第9話 もういいんだよ

次の試合の相手は、久しぶりにココログループのヤツと、ハルキから連絡が来た。ここで確認だ。ココログループの所属チームは、個人の能力よりチームワークに重点を置いたチームが多いんだったな。だが、僕達チームアメもかなり成長している。次の相手は誰かは知らないが、トップクラスにも僕達は通用するのでは? チームタグともいい勝負をしたしなあ。まあ、トップクラスは言い過ぎだったかな。

僕達は今日もトレーニングだ。アカリコーチは、退屈そうにそれを眺めている。コーチはバトルは専門ではないと言ったが、少しは身につけるとか考えてもいいのに。無気力のアカリコーチには厳しいのかも。

次の相手はチームシロト。どの程度の実力だろうと僕達は負けないぞ。データによると、シロトの年齢は十二歳だ。そんな少年でもここまで戦い抜いてきたのだから、油断は出来ない。チームアメはランクを一つ上げ、更に強敵と遭遇しやすくなっている。ハルキによると、そういうルールとのこと。だが、ユキノの作り上げた武器は、かなり強力。それはチームカワノ戦でも証明した。

ここで僕は、何故かユキノを思い浮かべていた。年齢が近い。ハルキが何時も通り作戦を提案してくる。

「チームシロトはかなり強い。なんと言っても、ココログループの切り札だ。まだ少年であるというところをつけば、勝てるかも知れない。シロトは『白い毒』の使い手だぞ」

ウサコがハルキに問う。

「白い毒って、黒い毒と関係があるのか? それとも偶然か」

ここで、ハルキではなくユキノが、その質問に答えた。

「関係はありますね。私の弟にして実験体で最も優れた才能を持つ。ココログループの最高傑作の呼び声も高い程です。シロトは、黒い毒と白い毒を使い分けるスタイル。白い毒の方は癒しの効果のようです。兄様ならシロトの暴走を止められると信じますよ」

「信じすぎると痛い目にあうぞ、ユキノ」

と、僕は言葉を返す。

ユキノは無表情で語る。

「兄様の実績そして何より人格は、多くの者を引き付けています、多分」

「最後のは何だ?」

と、僕。コーチはあくびをしながら言った。

「何だ、チームアメのガキども。こんな結果の見えた戦い、会長も組まんでもいいのになあ。あっ、ナガイに聞かれるとまずい発言だった」

結果が見えている? そんなにシロトは強いのか。

ついでに、ナガイさんにターフ会長への悪口は怖そうだ。今はそれどころではない。アカリコーチはロボバトルには詳しくないはず。ハルキが少しイラついた声を出す。

「コーチ。俺達は勝てる見込みがないと?」

コーチはため息をつく。そして言う。

「逆だ、チームアメ。確かにロボバトルについて、私はよく解らん。ビデオを見たが、シロトとかいう少年はスキだらけだ。強いか弱いかそれ以前に負けている。二つも三つも背負い、その上シロトは『誰かさん』を探していたよ。ココロのおっさんも苦労しただろう。それよりも、チームタグを警戒した方が良さそうだ」

アカリコーチはユキノを見ない。今ユキノがどんな表情をしているか知っているかのように、『誰かさん』ってのは、ユキノで間違いなさそうだ。あと、チームタグを警戒か。確かに勝ったという内容ではなかった。前回のチームアメとチームタグの対決で、タグは余裕を見せまくりだったよ。勝った気は全くしなかった。

ウサコは真面目に言う。

「コーチがどう判断しようが、油断するな、みんな」

「おう」

と、みんなで応えた。コーチは一人でつぶやく。

「そういう意味ではなかった」

どういうことだ? いや、コーチはコーチは必要ない言葉だと判断したのだろう。だから、強く言わなかった。それよりも、あのユキノのセリフがない。コーチが言ったことを気にしているのかも知れない。僕はこういう時、気の利いたことを言えないんだよな。逆効果になってしまう。

そして、試合当日。武器を鍛え、トレーニングも積んだ。コーチの言った楽勝とは思わず、気を引き締める。シロトはもうロボット化している。二十メートルクラス。サイズは大人も少年も関係ないかもな。試合開始時間が近づいてくる。シロトはユキノを見る。

「俺達は、ココロオーナーのユメのため戦ってきた。俺達はオーナーに託された。コマペンをターフ会長の能力で倒すため! そいつが『兄様』かい、姉さん」

今度はシロトが僕を見た。ココロオーナーとやらが、シロトに付いている。コーチの言った通りにはなりそうにない。ココロが恐らく指示をリンクシステムで出してくる。そうなれば、チームシロトは多分強い。ココロはユキノに言う。

「ユキノの選んだ道を否定する気はない。ただユキノにも、私のユメを継いで欲しかった」

シロトは無表情で言う。

「ココロオーナーには俺が残っている。地の果てまで、俺はコマペンを追う。オーナーに叶わなかったユメとは、俺が言わさない。姉さんの『兄様』の話はよく聞いた。ヤツの強さは、仲間を信じられないのではなく『信じない』心だって解っている」

