第6話 ターフ少年の描くもの

僕達は試合を終え、トレーニングルームへと戻ろうとしていた。疲労が凄いし、さっさと休もう。しかし、ウサコは立ち止まる。

「マジかよ」

「何がだ?」

おっさんがこちらへ向かって歩いて来る。隣の男性は誰だろう? 知らない人達がこっちへと来る。

ユキノは目をそらす。この反応は何だ? そしてハルキが一言。

「ターフ会長じゃないか」

てことは、おっさんはターフ会長。名前は有名でも、顔までチェックしていなかった。隣の男は、付き人ってとこだろう。会長は、わざとらしく話しかけてきた。

「チームアメはよくやっている。見込みのあるチームには、このゲームソフトを渡すようにしている。これで二百チームは超えたか、ナガイ。このソフトは介入出来る場面もある。もしシナリオ通りでなく、歴史を覆せたなら、現実世界そして人生ポイントさえ変えることが出来るほどのものだ。出来れば歴史を変えて欲しいものさね」

ソフトには、『ターフ少年の冒険』と書かれている。僕は取り合えずつぶやいた。

「ターフ会長は、冒険していたことがあるのか。というか、ふつう大冒険とはったりでもかます気がするのだが……」

ターフ会長の耳がピクッとする。

「ナガイ、この突っこみをしたのはこれで何人目だ?」

ナガイと呼ばれた男性は無表情で答える。

「百三十七チーム目ですね、会長」

会長は笑顔で言う。

「うむ、大冒険と書くには、物足りない世界と解っているからな」

そして、会長とナガイさんはタグと合流する。大冒険にしては物足りない? 今の世界は、ターフ会長にはまだ不満が残るということだろうか?

ここで、ハルキがみんなに声をかける。

「興味はあるが、今日は疲労がたまっているぜ。どうすんだ?」

ウサコはやる気を出している。

「モニタールームに集合だ」

ふう、これで良かったんだろう。ウサコは、みんなのことを考えずに強引に出ることは少ない。僕達の興味が疲れを上回った、ということにしておこう。

僕は三十分の仮眠をとった後、モニタールームに向かう。もうみんな準備は出来ていた。説明書によると、基本はストーリーを楽しむだけらしい。楽しいかどうかは、これからだがな。

ハルキが告げる。

「始まるようだ」

ターフは語る。

「よお、ココロ。今日は剣術大会の決勝戦だぜ」

ココロは答える。

「運がなかった。俺は一回戦でターフと当たったからな。一刀流奥義『気楽』を受け継いだターフに勝てるヤツなんざいねーよ」

ここでウサコが驚く。

「ココロって、ココログループのココロのことじゃねえのか?」

「そのようだな」と、ハルキ。ターフ会長とココロは仲が良かったのか。

そして、決勝戦が始まろうとしている。

「学生の部、決勝戦を行います」

と、アナウンス。ボイスが入ってねえ。予算的に厳しかったのだろう。僕はみんなに向かって言う。

「どうやらターフ少年を操作出来るみたいだぜ。誰がやる?」

ここで答えるハルキの待ったが入る。

「この物語は恐らくノンフィクションだ。少しは変えているかも知れんが。そして、『気楽』という技は、ロボバトル史上最強とされる。見てみたくねえか。俺はここで静観を勧める。歴史を覆すというのは、ラスボス戦だけでいい。ターフ会長とココロはどんなもんかは、知っておいて損はないだろう」

ユキノは自信たっぷりで言う。

「ラスボスは、この会長と対決しているペンギンの亜人だと思います」

ウサコは違う考えだ。

「ユキノ。いくら何でも、それは分かりやす過ぎるだろう。物語がもっと進んでから出てくんじゃねえか」

しかし、ハルキは異を唱える。

「いや、ウサコ。ユキノの意見は的はずれではないかも知れん。普通のゲームなら、ウサコの言うことは解る。だがこのゲームは、実際にあった話を基にしているはずだ」

ターフ少年は、強力な技を繰り出す。これが『気楽』なのか? 僕は剣術の経験がないので、凄いのかどうかよく解らない。ターフの繰り出した技は、ペンギン人間にかわされた。やはり決勝戦だけあって多分敵も強い。

何だと? ターフ少年が一方的にやられているぞ。そして、ターフのセリフ。

「コマペンとかいうヤツ、強すぎだぜ。負けちまったよ。俺はこれからどうすっかな。リベンジに燃えるか、他の進路を探すか……」

ココロは言う。

「まさか、ターフより強いヤツがいるとはな。世界は広い。俺は決めていた通り科学者を目指す。すぐに成果が出るほど、甘い世界ではないとしてもだ」

ターフは言う。

「その科学者ってのは、まだ発展途上なのだろう? なあ、ココロ。ロボットって強いよなあ。それになれたら、コマペンに勝てるかな」

「おー」

と、みんな歓声を上げる。

ココロのセリフ。

「ロボット? 何言ってんだ、ターフ。目をさますんだ。ロボットって、ゲームとかマンガによく出てくるヤツだろ。現実で強い訳あるか! そもそも人型であるのは、見栄えだけじゃないか。ゲームとかなら、設定次第でいくらでも強くなるだけだ」

ターフは答える。

「だが、ロボットのユメはそこにある」

ココロは更に言う。

「ユメだと? ターフよ、可能性が見えた。ターフ様の狙いはそれか!」

ターフは言う。

「よし、俺一人では無理なことだ。ココロは、人生ポイントが何処からやって来るか知っているのか?」

「ここは重要だぞ」

と、チームアメのみんな。ココロは言う。

「そんなの解る訳ねえだろ、ターフ。キサマ、まさか人生ポイントを使いきったのか? ターフよ、人生ポイントを操れれば、この世界は崩壊するほどのエネルギーだ。それが解ったなら、もう人類は存在していないことになる」

