第2話 隠しても前へ進む
人生ポイントが、本当にゲット出来た。実は僕は、かなり疑っていたのだ。何に使おうか? いや、温存か。年齢を重ねた方が、効果はでかい。もうひとつ言えば、もっと活躍したハルキとウサコの方が、分け前は大きい。差別だ! キャベルではない。これから活躍する気も起こらないけどね。
僕は、新しい武器の設計図を見ながらニヤける。ウサコが話しかけてきた。
「こいつ、どうやって計算した? まあ、置いとこう。アメもトレーニングはしておけよ。人生ポイントは、才能の強化であって実力ではない。次の相手は、ココログループのカランだ」
「ココログループ?」
僕の知らない言葉が出てきたぞ。ここでハルキの解説。
「大規模なロボ戦士集団のオーナーが、ココロという名だ。ついでに言うなら、元ロボ戦士で、トレーナーも兼任している。個人の力よりもチームワークを得意とする。カランは合体ロボットを使ってくる」
ハルキは、基礎トレーニングをこなす。ロボ戦士だからといって、そんなに特殊なトレーニングを積むわけではないのか。知らなかった。合体ロボの話だったな。僕の注意がべつのところへ行きかけたぜ。危なかった。
僕はトレーニングはそこそこに、チームカランの今までの試合をチェックする。合体すると機動力が低下している。図体がでかいと小回りが利かないのだろう。ハルキは、僕の感想を予想していたかのように言う。
「チームカランの合体は、リンクシステムを応用している。まあ大体、合体の使い手はそうなんがな。合体したからカランの機動力が落ちたのではない。それは心の反発だ。例えるなら、解り合った仲であっても、同じタイプの性格をしているとは限らないということだな。また、同じタイプの性格であったなら別次元の心の反発が生じる。それほどに合体システムは奥が深い。そして、それを使いこなしたのなら、機動力は増す。それに限ったことではないけどなあ」
ハルキの解説を聞いても、僕はピンとこない。合体ロボを経験していないからだ。僕らは、基礎トレーニングとカラン対策の両方の特訓を続ける。そして、カランとの対決が始まろうとしていた。
ハルキは軽く言う。
「まあ、見てろ!」
何を見ればいいかは解らないけど、とにかく集中だ。試合開始と同時に、ハルキロボとウサコロボは二身合体だ。この二人も使えたのか……。しかし、チームカランは合体をせず、ハルキとウサコを迎えうつ。凄い! ハルキとウサコの合体の的はでかくなったのに、チームカランの攻撃を受け付けない。一発も当たらない。
二人が遂にカランを捉えた。僕に合体とは何か見学しろってことだったのか。しかし、カランにダメージはない。クリーンヒットと同時に三身合体。防御力が桁違いだ。カランは指示を出す。
「ヤツらは、合体で集中力をきらす頃だ。たたみかけろ!」
「ラジャー」
と、カランメンバー達。反発とはこういうことだった。二人の心が同じもののはずがない。その『ズレ』が疲労を呼ぶ。ハルキから指示が送られてくる。
「疲れたから合体を解除する」
とのこと。ハルキとウサコは、長い付き合いのはず。それでも合体を使いこなせないのか。
カランは言う。
「俺達はタフだ。格を上げるためにも、ココログループにアピールする」
カラン達は、日々の特訓でコツを掴んでいる。かなり厄介だ。二人の合体は強力で、カランを追い詰めるほどだったのに……。
ウサコがこっちを見る。
「アメ、いくぞ! 合体だ 」
今度は、僕とウサコの合体かよ。動きが逆に鈍くなる。これがリンクシステムの欠陥。心の反発だ。僕の心がウサコの心を拒否する。ウサコは驚いた顔で言う。
「アメはやはり計算をひらめいている。前回と同じくだ。勘違いではなかった。私は見てしまった」
僕はウサコに訴える。
「解除だ」
しかしウサコは、
「まだだ」
ウサコは隠している。多くの人間がおそらくそうなんだろう。ウサコの心の闇は、酷くもろい。何時も強がっているウサコのイメージは崩壊した。ウサコは『優しさ』を隠しているのだ。その『優しさ』は、多くの者へ贈られる。
