第10話 信じてなるものか

ココロは言う。

「シロトよ、お前は認めたのだ。ユキノの心も知った。知りたかったのだろう。ユキノのモーションを読んだのに、スキを作ったことが証拠だ。シロトはユキノの想いを受け入れたのさ。荷物が無くなり、軽くなっただろう。捜し物も見つかった」

シロトはココロに対して怒る。

「ココロオーナー。俺のユメはオーナーのユメだ。絶対に叶えてやる。俺はオーナーに報いる!」

ココロは笑顔のままで応える。

「うむ。期待しているぞ、シロト。姉ユキノを敵にする必要もないよ。どうやら私は、ユメをシロトとユキノに押し付けていたようだ。シロトはまだ私のユメを継いでいるのなら、自分自身の心で切り開いてくれ。私はバックアップを全力で行う」

「うん、オーナー。約束は守る」

シロトはユキノの腕の中で笑った。ズドン! ロングビームがユキノロボを貫いた。そこにいたのは……。

「チームアメ。決着を着けようぜ。コマペン様の命は下った」

と、タグが微笑む。ユキノはどうやら無事なようだ。シロトの白い毒の効果もあったぜ。

だが、この戦いではユキノは戦力にならないぞ。シロトは怒る。

「チームタグ。試合以外で攻撃してもいいのかよ。姉さんは無事でもな」

ユキノは決意の目で言う。

「私も戦います。この程度ではひるみません」

僕はタグをにらむ。

「ユキノは寝ていろ。黒い毒など無くとも、僕は戦える」

タグは笑顔で言う。

「実にいい朝だ。試合以外で戦えるよ」

「今は夕方だ。付き合っていられるかよ」

と、僕。ユキノも心配ではあるが、ここは戦うところだ。ユキノはシロトに任せればいい。

ハルキは悟った様子で言う。

「やはりアメは普通ではない。初めから解っていたことだ」

ウサコも続く。

「アメは、何故ぼっちへと自ら向かう?」

ユキノは悔しそうに言った。

「兄様は自分も他人も信じていません。私はこれほどに兄様を信じているというのに」

タグはニヤリと笑う。

「そう、アメは人を信じることが出来ないのだよ。コマペン様の向かった虹のカラーの発生地点。そこにいたのは、アメという名の少年だった。『ヒートの眠る場所』は存在したのさ」

「何が言いたい、タグ。みんな好き放題言いやがって」

と、僕は少し苛立つ。

虹のカラーの発生地点とは、ターフ少年の冒険というゲームで出来たはずだ。僕達四人は知っている。チームアメのメンバーだ。そして、僕は気付いてしまった。僕は人をそして仲間達を本当の意味で信じ切れていない。何故だ?

チームタグの二身合体。考え事のヒマもない。合体で大きくなったはずのタグのロボの動きは速い。合体前よりも速いのではないか。しかし、的はでかくなったぜ。しかし、ついていけない。ハルキのロングビームも、そこからの急接近も通用しない。こんな能力をタグは隠し持っていたのか。

タグが攻める。

「虹のカラーとは羨ましい。俺の場合、リンクシステムの際にタイムラグが発生しちまうんだ」

そう言うと、タグは三身合体する。更にスピードは上がる。

「当たらねえ」

とウサコがつぶやくほど、チームアメはチームタグに翻弄されている。これが本来の実力の違いだ。

ハルキは分析をする。

「チームタグは速度を操るリンクシステムを操るのか。合体をそのように使うとはな」

ウサコも苦しそうだ。

「強い! 勝てる相手ではないのか? しかし、まだ諦めんぞ」

タグは余裕を見せる。ヤツはまだ本気ではないぞ。

「うん。『ヒートの眠る場所』には、古代人つまり『本物の人間』がいるんだ。その生き残りの一人がアメだ。そして、アメは信じる心が無い。逆に言えば、流されにくい。今の新しい人々は本能を押さえ込み、それを『人間らしさ』とほざいている。古代人へと人は戻るべきなのさ。暴力はいけない。人々に優しくしなさい。そう教わってきたよ。俺は文化を破壊する。新しい人間達は、本能を抑え美学により『本当の心』を失ったのだ」

