第4話 それぞれの世界

僕は武器を作る。

「ユキノ先生。どうやったら設計図が上手く描けるのだ?」

「兄様。私は先生と呼ばれるのは、少し苦手です。設計図の基礎から学ぶべきではないでしょうか」

今更だなあ。基礎っていっても、僕は憧れを追っていただけだった。ユキノは続ける。

「計算の仕方が、兄様は独特ですね。ひらめくって、すごく便利じゃないですか。私が頑張った日々を返して! 兄様はきっと天才タイプなのです」

ユキノが何故か落ち込んでいる。僕の方が精神ダメージは大きいよな。ねえ。膝をついていたユキノが立ち上がる。しかし、ファイティングポーズはとらない。

「武器屋が儲からないのは、大物を狙い過ぎているのかもです。赤字が消えるまでは、普通の武器でいいですよ。それよりも、特訓です。リンクシステムを極めないと……。今のところ、兄様とウサコさんの『同時間経験』が長い。くつがえすしかない」

僕はユキノに尋ねる。

「同時間経験とは何だ、ユキノ先生? それを聞いたのは初めてだ」

「ふう、兄様と私とは違う世界を生きてきた。だからこそ、惹かれ合う。基礎を知らないのですね。やってのけるのは、高等テクニックですけど。それだけ虹のカラーは、柔軟性が高いということです。あれだけの同時間つまり同じ時間を、リンクシステムで経験しているということ。それはメリットだけではないのです。同じ時間の経験とは、言い換えれば心と心が重なったとも言えます。もしその時間に反発の心を持てば、精神ダメージは大きくリスクもある。驚いたのは、その反発を兄様はほとんど経験していないということ。ということは、虹のカラーを持つ兄様とリンクシステムを極めれば、低いリスクで心が重なるということです。これは発明ですよ!」

僕はユキノに言う。

「惹かれ合った覚えはない。しかしユキノ、虹を探していたと、ハルキに出会った時言ったんだ。虹のカラーは、絶滅の危機にあるということか?」

「その言い方はどうかと思います。虹のカラーを持つということは、サラブレッドでいうところの、白馬の誕生を思い浮かべると、解り易いですよね。はっきり言って、遺伝子構造を無視した現象ですね。絶滅というより、誕生が難しいってことですねぇ」

「それだけのことか。人生ポイントを多く持って生まれたというのと、イメージが重なる」

「おっ、ハルキさんは、自分の心世界を嫌っているのです。それを根底から覆すことこそ、ハルキさんの目的だと断言します。虹のカラー、要するに兄様の心世界と重なることで、ハルキさんは変わろうとしている。この現象を『同時間のカラー』と呼ぶ」

「ユキノは十二歳にしては、やけに色んなことを知ってんだな」

「何を言っているのですか、兄様。私は昨日十三歳になりました。兄様なら祝ってくれると信じ、今私は寝不足なのです。しかし、兄様の訪れはなかった……」

「そうか」

と、僕はとにかく話題を変えようとする。ユキノもそこまでは追及はしてこない。

ユキノを加えたトレーニングは、もう始まっている。そして、僕らのチームにとって一番の問題は、リンクシステムをどう活かすかだろう。黒い毒は強力であるが、両刃の剣だ。ハルキの指揮能力にかかっている。そして、もうひとつ問題はあった。ユキノが少し大きい声を出す。

「兄様は私を警戒し過ぎています。取って食ったりはしませんよ」

ハルキは、僕を理解してくれる。

「まだ日が浅い。苦手なものぐらい俺にもあるさ。まあ、アメとユキノの場合は、愛情の裏返しだよ」

いや、やっぱりハルキは解っていない。前言撤回といこうか。ユキノは納得してしまう。

「愛情だったのですね。それは踏み込みずらいでしょう。気長に待ちますよ」

「待たんでいい」

と、僕は強調する。

ウサコは僕と同じく、まだユキノとの距離を測れていない。ユキノはかなり図々しく、人の心の中へ踏み込める。しかしウサコは、自分を受け入れられるかを、他人に求めるタイプだ。初めは強引な性格のように、僕は思っていた。長いというほどでもないが、ある程度共に過ごし、僕はウサコを理解していった。人の迷惑にならないか? そこを超えないと、ウサコは表の姿つまり強引になれない。人見知りに近いものを、ウサコは抱えているのだ。

そして、僕でも解らないもう一段底のウサコが隠している物、そこまでは突き止めた。かつてウサコは、ひとつだけプライバシーに踏み込んでいい部屋があると言った。僕はまだ、そのレベルに達していないのだ。気にはなるが、ユキノのように踏み込むことはしないさ。

ハルキは、凶暴なる自分の心を変えたいと思っている。それは、ユキノの言ったことをヒントに、僕が辿り着いた答えだ。だが確かに、ハルキの内面はイカレているかもしれない。それでも僕は、ハルキにはハルキであって欲しいと思う。それともハルキは、別の何かのため、性格を変えたいのかもしれない。まあ深読みしても、現時点では意味がない。それぞれ違う心の世界を持つ。当然だが大切なことだ。

ユキノが遂に、チームアメのメンバーとして、初試合を経験することになる。何故か、ハルキは僕をチームリーダーに押した。そして、ウサコもうなずいた。多数決は卑怯だね。

チームコオロギとの対決だ。これが黒い毒のパワー。ユキノの心を表すものではない。植え付けられた能力だ。だけど使用するのなら、プラスに働いてると受け止める僕。僕のロボットが、四十パーセントぐらい強化された。そこで蝕まれるのは、体力達だ。スタミナ切れには要注意だ。

ユキノがこちらを見る。

「兄様、合体よろしくです」

「いや、黒い毒はどうすんだよ、ユキノ?」

「私に考えがあります」

と、ユキノは戦闘中のウサコへと強引に接近する。どうやら、僕が予想していた、ユキノの僕への踏み込みではなかったらしい。ウサコがこちらに気づく。いつもより反応が遅かった。

「テメ-らか。手を動かせ。試合中だぜ」

「だからこそ、ウサコの能力が欲しい」

と、僕は言う。

僕はリンクシステムを使い、ウサコにデータを送る。ウサコは、理解したようにユキノを睨む。合体中だが、視線はユキノに向かっていることは明白だ。

「いい兄様だなあ、おい。ユキノ、これからもよろしくな」

「はい、ウサコさん。遂に強引になりました」

とユキノ。

ユキノは一人ではウサコに警戒されるため、僕を

仲介に使う作戦を立てたのだ。そのための合体。弱体化の技を使うウサコ。黒い毒を浴びながら、ハルキはコオロギを仕留めた。もはや決着は近い。リーダーを仕留められたチームコオロギはもろかった。ここで決着が着いた。

ハルキはつぶやく。

「ユキノの加入はでかい。だが、次の相手は危険過ぎる。敗北しても大きなペナルティーがないのが、ロボバトルの特徴だ。最悪、逃げるのもありかな」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る