第7話 答えは探れる

僕とウサコは繋がっている。今、心が重なっている。言葉は要らない。同時間が発生しているとは、こういうことか……。同時間とは、説明は受けたが考えながらの体験は初めてだ。頭を使え。今、僕とウサコはどうなっているか。

ウサコがリンクする。『集中しろ!』、『解った』と、まさに同じ時間だ。実生活でも僕とウサコは、いやみんな同時間を生きている。当たり前だ。だが、この状態を『同時間のカラー』という特別な言葉を何故使うかを、僕は解っていない。感じるんだ。『虹のカラー』というものを、僕は持っているらしい。だから、理屈が要らなかったんだ。でも、理解しておいた方が良さそうだな。解ったぞ! 僕とウサコは今、意見交換をスムーズに出来る。タイムログのズレはゼロに近い。それだけ相性と仲の良さのレベルが高いということだ。

相性の高さは、虹のカラーに助けられているのだろう。心が重なっているとは、反発もしやすく危険と、以前にユキノが教えてくれた。ついでに僕はその可能性が低いことも。これも虹のカラーによるもの。ユキノの説明では、普通リンクシステムでのやり取りは、タイムラグが発生するのが当然らしい。だからこそ、お互いつまり僕とウサコが今衝突もせず、考えを一つにまとめ戦えることを、『同時間のカラー』と特殊な呼び方をするってか。

「前を見ろー!」

何だ? 誰の声だった? 僕が考え事をしていたため、同時間からズレが発生したのかよ。

難しいものだ。ハルキが余計なことを言う。

「凄えぞ、ココロ。アメ程度のヤツが操作してんのに、なんて機動力だ!」

僕は何とか、コマペンの攻撃を避けた。今度はユキノが言う。

「安心しないで下さい、兄様。ココロロボよりコマペンの方が速いです」

ウサコが叫ぶ。

「今行くぞ、アメ!」

これがトップクラスのロボバトルか。僕とウサコは未熟だが、コマペンに一方的にやられている訳ではない。二対一は卑怯だとも言えるが、史実でもそうだったんだ。それでも会長とココロは、コマペンに破れた。コマペンは、この二人を倒すのに何を使ったんだ?

コマペンソードがターフロボを遂に貫いた。僕とウサコでは、どうやらターフロボとココロロボを、それぞれ使いこなせなかったらしい。初めから解っていたことだけどね。ターフが言う。

「若者達よ、俺の最後の攻撃を見よ!」

そして、ターフが最後の攻撃をコマペンに仕掛ける。

「一刀流奥義、気楽!」

遂に二人はコマペンに敗れる。だが、その一撃はコマペンをひるます程だった。ロボバトルを愛すること、それを忘れるなと、会長は言いたかったのだろう。これが、『ターフ少年の描くもの』だったんだ。

ここで、ハルキが僕とウサコを呼ぶ。

「リザルトだ。もう終わったんだ。早く来い! へえ、七十七ポイントのBという結果だ。歴史と同等という評価だぞ。どれぐらいが基準か、俺にもよく解らんがな。多分、甘い採点だ。むっ、三人のコーチから一人を選べ? そうか、ターフ会長は有力候補のチームに、このゲームを渡すと言っていたからな」

ユキノが分析する。

「つまりハルキさんは、好成績を『ターフ少年の冒険』で残せば、見返りがあって当然と言いたいのですね。ムムッ、この三人のコーチは、データが実戦コーチメディカルコーチ、メンタルコーチとあいまいです。誰が優秀でチーム兄様と相性がいいのか難しいです」

ウサコは適当な感じで言う。

「わかんねえなら、誰を選んでもいいだろ」

ここでハルキが、待ったをかける。

「待て、ウサコ。この三人の実力は同じくらいと考えていいだろう。だが、チームアメに必要なのは、ずばり『メディカルコーチ』と見た。黒い毒は強力だが、そのため俺達は体力を奪われる。チームアメの売りであった合体も、最近あまり上手くいっていない。この手のコーチなら、疲労回復方法が上手いんじゃないねえか」

ハルキに対する反対意見は出ない。

五分が経過した。ここで、何故かチームリーダーになっている僕は言う。

「ハルキの意見に反対はないぜ。決まりだな」

そして僕は、メディカルコーチのボタンを押す。ゴロン。カプセルが出てきた。まさか、この中にコーチがいるのでは? まさかそこまでバカなことはしないだろう。ハルキは告げる。

「開けてやれ。コーチは苦しそうだ」

本当にカプセルに入っていたぞ。ここは、突っ込まないぞ。

コーチと思われる人物は言う。

「私はアカリコーチだ。三十七歳の、キミ達の美しいお姉さんだ。カプセルに入れば給料アップと、会長に言われていたのだ。思ったより苦しくて、大変だった。長い道のりの末、私達は出会った。ああ、キミ達が聞きたいのは、私に何が出来るかだろう?」

