは真相が見抜けるでしょうか?