第11話 糸の価値

アメはまだ戻ってこない。トレーニングにも出てこない。アメは何処で何をしている? 物語の語り部は、一時ウサコへと移る。

私の名はウサコ。十七歳。合っているはずだ。アメは私を本当に信じられないのだろうか? 古代人とは何だ? 解らない。真実の糸は不器用で、何万回繰り返しても針の穴を通らない。真実の糸という名の由来は、私はアメにとって選ばれた者という妄想からだ。本当は、ユキノの持ち物かも知れない。だけど、不器用なのは私の味で個性だと思っていた。

しかし、今回だけはそういう誤魔化しはイヤだ。不器用でも、何度だろうとチャレンジしてやる。ウサギと人間との中間に当たる私。いつも嫌われていたけど、明るく振る舞って生きてきた。そこで、ハルキに出会った。そして、戦いに明け暮れたよ。

ハルキはこちらを見る。

「ウサコ、アメのことが気になるか? 真実の糸とやらは、不器用なキサマを現している。上手いこと名付けたものだ。しかし、人にはやはり才能の差というものがある。それを良しとするかは、今問題ではない。一人では針の穴は通せないよ」

「そういう意味で真実の糸と言っている訳ではない。それはいいとして、誰かに頼れと言うのか、ハルキ?」

と、私は問う。

「キサマに出来ればの話だ」

言いたいことだけ言って、ハルキは部屋から去った。アメは戻ってこない。だから、今回は不器用を言い訳にしたくない。頼れるのはユキノだけだ。でも、頼ってはいけない。彼女は大切なものを失うことになるから。

しかし、そのユキノは。

「仕方のないウサギ女ですね。今頃不器用なことを克服しようなんて、バカのすることですよ。兄様だけでなくウサコさんも、私を信じることが出来ませんか?」

「いいのか?」

「私はあなたのそういう所が嫌いなのです。回りくどい。一見、明るい性格のように思えるのですが、大間違いでした。不器用を克服するなら、私は手伝います。だからといって、兄様の心を諦めた訳ではありません」

と、ユキノは語る。

ユキノの目に映るものは何だろう? 今日から、ユキノのレッスン教室が始まった。レッスンとトレーニングを繰り返す。ロボバトルは、次こそアメにも参加して欲しい。チームアメだぜ。チームリーダーがいないとは空しい。

そんなある日、私は砂漠へと向かった。気分の問題だろう。行き先に深い意味はない。砂漠に、目立つ一人の初老の男性を発見。どうやら絵を描いているようだ。邪魔したら悪いだろうか? 牛乳を飲み始めたおっさん。

休憩中と私は判断し、話しかけた。それにおっさんは答える。

「うん? ウサギの亜人か。俺は画家だ」

と、おっさんは胸を張る。威張る。要素は何処にあったのだろうな。

「名は何という?」

「聞いてなかったのか、嬢ちゃん。俺の名はキングオブ画家だ」

どうやらこのおっさんは、画家であることを誇りに思っているらしい。

私はおっさんと会話する。

「そこまで自信があるのなら、値は張るのだろう?」

「カネはとらねえよ。俺は代金として、モチーフになるものを戴く」

「何でもいいのか?」

「どんな物にでも対応出来なければ、キングの名は語れねえ」

私は少し考える。

「難しいな」

「高いもんでもいいぜ。質屋で売る。というのは、半分冗談だ。ウサコはロボバトルの選手だって。武器なんてどうだ? 値の張るもんもあるぜ」

と、おっさん。突っ込まないぞ、私。

「そうだな。おっさんの絵をモチーフに、武器が造りたい」

「何だと。モチーフカウンターとは、お主出来る!」

と、おっさんは一人芝居を続ける。

そして、おっさんは絵を描き始める。完成した絵は五分程度で届いた。このスピードは、どう捉えていいのか難しい。

「これは水鉄砲? これをモチーフにしろと言われてもな。いや、これは凄い」

「代金は、その武器を使う時の観戦チケットで頼む」

と、おっさんは興味を示す。

「本当にそんな物でいいのか?」

「そんな物と言う割には、自信ありって面だぜ、ウサコちゃん」

今、真実の糸の価値が問われる。いや、違う。ここは、糸の価値とでも言っておこうか。しかし、どんな自信作でも判断を下すのはアメ本人だ。私は、アメのユメの手伝いがしたい。その先に何があるかは知らないけれど。

ウサギ族はかつて、人間を上回る戦闘能力開発の実験として生まれたのだ。私に対し、大人達は闘争心の高さをほめてくれた。他の能力はイマイチだった。そして私は、ほめられたことがきっと嬉しかったのだろう。今なら解る。そんなもの何の価値もなかったと。

道連れの部屋と、私は名のない部屋に刻んだ。アメの言葉を元にした名前。道連れにしろって、頼れって、信じろって、かつてアメは言ってくれた。なのに何故アメ自身は、私を信じない? 私という糸に価値があるかどうか、アメに見せつけてやるよ。

道連れの部屋に何故アメは訪れようとするのか、私には解らない。そんなバカは初めて見たから。その部屋には、何の価値もないというのに。私の醜さの詰まった部屋で、アメは何をしたいのだろう?

