同時間のカラー

大槻有哉

第1話 虹を探して

ここはトノサマ大陸。『人生ポイント』と呼ばれるポイントを重要とする場所だ。人生ポイントとは、人が生まれつき持った才能のようなものだ。大きく分けて、性格、身体能力、そして技術の三種類に分けられ、それらに人生ポイントを割り振ることで成長する。一度加算すると、そのポイントは戻ってこない。やり直しはきかないのだ。

しかも、人生ポイントは、年齢が高い時に割り振った方が効果が高い。つまりこの大陸では、ポイントを温存していた爺さん、婆さんも侮れない。しかし、人生ポイントは金ではないということだ。どういうことかというと、人生ポイントをどんなに持っていても、腹はふくれないし、自動的には飯は出て来ない。

そして、このトノサマ大陸の名物は、格闘技『ロボバトル』である。ロボットを操って戦い、勝てば金ではなく人生ポイントがゲット出来る。トップクラスのロボ戦士は、名も知れ渡り、副業を得るのも簡単だ。スポンサーと契約というのもひとつの手段だ。問題は、無名時代をどうやって切り抜けるかだろう。ルールは単純で、広いフィールドで三十分間戦い、決着が着かなければ残り体力で勝負は決まる。

僕の名はアメという。十四歳の少年だ。平均レベルをクリアした人生ポイントを持って生まれたが、性格に欠陥を持つ。コミュニケーション能力がゼロに近いのだ。つまり、人付き合いがひどく下手だということ。一人寂しく過ごした、町から出て、今はロボバトル専用の武器屋をやっている。

しかし、やはり僕は商人には向いていない。交渉能力が低すぎる。人生ポイントは、性格の部分に多く割り振った。それでも効果は薄い。ポイントはもう使いきっている。ロボバトルにはそれほど興味はないが、どういう武器が高ダメージを叩き出せるかということを探すユメがある。何時か高ランクのロボ戦士に、僕の作り上げた武器を試して欲しい。しかし、それ以前の話として、ここの武器が売れたことが未だかつてないのだ。これでは生活がやばい。

ところでロボバトルは、一人の少年がロボットに成りたいと、人生ポイントに相談したところから始まる。その少年は今、ロボバトル協会の会長となり、人生ポイントを作り出す技術で、かなりの権力者に数えられる。そのターフ会長は、心の動きで人生ポイントを作り出すらしいが、どのように作っているかは本人にしか解らないだろう。

はあ……。今日は交渉能力がどうのという前に、客が一人も訪れなかった、店の評判はそれほど悪い。僕は何もやっていないんだよ。ユメはユメのままで終わるのは解っている。だけど、僕はまだ何かやれるはず。そう自分に言い聞かせるが、心はもう砕けている。僕の求めたものは、クソより腐った世間の中で消えていく。僕は、その世間より更に腐っているのだ。

あっ、通信が届いている。久しぶりの客だろうか? 違った。

「兄様、私に言わずに町を出て行くとは酷いです。この私からは逃げられ……」

プチッ。僕は通信を切ってため息をつく。近所に住んでいた十二歳の少女ユキノからの通信だった。何時なつかれたかは謎である。僕は兄様と呼ばれているが、ユキノの兄になった覚えはない。

しばらくすると、また誰からか声をかけられる。今度は通信ではない。

「大した武器はないな。だが面白い。使いやすさを完全に無視しているところが潔いな」

僕は声の主が誰かは知らないが、自分の武器を少しばかり誉められ、機嫌が良くなる。

「買う気はないんだろ。好きなだけ見ていってくれ」

「いや、俺は『虹』を探していた。そして見つけた。あんたはアメだっけ。契約を結ぼう。いい武器を作りたければ、ロボ戦士になるのが手っ取り早いぜ。俺は一応ロボ戦士をやっているハルキというものだ」

僕はハルキとやらにスカウトされたようだ。しかし、僕はロボバトルの経験はないし、人生ポイントも残り少ない。ロボ戦士になるには人生ポイントと相談する必要があり、予算的に考えてもロボットの性能には期待出来ないぞ。

確かに実戦を経験した方が、武器作りの具体的イメージはしやすいかも知れないが……。でも、肝心の僕が使い物にならないじゃないか。『虹』を探していたと、さっきハルキは言った。彼の言う虹は、色の種類の多さのことだろう。ロボバトルにおいて、合体、意志疎通、ロボ交換などで、色つまり戦略の幅を広げることは、時として勝敗を分ける。そこは理解出来るんだがな。

僕にはそんな大袈裟な能力はない。ハルキが僕の返事を待たずに、協会に登録してやがる。

「アメとやら、騙されたと思ってやってみる価値はあるだろう。ここで朽ち果てるよりはましだと俺は思う。ロボバトルは五人まで登録可能だ。ところがきさまを合わせても三人しかいねえ」