チームシロトのメンバーが言う。

「シロト、熱くなるな。俺達を引き出せるのはシロトだけだ」

「ああ、すまない、ココロオーナー。姉さんも兄さんも妹も弟も、みんな壊れた人形だけど、その無念は俺が継ぐ」

壊れた人形とは、実験の失敗作の山のことだろう。ココロは何故コマペンにそこまで執着するのだ? とにかく僕達は勝たなければならない。いや、そうでもないけど、勝った方がいいはずだ。

ユキノが僕へつぶやく。

「兄様、遠慮はいりません」

「ああ」

それが、開始の合図となった。チームシロトは四身合体だ。こちらも三身合体で対抗する。シロトはやはり黒い毒と白い毒担当だ。ユキノとスタイルが似ている。

ココロが大きな声を出した。

「シロトはコマペン以上の才能を持つ。だが、弱いそして脆い。ターフの刀を改良しておいたぞ、シロト。克服するのだ、姉と戦ってでもな」

ココロのユメを背負って、兄弟の無念を背負って、シロトは戦う。ターフの刀とやらは高性能だ、ユキノの武器以上の完成度だ。

ユキノは言葉が少ない。僕達のことを思ってのことだろう。勝つか負けるかしかないってか。ハルキが驚く。

「白い毒の回復スピードが速すぎる。予想以上だ。黒い毒の疲労も俺達の与えたダメージもすぐに元通りかよ」

ウサコも言う。

「コーチは読み間違えたんじゃねえか」

ココロは穏やかにユキノに言った。

「素晴らしい仲間に出会ったようだな、ユキノ。だが、『それだけ』ではチームシロトに勝てない」

ユキノは少しイラッとした声を出した。ユキノにしては珍しい。

「元オーナー。私がシロトより劣っているから勝てないと?」

ココロはため息をつく。

「そう捉えたのならば、そう思うがいい、ユキノよ」

それにしてもチームシロトは強い。ココロの技術も凄い。

コーチの言っていたことは、何だったんだ。このままでは負ける。僕はリンクシステムを使い、ハルキとウサコを強化。そして、ダメージカットのイメージを送った。しかしその程度では、三身合体すら消耗していく。一方チームシロトの四身合体は、白い毒により鉄壁を誇る。今になって、アカリコーチの言っていた『そういう意味ではなかった』という言葉が重要に思える。何故あの時スルーした? 二つも三つもシロトは背負って、『誰かさん』を探しているのだったな。

んっ、よく見るとシロト自身が大ダメージを負っている。合体ロボに忙しく、シロトは自分を犠牲にしてやがった。まさか、アカリコーチはこれのことを言っていたのか。ならば、僕の選択肢は一つ。リンクシステムなんて面倒だ。

行くぞ、ユキノ。僕はユキノに向かい大きな声を送る。その言葉は、ココロにもチームシロトにまで届いた。かまうものか!

「ユキノ、自分の今一番頭に浮かぶものを吐き出せー!」

ユキノのセリフに何時ものキレが戻った。

「兄様、私達は兄様を信じていますよ。なのに兄様ったら、一人だけ誰も信じてないんだもの。ずるいですよう」

チームシロトのメンバーは口々に言う。

「ユキノさんが一人で突っ込んで来やがる」

「凄いバカだ。狙いは傷付いたシロトへの攻撃か。行くぞみんな、集中砲火だ!」

「おう。それにしてもユキノさんは何を学んだかと思えば、シロトに逆戻りかよ」

しかし、シロトは。

「テメーら、姉さんは何をしに来るんだ? そうじゃないぞ」

ユキノが被弾していく。僕達に出来るのは、少しでもユキノをフォローすること。ハルキは反対だったけどな。でも結局ハルキは、巻き込まれる性格なんだよ。三身合体の僕達のロボットも、大打撃を受けている。ユキノとシロトに剣がぶつかる。

「強くなったね、シロト」

ユキノの剣は、シロトに弾かれ飛んでいった。

ここでチームアメは確信した。そしてココロも。だが、チームシロトのメンバーは気付かない。

「チャンスだー、シロト。ユキノさんはスキだらけ」

ココロは笑い出す。

「フハハハハ。スキだらけなのはシロトの方だ。素晴らしい結末だよ」

シロトが叫ぶ。

「俺は姉さんを倒す!」

しかし、シロトの剣は振り下ろせない。シロトはユキノの剣を弾いた時、スキを作ってしまっていたのだ。もちろん、ユキノの行動を読んだ上でな。

シロトロボは、ユキノロボに抱き締められた。ユキノはシロトに思ったことを伝える。

「シロト、もういいんだよ。何も背負わなくていいんだよ。かつての私の面影も、探さなくていいんだ。兄様を計らなくていいんですよ。それを邪魔する者がいたのなら、このお姉様が許さないです」

一方、シロトは。

「姉さん、何を言っている? 俺は俺のしたいようにしてきた!」

ココロはニッコリと笑った。

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