とにかく、糸の価値を叩き込む! 水鉄砲をヒントにした私らしい武器だ。完成は何時だ? 不器用だから思い通りにはならないけど、信じてくれるよな、アメ。

一方その頃アメは、ココロオーナーのところにいた。語り部は再びアメへと戻る。ココロは僕に説明する。

「アメだったな。最強の武器は何かという定義はない。そして、孤独に生きたキミでは、どれほど強力な武器でも最大ダメージは叩き出せない」

僕は思い当たるところを聞き返す。

「仲間の協力が必要ということですか?」

ココロは軽くうなずいた。

「それも一つの答えだ。だが、飛び抜けた能力を持つエースの中には、それを必要としない者もいる」

「一人で何役もこなせるってか」

「それだけではない。一人で何とか出来る『理由』を持つ。それは、感情の突出した何らかの要素だ。例えば、復讐心だったり、守りたい者のためだったり、怒りなど様々だ。そして、アメは当てはまらない」

ココロのおっさんも、精神論を語るのか。確かに、そこを出発点としているのは正しいかもな。そしてココロオーナーは、ターフ会長の使っていた剣を僕に渡す。僕はイラっとした。

「この刀が凄いことは解る。だが、僕は自分で作りたいんだ」

ココロオーナーは無表情で続ける。

「誰がその刀で戦えと言った。その刀はきっとキミに足りないものを教えてくれるはずだ」

「ヒントはそれか」

そして、しばらくすると通信が入った。ウサコのナンバーだな。今は余り有り難くないが、僕は応じる。

ウサコは機嫌がいいらしい。

「アメ、私は武器屋ではないが、素晴らしい品を手にした。私が作り上げた物だよ。アメなどには負けないぜ。じゃあな」

と、通信は切れる。何がしたいんだろう、ウサコも僕も。ココロオーナーは最後に一言加える。

「人生ポイントを全てつぎ込むほどの武器に出会えるといい」

僕は一人さ迷う。何処へ行こうか? かつての町に戻るのもいいかもな。考え事をしていると、巨大ロボットが道を塞ぐ。

「ロボバトルを申し込む。チームアメのロボ戦士で合っているだろう。コマペン様が捕まえてこいと言っていたのでな」

「拒否権は僕にはないと?」

「当たり前」

こちらもロボ変身だ。

運が悪い。いや、何時かはこうなっただろう。

「それであんたは、何者で何がしたい?」

「俺のことを言っているのか。シロイカゲというコードネームだ。コマペン様の目的は、俺も詳しくない。少し痛い目にあって貰おうか」

ちっ、武器はどうするかな。ターフ会長の刀はどれ程か確認するのもいいだろう。ココロオーナーの作品らしい。

剣と剣がぶつかる。シロイカゲとやらは強い。シロイカゲは驚いている。

「その剣は何だ? これはやばいぞ。俺は力負けをしたことがないが、押されている。しかし、ラッキーだ。こいつ、剣に振り回されてやがる。使いこなせてねえ。恨みも悲しみも信頼も背負った刀だな。それだけの覚悟で作られたものを、使いこなすのは容易ではない」

確かに、強力な剣だ。しかし、ターフ会長用に作られた覚悟の剣。丁度いい。ヒントとやらを見せて貰おうか。僕に足りないものを。しかし、これほどの刀をもってしても、僕の圧倒的な不利。押されている。しかも、シロイカゲはまだでも全力ではない。

僕は、わずか三分間でボロボロにされた。ちっ、やはり来るか。

「ハルキ、ウサコそしてユキノ、これは試合ではないぞ」

ハルキは感情を抑えて言う。

「チームリーダーが最近さぼっているので、呼びに来たんだよ」

「まあ、そういうことだ」

と、ウサコも言う。

「兄様にも考えはあるのでしょうが、仲間を裏切ってはいけませんよ」

と、ユキノ。僕は何を信じる?

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