第5話 道連れにしろ

僕達はチームコオロギに勝利した。ハルキとウサコは、それでもうかない表情だ。そういえば、近々強力なチームとの対決があるとは聞いていたんだが、そのことだろうか? ロボバトルは、大きな実績の違いがあるチームとは当たらない仕組みのはず……。

ウサコはリンクシステムを使い、僕の考えを予測する。

「そうだよ、アメ。それで合っている。しかし、実績であって実力ではない。『チームタグ』。私とハルキは、一度ヤツらに負けてんだ。温存していた戦力チームタグは、まだ実力に見合うだけの実績がない。そういうことは、珍しいことでもないんだよ。そして、ハルキよ、逃げる気は私にはないぞ」

ハルキよ落ち着いて話す。

「あの時、俺は逃げた。ウサコは逃げなかった。時には撤退も必要、と俺は考える。退かない闘争心を持つウサコが、違う信念を持つことは理解している。俺は危ないと思えば、アメとユキノを逃がす。その時は、一人で戦い続けるのだな、ウサコ」

それを聞いたウサコは言い返す。

「もし二人が逃げるのなら、それでいい。だが、ハルキが一人で逃げるなら、このチームの一員と言えるのかよ?」

それをハルキはかわす。

「考え方の違いというものだ」

なんかハルキとウサコの二人で盛り上がっているけど、チームタグってそんなに強いのか? 僕とユキノは、見たこともないので何とも言えない。

そこで、ユキノが僕をモニタールームへと誘う。

「チームタグがどんな戦い方をするのか、見ておきましょう、兄様」

「はいよ」

先ずは、チームタグとハルキとウサコの対決。ハルキはロングビームが冴える。

「命中率百パーセント。逃げ場はない」

と、ハルキが言っている。

「確かに逃げ場は無さそうだ」

と、タグは余裕を見せる。ここからどうなる?

はっ? タグにダメージはない。ユキノが何かに気が付いたようだ。

「このタグロボのボディは、通常のものとは異なります。でも、反則ではないですよ。何処かで見たような……。ココログループの技術とも違う。何か危険な雰囲気ですね」

僕はユキノに尋ねる。

「あの装甲を破る手段はないのか? ハルキロボのビームがあれだけ命中しても、跳ね返している」

「ガードに自信があるようです。よける素振りも見せない。わざとビームをくらっているぐらい。あっ、ハルキさんが一撃で致命打を受けました」

ここでハルキは撤退するはずだそして、ウサコにも呼び掛けている。ハルキが諦めてフィールドを去った。ウサコは一人で戦い続けるが、協会が回収する。最近の試合では、チームタグは一段成長している。

ユキノが僕に言う。

「兄様、ここはウサコさんよりハルキさんの選択の方が賢明でしょう。ウサコさんは、もう少し協会の反応が鈍かったら、ただでは済まなかった」

「ユキノはそう考えるか。相手が悪すぎるのは理解した。それよりも、僕は何故ウサコがこだわったかの方が気になるな」

ユキノは真剣な目だ。

「兄様は私が守り通してみせます」

それでも僕達は、特訓を積む。人生ポイントも何に振るか決めることもなく……。今回負けても次がある。しっかりやっとくか。そして、試合の日は近づく。ハルキとウサコは、自らを信じて時を待つ。

そして、試合当日。タグはフィールドを見回す。

「へえ、チームアメ。ターフ会長の心は躍っているらしい。コマペン様にもいい情報を届ける」

「タグよ、『情報』にこだわるのか? ナメていると、痛い目に会うぜ」

と、チームタグのメンバー。タグは言う。

「痛い目に会うのはテメーらだけだ」

暫くして、ハルキが距離をとる。

試合開始。ハルキはロングビームにこだわる。というか、前回との実力差がどうなっているか試している。やはりタグロボには効果がない。ハルキの表情が少し変わった。

「やはり、そういう仕組みだったか」

タグは認める。

「カラクリに気づいたってか。このボディはダメージを隠せるのだ。まあそれに気がついても、実力差が埋まる訳でもない」

タグ一人でも厄介なのに、その他のメンバーも強い。これは勝てない。ウサコも自信を無くしている。

へっ? 待てよ。ウサコは自信も無いのに挑むのか? これは引っ掛かる。ユキノは、もう引き際を考えている。ハルキも同じだ。チームタグのメンバーの剣を止めた。よし、反撃だ! そこでウサコは叫ぶ。