ここで問題なのは、優しさの定めは物差しでは計れないことだよ。受け取った者は、凶器にすら感じることもあるだろう。ところが、僕は心が安らぐ。そんな優しさだ。結論を言えば、優しいという言葉は万能ではなく、人によって受け取り方が異なる。だから、ウサコは隠す。知られることにおびえる。
僕はウサコに言う。
「もっと安らぎをくれ!」
ウサコのお節介は、僕にはオアシス。だが、ウサコから分離を行った、認められることも苦痛かよ、ウサコ。ウサコは考えながら言う。
「アメは、攻撃的な心にひかれるタイプだったのか。私のやり方でいいのなら、何時か救ってやりたい」
ハルキはつぶやく。
「計算をひらめくか……。興味深いな。そしてアメは、ウサコの一方的な優しさに触れたのに、火傷をしなかった。俺は今でこそ慣れたが、出会った頃のウサコの一般に言う『優しさ』を受け取れなかった。そういう心の位置だったのだ」
そして次は、僕とハルキの合体。カランは力強く言う。
「俺達のタフな心は崩せねえ。全員の心がひとつに集中しているからだ。トレーニングの成果は裏切らん!」
僕達は、カランを追い詰めているはずなんだ。しかし、本当にカラン達は防御に特化した巨大ロボットだ。倒すことは出来ないのか?
残り十五分。半分が経過した。もしかしてカラン達は、逃げ切りの勝ちを狙っているのかよう。残りの体力で制限時間まで戦うと、決着が着くルールだったよな。ここで、ウサコが僕に託す。
「私では無理だった。アメなら、ハルキの心を救ってやれる」
僕達三人は、バレバレの隠し方をしていた。心を隠していたんだ。
それでも、前へ進めるかい? 狂気の心がハルキから浮かび上がる。普段隠しているハルキの怒り、怨み、そして激しすぎる気性の悪さ。隠すために暴れているんだ、ハルキは。どうしようもない世界のルールの中で……。ハルキは言う。
「いい風が吹いている。人を恐れるアメの心が心地よい。だが、攻撃的な心こそが、アメの安らぎなのか。リンクシステム応用モード。ウサコ、準備しろ! 三身合体だ」
ウサコは、何時もの姿を見せながら言う。
「気は進まねえが、いいだろう」
カランが驚く。
「こいつら、合体したら機動力が飛躍的に上がった。さらに命中率まで……。心が反発し、普通はどれだけ低下を押さえるかの勝負なのだ。ヤツらに何が起きた?」
ハルキとウサコを感じる。ハルキのメッセージ。
「俺達は求めていた。心を隠さなくてもいいメンバーをな。今の三人がそうなのか、試したい。アメの計算をひらめく力は手数となり、命中となり、回避となる。これが、今起きている現象だ。カランが驚いてるぜ」
ウサコも続く。
「その手数の分だけ、弱体化の効果が追加されている。私達の心は反発し合っている。時間がない。集中力が切れかけだ。三人の隠している心を、何時か開けるように願う。隠すとは、嫌であることを意味する。その理由は様々だ。恥ずかしいってのが、私にはしっくりくるかな。でも、人間としてのルール、つまり限度は必要だ。腐ったバナナのようにギリギリまでルールを追い詰めたい。だが、プライバシーに踏み込むことを許されるのは、特別な心の部屋ひとつしかないんだよ」
何時か招待してくれよ、特別な部屋とやらに。なあ、ウサコ。ハルキもだ。
ここで、三人はほぼ同時に言う。
「いくぜ!」
ビームのキレは、ロング、ミドル、ショートへと変化していく。順番を守ろうよ。三身合体は、解かれるまであと十秒を切った。そして、リンクシステム解除。カランの合体ロボはボロボロだ。驚異のタフネスを誇ったが、チームカランは遂に撃墜された。
カランはつぶやく。
「俺達の敗因は、無理して同じものを目指したことか。一人一人違うのにな。ハハハハ」
僕達の連勝だ。やはり、ハルキとウサコは強い。僕は武器のヒントを探す。三身合体がもたらしたのは、理解するだけが正解ではない、という魂の言葉である。それは、強引なる『前進』で間違いはないであろう。
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