「てことは、ハルキ以外にもう一人だけいるわけか」

と僕は、当然のことをつぶやく。

ハルキはこちらを振り返る。

「俺は質を大事にするのさ。ザコは俺のチームには要らねえ」

僕はロボットと契約する。ロボットに乗り操縦するというより、巨大ロボットに変身するという感覚だ。僕の身体能力がロボットに反映された。大きさは二十メートルぐらいかな。僕はいい武器を作ることが出来るのか? しかし、僕はハルキくらい強引なヤツの方が、相性がいいのかなあ。とにかく、会話が成立している。

僕はいきなりトレーニングルームに、連れていかれてしまう。そこにいたウサギの亜人が、もう一人のメンバーのようだ。ハルキによると、ウサコという名の少女だ。

「ハルキ、拾ってきたアメとかいうのは、こいつのことなの? 二人で戦うのはもう限界だ。しかし、即戦力には見えねえぞ」

「口の悪いヤツだな。間違ったことは言っていないけど……」

と、僕。

「ハハハ、面白い。ハルキが拾っただけのことはある」

と、ウサコは大袈裟に笑う。

そして、トレーニング開始。というより、僕がどんなものか見るのと、ルールを感覚として覚えろということだろう。

ウサコは、普通にも戦えるが、弱体化の技が豊富だ。いいダメージソースだぜ。ここでハルキが距離を取った。ハルキは、ロングビームを主軸にする、後方支援タイプだな。と思っていたら、目の前にハルキがいる。

「ボーッとすんなよ、アメ」

いつの間にか接近されていた。ハルキは機動力もあるってか。

ウサコが解説する。

「アメ、勘違いするな! さっきのハルキの急接近は、体力を使う切り札だ。実際、後方支援で合っているぞ」

それに続きハルキが反論する。

「命中率と回避率には自信がある。そこも強調して欲しいものだな、ウサコ」

そうしている間に、試合当日になる。相手はチームザル。四人メンバーだ。チームザルの話声が聞こえる。

「ザルさん、ハルキとウサコは危険です。ヤツらに再起不能にされたチームは多い」

「びびるな。低ランクのヤツらだけだよ。ランクを上げた今、我々に通用する訳がねえ。ロボバトルは実績が大きく離れたチームとは、遭遇しない作りになっている」

とやらザルはメンバーに説明する。ということは、チームザルは格上ってことになる。しかし、ハルキとウサコは二人でスピード出世したとも言える。

ハルキが指示を出す。

「早く突っ込め、アメ!」

「くっ、接近戦がメインのメンバーがいねえじゃないか。って、僕? 二人だけの時は、どうやってたんだ!」

と、僕は違う突っ込み方をする。とにかく実戦は初めての経験だ。僕の作った剣に通用するのか? とにかく行くぞ。

相手チームの方が数が一人多い。僕一人ではさばけない。その時、頭にウサコの声が響く。

「こいつ、もうリンクシステムを使えるのか! カラーは七色。正確にはもっと多い。まさに、虹のカラーだ。本当に存在するとは思っていなかった。ハルキのいっていたことは、大袈裟ではない。げっ、アメ、壁を登るな」

「壁?」

と、僕は意味がよく解らない。ウサコは恥ずかしそうに言う。

「壁を越えると、私の心が丸見えだ。アメはピンチの時以外、使用禁止! ならば」

これが、リンクシステムというものかよ。僕のロボットとウサコのロボットが入れ替わる。操者が替わったという意味だ。ザルがウサコに接近する。他のメンバーは、集中砲火を狙う。なんてことだ。僕では使いこなせなかった僕のロボットを、ウサコは自在に操る。これがキャリアの差というものだろう。ウサコは、敵のビームをことごとくかわす。

そして、遂にこの時が来た。僕の作った剣を、初めて他人が使用する。敵の一体が保護される。ウサコは驚きを隠せない。

「なんてパワーの剣だ。命中率は低いが、当たれば協会の救助が来るほどかよ!」

評判はともかく、僕の武器の感想が聞けた。これはでかい。

頭にハルキの声が響く。

「ザルは、もうこちらの作戦を見切った。アメは後方へ逃げろ! 後は二人で十分だ。ヘッヘー。リンクシステムは、当然俺とウサコも使える。言うならば、チームザルも使っているけど……。心を読まれないように、気をつけろアメ」

「禁止じゃないのかよ?」

と、文句を言いながら僕は逃げる。後は二人で決着を着けた。僕はロボットバトルなんてもう嫌だ。だが、もう遅い。足はどっぷりと浸かってしまったから。




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