「アメ、後ろだ。トラップだったんだよ!」

ちい、タグがモーションに入っている。ガハッ、一撃が重い。僕は倒れそうになるが、踏ん張る。リンクシステムは互角だ。ならば、実力が勝敗を分ける。それでも、もう少しやってやる。

バンという音と共に、ウサコが陣をとった。それは、もう一人でもいくぜ、というウサコの意思だ。つまり、ハルキは無視で、僕とユキノに決断させているということだ。逃げるか、無謀な戦いに挑むか。ハルキがリンクシステムを強引にいじった。

ハルキとユキノは、遠くに飛ぶ。ユキノが叫ぶ。

「兄様? 剣が地面に刺さっている。兄様はハルキさんの選択を拒否した。兄様が危ない!」

しかし、ユキノは動けない。リンクシステムは今、ハルキが支配している。

ユキノは、こちらに来ようと頑張る。それを見たハルキがユキノに言う。

「貴重な戦力を今壊す訳にはいかない」

ウサコは無言で戦う。僕はウサコに、わざとらしく言う。

「ウサコと話がしたくてね」

やはり返事はない。僕も戦う。ウサコはつぶやく。

「アメには戦う理由など無いのに……」

戦っているということは、理由があるということだ。


今はそれは重要ではない。僕はまたもや、わざとらしくウサコへ言葉を吐く。

「ふーん。ウサコには戦う理由があるのか? いや、戦うことが目的ではない。知りたいのだろう、私がチームワークを今回乱してまで戦う理由」

と、ウサコにはバレバレだ。

僕は首肯く。ウサコは、うっとうしいという感じで言う。

「初めて誉められたことだから。何も見出だせなかった私。最後まで戦うことを忘れなかった闘争心をな。私にはこれしかない」

「偉いぞ、ウサコ!」

「アメ、キサマに誉められても嬉しくないぞ」

と、ウサコの感情が出た。

ちっ、ウサコは誰に誉められたら嬉しいんだよ! ウサコは、戦う能力意外でも、素晴らしいところはあると思うけど。僕が言っても説得力がないや。それはきっと、万人にはうけないから……。その時、ユキノが驚いた声をあげた。

「リンクシステムを兄様が支配しています」

ハルキも驚いている。

「虹のカラーは、それほどか!」

「さあ、反撃だ。三十分なんてすぐ経過するぜ」

と、僕はウサコにルールを忘れていないか確認する。三十分制なんだよ、ロボバトル。

リンクシステムの強化により、僕とウサコは善戦するも、攻めきれない。疲労の方が大きい。その時、ウサコは僕を突き飛ばす。しかし僕は、それをかわす。ウサコは言う。

「アメ、理由はもうない。ここから離れろ」

「なあ、ウサコ。僕を『道連れ』にしろ!」

「意味が解らん」

と、ウサコ。

僕は続ける。

「いつでも僕は、ウサコと共にいく。つまり、僕を頼れってことさ」

ウサコは僕を睨む。

「アメは誰にでもそういうことを言ってそうだ」

「うーむ、誰にでもではないぞ」

と、僕は言う。ウサコは笑い出した。

「ククク、ならば私がアメを確保しよう。正直に複数の人に言うって教えてくれた」

タグは涼しい顔を、まだ保っている。

「なかなか面白い演劇が見れたよ、チームアメ」

ユキノが力を振り絞る。

「兄様、待っていて下さい。盛り上がっているようですが、劣勢です。私もリンクシステム起動!」

ハルキは笑う。

「フフッ、アメはやはり同時間のカラーにふさわしい。戦略好きの俺としたことが、駒の使い方を間違えていたらしいな」

ユキノの黒い毒が届く、ハルキのパワーを上乗せして。ハルキは逃げられなかった。今回は、タイミングを逃したのさ。何故なら、ハルキ以外の三人はしつこいから……。そして、ハルキもだろ? 合体クラスのパワーが、リンクシステムに流れ込む。

渾身の一打がタグを捕らえた。タグはひるむ。

「何とか耐えたぜ。ちっ、情報はゲット出来た。三十分まで時間がない」

そして決着。僕とウサコはボロボロだが、ユキノとハルキはピンピンしている。判定勝ちのようだ。

僕はウサコに聞く。

「プライバシーに踏み込んでいい部屋ってのが、一つだけあるんだろう? 僕を招待してくれないか」

ウサコは答える。

「そうだな。その部屋の名は『道連れの部屋』っていうのだ」

僕はウサコを突っつく。

「その部屋のネーミング、今考えただろ、ウサコ」

「バレバレか」

と、ウサコは舌を出す。どうやらタグとの完全決着は、今日ではないらしい。


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