第12話 一回で十分だ

シロイカゲは一人にも拘わらず、余裕の態度だ。

「ぞろぞろと出てきたね、チームアメ。コマペン様には、アメ以外はどう扱ってもいいと言われているんだ。どうしようか」

ハルキの指示で三身合体。ユキノの毒を使う何時ものスタイルで撃つ。おいおい、シロイカゲには、三身合体も黒い毒も通用しない。僕にウサコに問う。

「凄い武器があるんじゃないのかよ」

「今はそのタイミングではない」

と、ウサコ。何だってんだ。ウサコがスタミナ切れを起こし、合体はウサコとユキノがバトンタッチする。

近づいても離れても、シロイカゲは対応してくる。何者なんだ? コマペンはどういう部隊編成をしているというのだ。ユキノがつぶやく。

「やはり、私では兄様を引き出せないです」

ユキノはウサコを目で捉えた。

ハルキは、疲れた表情で言う。

「シロイカゲとやらは、何者なんだよ。ナメていたが、一人で四人を相手にして、なお余裕を保つ。ウサコ、新しい武器とやらは、コイツには向いていないのか? 自信作らしいが……」

ウサコは答える。

「試してみる価値はありそうだ」

ウサコはムチのようなものを取り出す。シロイカゲは油断している。いけー、ウサコ! ウサコも気合いが入っている。

「ここまでだ、シロイカゲ!」

ウサコは、ムチをシロイカゲに叩きつける。しかし、効いているようには見えない。驚いているのはウサコだ。どういう武器かは知らないが、通用する自信があったのだろう。

「これは凄い武器だと思ったが、欠陥でもあったのか?」

ウサコはガックリとしている。

シロイカゲは少し表情を変えた。

「やるじゃないか、ウサコ。驚いたよ。狙いは悪くなかった。俺クラスでなかったら、餌食だっただろう。ムチに温度差を持たせ、ウサコの弱体化能力を高める。で、それが切り札かい?」

ユキノは表情を変えた。

「もしかしたら、同時間のカラーを三身、四身合体させることが、逆効果なのでは?」

ハルキは考える。

「弱体ムチの特性のことか、ユキノ?」

ユキノはハルキを見る。

「弱体ムチは、恐らく兄様の能力を高めるものです。ウサコさんは、自分でもそこに気づいていなかった可能性はアリですね」

ハルキは悩む。

「セオリーとは異なる。そうなると、俺とユキノが邪魔をしていることになる。でも、どうすればいい? シロイカゲはそれほどに強力だ。んっ、待てよ」

ウサコが問う。

「ハルキ、何か思い付いたか?」

ハルキは笑い出す。

「フハハハハ。俺とユキノは、二身合体のサポートをする。ウサコ、キサマは何が出来るか自分で考えろ!」

「私とハルキさんでは踏み込めません」

と、ユキノまで。ウサコは悩んでいる。これはどういう状況だ?

僕とウサコはリンクシステムで戦う。しかし、突破口は見えない。この作戦でいいのか、ハルキよ。ウサコは僕に言う。

「踏み込めるのか、アメ?」

この状況で? 踏み込む? まさか、プライバシーに踏み込んでもいい一つだけの部屋。客人は一人だけ。道連れの部屋とやらか。そんな余裕が戦いの中で有るのか? 嫌な予感がする。

だけど僕は踏み込む。ヘビでもトラでも出て来やがれ。これがウサコの必死で隠していた部屋か。

「ハルキなんて気に食わねえ。いつも私が作戦通りに動くと思うなよ」

何だ? ウサコがいつもと違う。

「待っていたぜ、アメ。もてなしてやるよ。ユキノもいい加減アメを諦めた方がいい。いつも自分の理論を押し付ける。醜いたらありゃしない。見てる方がゲロ吐きそうだ」

これが、『道連れの部屋』だな。ここには、普段言えないウサコの不満が集まる。これもまたウサコの本心だ。

「アメも一人で居なくなりやがる。仲間のことなど考えていない。自分のことしか出来ないのに、大口たたくバカだ。自分のことも出来ないクズだから、自ら消えたのか、フハハハ」