「解っているなら、さっさと言え、コーチ」

と、ハルキ。

三十七歳の女性コーチか。実年齢よりは若く見えるが、お姉さんは厳しい。コーチは得意気に説明を開始する。

「私はメディカルコーチに分類され、それに所属している。他のチームも面倒をみているのだ。全てはコマペンを倒すためと会長は言っているが、私はもっと自由でいいと言おう。メディカルコーチというのも、間違ってはいないがな。私が得意なこととは、『答えを探る』というキーワードだ。私は心の動き、肉体の動きを見分け、何に該当するかの答えを示せる」

ハルキがコーチに疑問をぶつける。

「それは、どれ程の範囲だ? 俺もそれはそこそこ出来る。俺以下の能力のコーチなら、必要ない」

コーチはニヤリ。

「給料次第で善処しよう。その辺りは、会長と交渉してくれないか」

今度はユキノの質問。

「カプセルでもがいていた割には、自信ありといったところでしょうか。とりあえず、私達の質問に答えは出せますか?」

僕も言うだけ言っとく。

「給料なら、多分チームアメが活躍すれば上がるだろう。いい武器を作るには、どうしたらいい、コーチ?」

コーチは、またニヤリ。

「アメは一撃必殺の武器を作りたいのだな。チームアメで使用されている武器なら、チェックしてある。ところが、アメは仲間が出来てしまった。チームリーダーまで務める。そのため、迷いが発生しているのだ。例えば、ウサコの武器には命中率も少し入るのではないか、とかな。私なら、そんな半端な武器は捨てる。因みに、私は武器作りの知識はあまりない。だが、これぐらいは示せる」

ここで、ユキノが驚いた声を出す。

「私の設計図の『欠陥』とは、これだったのでは?」

どういうことだ? 思い出すんだ、僕。

コーチの言っていることは、本当に正しいのだろうか? 確かに僕の作った武器は、ハンパで必要のない武器だ。だが、どんなに強力なパワーを秘めている武器でも、当たらなければただの子供のオモチャだ。

コーチはこちらを見る。

「例えば、命中率の高い武器の条件とは? 私は専門ではないが二種類知っているぞ、アメ。それは、精度の高い武器と攻撃範囲の広い武器だ。そしてもう一つは、『武器の』条件ではないため数に入れていない。それは、当たらなければならない状況を作った時に発生する。仲間を上手く利用しろ、アメ」

「どういうことだ、コーチ?」

と、僕は頭では理解するが、上手く表現出来ない。このモヤモヤは何だ?

コーチは、仲間つまりハルキ、ウサコそしてユキノの三人に、敵をスキだらけにして貰えと言っている。それなら当たる。凄いダメージを叩き出せるだろう。しかし、僕はそれで満たされるが、他の三人はどうなんだ? 完全なる僕のわがままだ。相手によっては、全く通用しない戦法だ。僕があの三人をピンチにしていいのかよ?

コーチは更に言う。

「私は、キサマらがピンチにならない方法の一例をあげたが、聞こえなかったのか」

そこでユキノは、僕に挑戦状を出す。

「兄様、どちらが『強力な』武器を作れるか、勝負です。手加減はしませんよ」

「そうだな」

と、僕は燃えてきた。ハルキとウサコもうなずいている。この二人は僕の武器から解放されることを、喜んでいるのだ。何故なら、ユキノならばコーチの言った精度と範囲の広さの両方を満たした武器を作れるからだ。

僕はパワーだけを求める武器か。売り上げになるかは微妙だが、やってやる。久しぶりだな。今は、仲間達も違う意味で認めてくれた。少し悔しいぜ、ユキノ。もちろん僕は自分で使う。チームアメの資金源に、ユキノの武器ならなってくれるよ。人生ポイントは何に使うか? 僕はまだ決めていないけど。

次はハルキに、アカリコーチは先手をうつ。それには、ハルキさえ驚いた。

「ハルキは同時間のカラーを利用し、自らを変えようとしているが、止めた方がいい。虹のカラーで自らの心を上書きする。緩和させたい。ハルキは自らの心に脅えている。凶暴な性格で、ウサコを傷つけたくなかったのだろう。そして今は、ユキノとアメもだ」

ハルキは、珍しく余裕がない。

「ふん。コーチの言った通りだ。俺はアメ以上にわがままさ。俺は、アメの性格と足して二で割ったぐらいが丁度いい。それで俺は、誰も傷つけない! コーチよ、それの何がいけないのだ!」

コーチは笑い出す。

「プププ。ハルキは、それで仲間三人を傷つけることになる。何故なら、ハルキは自分の位置が解らなくなるからだ。アメにならうのは悪くないが、同時間のパワーを使うと、自分がどんな性格だったかを思い出せなくなるからだ。そこにハルキはいない。ハルキにいて欲しいと、仲間達は思っているぞ、例え傷ついたとしても。私はどうなろうが知ったことではないが、コーチの義務もある」

「考えておくよ」

と、ハルキは元気を失う。納得しつつも満足出来ないのが、今のハルキの心だろうな。アカリコーチは、更に答えを探っていく。ウサコはどうだろう。


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