ある自殺志願者の遺書

鹽夜亮

第1話 ある自殺志願者の遺書

 この遺書を、不幸にも黙読せんとす、全ての者に対して敬畏を込め奉ずる。


 私という人間は、19XX年12月19日にこの世に生を受けた。生を受けたというのが正しいのか、生を受けてしまったというのが正しいのかは、私以外の者に評価していただこう。

 ともかく、私は人間として生まれ、人間として順調に発育を遂げた。ある程度発育が進めば、集団行動という俗物に塗れなければいけないのは、自明の理である。私は、それに至って問題を生じた。詳しく書く事はせぬ。ただ、その問題は今、ここで私がこの、薄汚れたデジタルの紙切れに向かって幾ばくかの憎しみを込めながら生を全うしている時に至るまで、断続的に私を苛んだ。それだけ記しておけば、このデジタルな紙切れにおいては事足りるだろう。

 それが、私にとって天恵のものだったのか、後天的に付属されたものだったのかは、今に至っても存ずる術はない。私は、それの為に死するのではないということだけは、ここに明瞭に記すものとする。

 思春期というのは、非常に不安定なものだ。夏の山の天気とでも言えば聞こえは良いが、その実はドロドロとした汚泥のような欲望の塊と、それを達成、または享受することのできない己の無力に対する不信感、己の望むものを与えてくれない周囲に対する敵意、……それらの幼児の悪夢じみた毒素がもたらす、一時的な精神錯乱と言ってもよかろう。少なくとも、今に至るまで私はそう考えている。

 

 つまり、バルビタールが箸の上を滑れば、デパスとマイスリーが飲み物に変わる訳である。要は、ある女が死に絶え、それを犯した女の女体が血にまみれているからである。しかるに、女体といわれるものは月の化身たれば、ヘビのような舌を蓄えた泥水の、地の底に眠る女神を呼び起こしたサリンのように濃厚でなければならない。ザッハトルテなどは実に悪夢じみたペスト医師の発狂した、読書を統べた神の御業といえよう。あるいは、ノイシュバンシュタインの城主は正常にサラダを黙々と食べているのかもしれない。背後には溺死した彼自身を抱えながら、召使いを犯している。生ハムは人間のものだろう、それはあまりにも甘美であるから、ザクロのようにはmaoefaepomfemafmaepfmpoefaoegmapegmamrgmraigmrpvae裂けないのである。……………t。aa¥aaafeaoiwnfoanofinaoienfinamfemaewmfegmanikniyuguml,;,pcdoafoewmfl;rdpVn


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精神錯乱は、今此の時も私を苛んでいる。先ほどの数行を書き終えた後、手首を搔き切った。危うく、死にかけるところであった。周到に注意せねばならぬ。言葉は真に凶器である。それは、己に対しても容赦をしない。もう、時がない。急がねばならぬ。

 


 私が私でなくなる前に、要点だけは書き残しておく。

・延命処置は如何なる場合にも行わない事。

・第一発見者には、例えそれがどこの誰であれ格別の精神的ケアを行う事。

・後追いは私の望むべくものにあらず。我、人と共に死することを望まず。

・自害に用いた猟銃、場合によっては短刀、ロープ等の処分は、しかるべき機関に任せ、必ずやこの世から抹消すべき事。

・私は私の死にたいから死ぬのである。原因の詮索は無用。また、誰しも我が死に対して責任を感ずる事を禁ず。

・死に際して用いた薬剤も、確実に処分するべき事。

・最期に、自らの意志で死ぬる私の、最も幸福である事を知るべし。




















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末期。死。永遠。孤独。幸福。こうふく。……縊死。銃殺。

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