ハルキもそこは納得のようだ。

「確かに新人類はルールを作り、形だけ平和に見せている。そのルールの裏で、クズどもが動き他人を傷つける。だが、ルールを無くした人間なんて、ただの野蛮人だ。他の生物と大して変わらない。人格こそ失ってはならないものだ」

タグは無表情で続ける。

「クズしかいない人格などで、何が出来る。それを守るために、犠牲も気にはしない。人はかつての生態型に戻るべきなのさ」

ウサコは嫌な顔をする。

「私には難しいことは解らない。だけど、人格は時に喜びを分かち合うことは知っている。そしてコマペンは、古代人のデータをコピーし、人類を操ることが目的ってことか」

人格は違う喜びがそれぞれあるから価値がある。それは理解出来る。だが僕は、それ以前に何の興味もない。合体古代人にも今の人々に対してもな。僕はユメを追う。最大のダメージを叩き出す武器を求めて。

それだけしかない。僕は仲間も信じられないのだろうか? タグは笑う。

「フフフ、素晴らしいよ、アメ。君はただ自分のユメを追い、他人の信頼も信じない。アメは利用する価値がある。さすが古代人、コピー、アメ。キミは人を信じる以前の古い人種なのさ。頑張っても、信じることなど出来ないように作られている」

ウサコはハルキに問う。

「タグは本当のことを言っているのか? アメは私達ですら信じていないのか? そんな訳ないだろ」

ハルキは答える。

「それがアメであり、俺の理想だ」

ユキノは傷つきながらも言う。

「兄様は誰も信じていません。しかし、兄様は信じるに値する人格を持っている」

僕はこんな話、どうでもいい。

「ハルキ、ウサコそしてユキノの三人は、僕に信じろというのか? 他人のことなんて解らない。どんな非道なことをするかもな。そんなもの、信じてなるものか。ユキノは傷を治せ。僕はこの場をおさめるために戦う」

よく解らないが、僕は古代人とやららしい。どうでもいいさ。仲間は利害が一致した者。信じられるかというと少し怖い。今まで何度も、怖い目に遭ってきたから……。ウサコはつぶやく。

「アメは私達を信じてくれないのか?」

タグは遊び半分で戦う。そして僕達チームアメは、追い詰められた。ピンチだ。タグは言う。

「野性も知性もない。見事なまでの人間だ。それこそが今求められているのだ、アメ」

声が聞こえる。

「そこまでだ、チームタグ。今は試合中ではないぞ」

現れたのはアカリコーチ。そして続ける。

「私は一応メディカルコーチなのだ。ユキノの回復を最優先する。ロボバトルは苦手なのだが仕方ない。ナガイにも勝てないレベルだが、少しは動けるよ」

タグに余裕が無くなる。

「これがコーチレベルのロボット」

コーチは、チームタグの合体ロボのスピードについていく。そして、

「答えは何処にあるか? 探ってやろう。そうだな、こんな質問はどうだ。タグは何故コマペンに従う? 怖い? 見捨てられたくない? もしかして、タグは信じる心を持っているのではないか? 無理をして、コマペンに合わせているとか?」

「くっ。コマペン様はそれに値する! 黙れ、コーチレベルの分際で」

タグが動揺している。図星だったか。

チームタグは、本来の動きが出来なくなった。アカリコーチは、自分のペースにもっていった。チームタグは撤退する。アカリコーチは、こちらに向かって言う。

「ユキノの回復を急ぐ。キサマらはまだ若い。悩みに悩むがいい。さあ、戻るとするか」

三人は戻っていく。僕は一人動けない。僕達が本当の仲間なのか解らなくなったから。ユキノはつぶやく。

「兄様……」

ハルキはユキノに優しく言う。

「今のアメに何を言っても無駄だ」

ウサコは無言。僕は頭が悪いのかもな。





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