「ウサギ族? ふざけた種族だ。戦闘能力のための犠牲など、他に求めればいい。思い上がったクソどもの集まりだ。アメにはドリンクを出そう。もてなしてやるよ」

「くっ!」

と、僕。

ドリンクには、ゴキブリが二匹ほど浸かっていた。

「いい湯加減だろう、ゴキブリ」

ウサコの記憶がだんだん古くなっていく。この部屋には、アルバムがたくさんある。ウサコ、それを僕に伝えているのだろう。アルバムが山のように積んである。

僕は全て聞く。覚悟するんだ。ウサコのことをもっと知るんだ。

「ハルキもアメも居なくなればいい。それとも私に奴隷のように使われたいか。あっ、アメのことは、存在すら忘れていたぜ」

ウサコの心は、様々な話を聞かせてくれる!虹のカラー? まさかこれが、『同時間のカラー』だ。

今、僕とウサコは同じ位置にいる。リンクシステムは、最高ランクを叩き出す。

「なあ、アメ。これが私だよ。ウサコだよ。何度も何度も私の本音を聞かせてやるよ。嫌なら消えろ。失せろ。壊れろ」

「残念だなあ、ウサコ。一回で十分だ。もう、『道連れの部屋』へ訪れることは踏み込む」

と、僕はウサコに告げる。

「どういう意味だ、クズヤロウ」

僕ははっきりと宣言した。

「この部屋は無くなるから。無くなっても、僕に不満をぶつければいいから。僕はこの部屋に来ることで、ウサコを『信じる』ことが出来たから」

「ならば、真実の糸をつかめ、アメ。絶対に離すんじゃないぞ!」

「それは約束出来ないな。手が滑る日もある」

ウサコは笑っている。

「それは私と同じだな」

僕も言う。

「なら、共に戦っていこう」

「一つ忘れているぞ、アメ。ユメを叶えろ」「了解だ、ウサコ」

そして、僕は戻ってくる。ハルキとユキノは、必死でサポートしてくれる。応えてやるぜと言いたいところだが、シロイカゲは強い。どうやって崩す?

まずは、情報の整理からだ。弱体ムチは、相手を文字通り弱体化させる。有効な時間は、現時点で六秒ぐらい。弱体化の強化を考えるとは、ウサコは僕のことをよく解っている。ダメージを格段に高められる。でもそれだけでは、シロイカゲクラスの強敵には通用しない。

水鉄砲をヒントにしたと、ウサコは言っていた。敵に温度差でスキを作る戦法ということだ。ターフ会長の刀を使い、ヒントを掴んでやる。僕に足りないものとやらと、シロイカゲの攻略法の両方だぜ。

シロイカゲは余裕をもって言う。

「アメよ、何処で遊んでいたのかな。何が変化したのか、見せてみろ」

ハルキは僕をからかう。

「アメはウサコの毒薬でも飲んだのかい? 顔がひきつっている。いい面だ。薬だと俺は言っておく」

ユキノの表情は、ハルキと違い硬い。

「私は兄様に選ばれなかった、器用なだけの糸。何が正解かは解りません。それでも、新たな道を探したい。真実の糸とは違う世界でも、私という名の糸は道を切り開く。兄様は何十年経っても、兄様のまま慕い続けますよ」

ユキノは次の日々を計画し出したのだろう。それがどんな世界、僕はユキノを見捨てはしないだろうな。それでいいかは知らん。

それよりも、シロイカゲを倒しコマペンまで辿り着いてやる。コマペンが何をしたいのかは、確認した方がいいはずだ。黒い毒と弱体ムチのコンビネーションで、さすがのシロイカゲも鈍ってきた。だが、敵はしぶとい。僕は強力な一撃に賭けるが、決定打にはならない。

シロイカゲは、今がチャンスと攻撃に転ずる。チームアメとシロイカゲ、両方とも消耗が激しい。シロイカゲは少し余裕をなくした。

「ターフの刀か。それの使い方が解らないうちに、ケリをつける」

ハルキも焦る。

「ちい。決着をつけに相手が突っ込んで来やがる。アメとウサコの同時間がカギだな」

「やってやるさ!」

と、僕。ウサコも続く。弱体ムチがシロイカゲに直撃するも、勢いを止められない。

だが、この戦法は間違っていない。敵の防御力は確実に低下した。後は、僕の一撃必殺にかかっている。これほどの刀で決めなければ、ロボ戦士を名乗るに値しないってことだ。いくぜ。





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