ターフは言う。

「俺に心当たりがあるんだ。人生ポイントは才能と呼ばれるもの。その才能は、何処からやって来るか。トノサマ大陸の人々のルーツ。それは、地上に降り立った三人の王者だ」

それを聞いたココロは言う。

「神話か。ターフの狙いは、その三人の王者の力をさかのぼって使うことだ。そうだとしたら、それは不可能だ。もし仮に繋がったとして、人生ポイントは後世に託されるので空っぽだ。いや、待てよ。注ぎ込んでみたらどうだ? ターフはどう思う?」

ターフはそれに答えて言う。

「俺の狙いは、そこなんだ。しかし残念なことに、俺の頭は悪い。科学なんて、本を読んでもさっぱりなんだよ。そこまでたどり着いたんだが、ここでココロに無理だと言われると、俺はどうすることも出来ん」

ココロは言う。

「素晴らしい。それほどまでに不可能だ!」

ターフはそれを聞いて言う。

「やはり強引なアイデアだったか……。可能だと思ったが、ココロがそこまで言うほどかよ」

ココロは言う。

「フッフッフ、ターフよ、素晴らしいと言ったではないか。媒体はターフ、キサマだ。お前が言い出したんだから、責任をとれ。不可能と言ったのは、二つの理由がある。一つ目は、前例がないこと。そして二つ目は、犠牲を出さずに出来るほど、俺は器用ではないということだ」

ターフは言う。

「つまり、俺が犠牲になれば可能かも知れない、ということだな?」

ココロは言う。

「ターフ、理解しているのだな。前例がないんだ。はっきり言って、失敗してターフを失うことを俺は恐れている。だが、科学者を目指す者として、血も騒ぐ」

ここで、ナレーションが入った。

「ターフ少年の狙いは、動植物達の人生ポイントを逆流させることであった。もちろん、ターフ少年を媒体として使用する必要がある。人生ポイントを逆流させることで、時間の要素を攻略する。そして、三人の王者達はパワーアップするということだ。パワーアップするとは、王者達が人生ポイントを多く生み出せることを意味する。その人生ポイント達は、媒体であるターフ少年に注ぎ込む」

ナレーションは続く。

「ターフ少年は、ココロ少年と共にロボット化に成功した。ところが、この作戦には大きな落とし穴があったのだ。そんなことにも気づかず、ロボットバトルは盛り上がっていく。前例がないということは、落とし穴にも気づきにくい。二人の元少年は、後に取り返しのつかないことをしたことに気づく。いや、プレーヤー達に何とかして欲しいのだ。落とし穴とは、三人の王者達の力関係の変化である。つまり、二人の元少年は歴史をいじってしまった。それは、現在の性格さえ変える事態である。犠牲者はターフ少年ではなかったのだ」

ナレーションは、更に続く。

「その効果の代表として、『虹のカラー』があげられる。そしてその頃、コマペンは『虹のカラー』を追求していた。コマペンは野菜を食べる日々を送りながらも、二人の元少年がこの事態を起こすことを予測しており、『虹のカラー』の発生地点へと向かう。そこに何があったのか? コマペンの真の目的は? それは、このゲームのスタッフですら解らない。姿を現すコマペン。この時のダメージで、ターフ少年はロボ戦士を引退。会長として腕を振るうことになる。このゲームのプレーヤー達よ、コマペンを倒すのだ! 歴史を変えよ!」

ハルキは言う。

「遂に来たぜ。ユキノの読みが当たっていたようだ。というか、ナレーション無駄に長い」

ウサコも続く。

「会長とココロの理屈など、どうでもいい。必要なのは結果だ」

どうやら、ターフ会長とココロを操作出来るらしい。史実では、コマペンとやらに軍配が上がった戦いだ。しかし、この戦いを理由にターフ会長とココロが引退したことは、知らなかった。一方的な展開だったのだろうか?

コマペンもロボットへと姿を変える。しかし、五メートルクラスの小型ロボットだ。ユキノが、操縦者は誰かと問う。

「二人しか操作出来ませんね。私はパスします」

僕は二人を強く推す。

「ここは、ハルキとウサコだろう。この二人なら、負けても納得するぜ」

しかし意外にも、ハルキは首を振る。

「いや、俺はパス。何故かというと、俺は会長とココロの動きを、じっくり見たい。操作することで解ることも多いことは認める。だが、今後のロボバトルの試合にどう組み込むかを、考える余裕も欲しいんだ」

まあ、今までチームアメは、ハルキの戦略に助けられてきた。そのハルキは、操作することで忙しくなり、しっかり力量を計れなくなることを嫌った。このゲームの戦いを見る方がゆっくり作戦が練られると、ハルキは考えた訳か。難しい判断だがハルキは一瞬で見分けたのはさすがだ。

ウサコが気合いを入れながら言う。

「残ったのは私とアメの二人だ。どうやら決まりだな。このゲームは、コントローラではなくイメージでの操作らしい。よく解らんが、多分リンクシステムに似ているだろう」

僕はウサコに問う。

「どっちを操作したい?」

ウサコが何かを言う前に、戦いが始まった。どうやら、タイプが近い方での自動決定だったらしい。イメージは、リンクシステムと驚くほど似ていた。これは、ターフ会長とココロの作戦通りといったところかい。僕がココロ、ウサコがターフ会長の操作で決まり。

ここで、ターフ会長が言う。

「俺の次世代へつなぐための戦いだ。俺が今から『描く』ものを、ロボ戦士達は見届けてくれ!」

ココロも言う。

「さあ、コマペン。キサマの目的を吐いて貰おうか」

さあ、ウサコ。いこうぜ。ターフ会長とココロの描くものを見にな。

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