第13話 百億の歩み

 道連れの部屋で、ウサコの心を僕は知ったんだ。僕は部屋の代わりになってやる。だからもう、ウサコは不満を溜め込まなくていいんだよ。今はまだそれだけの能力は無いかも知れないけど。


 僕の渾身の一撃が、シロイカゲに弾かれた。そんなバカな! ハルキが焦る、

「来るぞ。だが、アメの一撃で攻撃力が低下している」


 何とか凌いだが、ピンチに変わりはない。それはシロイカゲも同じ。


 ウサコが僕に檄を飛ばす、

「もう一度いくぞ、アメ」

「了解」

 と僕。しかし、ハルキが異変を感じ取った。

「待て、アメとウサコ。様子がおかしい。何、囲まれているぞ!」


 シロイカゲは満足そうに言う、

「こいつらは、教育の魔神。この世界を強引に住みやすくしてくれる。つまり、この俺シロイカゲは捨てゴマだったのだ」


 しばらくすると、教育の魔神とやらは動きを止める。コイツらは何者だ? 何がしたいんだよ!


 教育を強引に行うだと。ふざけやがって。どう教育するのかは知らないけどな。声が聞こえる、

「シロイカゲよ、よく戦った。お前にも生まれ変わる世界を見せてやる。だから、捨てゴマなどと悲しい考えは捨てるがいい」


「コマペン様…。俺は撤退します」

 そう言って、シロイカゲは去って行く。


 で、このペンギン人間が、伝説のコマペンとやらかい? コマペンは理想を語る、

「俺の目的は、そうだな『百億の歩み』とでも名付けるとしよう。それを破壊すること。ターフとココロは、技術に染まった危険かつ有益な教育者だ。チームアメも、ターフの理想を、知らないうちに叩き込まれているのさ。人間は前へ前へと進んできた。多くの犠牲の下にな」


 ハルキは珍しくその言葉に怒りをぶつけた、

「コマペンとやらの目的は、教育の魔神で理想の世界を造ることか。かつての人類に戻すという。百億の歩みつまり人々の培った文化と技術の秤。確かに、犠牲もあったろう。だが、今ここにある名もなきヒーロー達の犠牲。そして、それらに関わった者達の犠牲の上に、技術も文化も成り立つのだ。それさえもいらないと言うのか、コマペン!」


 コマペンは言葉を止めない、

「今日は、チームアメと話し合いに来ただけだ。ルールもない、法もない、ただ自分の求めるものを探せる世界こそ、『ヒートの眠る場所』だったのだ。俺は、今の管理された世界の犠牲者の一人。他にもいくらでも、そんなヤツらはいる。常識と美学達にはねのけられた人々のことさ。言ってしまえば、『俺』の生きやすい世界にすること。それについてくる同志も集まった。タグは、ターフの送り込んだスパイだったがな」


 僕は少し考える。僕はどうだろう? 何も正しくなんてないんじゃないか。正しいのは、自らの妄想のみだ。


「つまり、コマペンの理論で言えば、全ての人間の望みと言いつつ生き残るのは、それを貫く能力を持った者のみということだな」


「その通りだ。話が早い。俺の存在を都合良くするためのもの」


 そうか。コマペンは、自分の居たい場所があるのだな。作るしかないのだな。生まれ持ったパワーという名の才能で。コマペンは、僕と同じく孤独に生きてきた。だからこそ、意味がある。


 僕はつぶやく、

「自分の理想を全ての人間が求めても、叶いはしないさ」


 コマペンは納得する、

「そういうことだ、チームアメ。能力のある者だけが、理想を掲げることが可能なのだよ。だから、この俺の理想のみが生き残る」


 僕は何を求めるだろう? そしてそれを、僕はコマペンと同様に他人達に押し付けたいのだろうか? 解らない。僕にはそれだけの才能も頭脳もないから……。


 ターフ会長がこの場へと訪れた。

「コマペンよ、私達ロボ戦士達は、コマペン部隊を退ける。ハルキ選手の言ったように、文化も技術も私達で考え、活かしていくのさ」


「キサマはまだキレイごとを言うのだな。ターフもココロも、頭の悪い人間ではない。だから、いつか俺を理解してくれると思っていたが、期待ハズレだな」


 コマペンの例えた言葉は、『百億の歩み』だった。一万を越える年月で、人々は百億歩ぐらい進んだと言いたいのだろう。それほど『前』を見続けた者だけが勝者になれた時代が、これまでの歩みってかい。その美学達は、一部の人間を退けた。そして、美学達を掲げる者達も、美学に縛られ思うように動けない腐った時代。


 知恵のある者達は、隠し通路を使い上手く生きてきた。教育の魔神とやらは、コマペンの思想を埋め込まれた機械人形。従わないようは、教育に失敗したら消す。そんな存在。ここで、ターフ会長とコマペンは、とりあえず去って行く。話し合いは決裂したと見ていいだろう。


 そして、ロボ戦士達はコマペン部隊と戦うため、準備段階に入る。試合もこなしていく必要があるらしい。


 ウサコは僕の隣に座る、

「アメは、コマペンの言うことも、会長の言うことにさえ気にする必要はないぞ。真実の糸である私を、掴み続ければいい」

「トレーニングはいいのか、ウサコ」

 と、僕。


 ウサコはゆっくりと話す、

「アメの原点とは何かを、私は考えていたんだ。アメは、何故これ程までに武器屋であることにこだわるのか? 私でも多くは理解出来ないよ」


「僕の原点かあ。僕は数字の動きつまりはその枠の中で、叩き出せるダメージを求めてきた。気が付いたら、そんな人間になっていたよ」


「そうか……」

 と、ウサコは僕の言葉に対し、多くは語らなかった。


 僕の原点を思い出すのは難しい。テレビゲームとの出会いだった気がする。それも当てにならないか。ならば現時点で、僕の求めるユメを持とう。二つの腕で支えられない程の大物ならば、ウサコいやチームアメのメンバーの手を借りようかな。そうか! そうやって、コマペンは今に至るのだな。


 ハルキは僕達に確認する、

「ターフ会長に従う必要はもはや無い。ロボ戦士達は、コマペンを倒すための道具ではないのだ。ターフ会長も理解しているはずだ。次の試合に出たくなければ、サボればいい」


「考えておくよ」

 と、僕はとりあえず言った。そして、チームアメはみんなうなずいた。


 しかし、トレーニングを休むことはない。百億の歩みとやらが重いのか軽いのかも解らないまま、日々は進んでいく。誰が参加して、誰が去って行くのか、解らない。だが、ターフ会長とコマペンの対決は、遠くはないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

同時間のカラー 大槻有哉 @yuyaotsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