第2話その一瞬
やってしまった。
自転車で転倒して右肘を強打してしまった。
「転ぶときは左側に。右側は車にひかれる可能性が高いから」
と言われていたのだが、もうどうにもならなかった。
スピードがさほど出ていなかった(でも、止まり切れずにつんのめったような状態だった)のと、信号手前で車が減速していたのでひかれずにすんだ。
でも、車道の真ん中あたりまで自転車とともに転がった。しばらく手が動かなかった。20分ほど休んで、なんとか手が動くようになったので、右手をかばいながら自転車に乗って帰宅した。
あまり外傷の経験がなく、単なる打ち身なのか、ヒビでも入ったのかわからない。でも、とにかく痛い。動かすと激痛でしゃがみこんでしまう。着ていたシャツをなんとか脱いだら、肘の形がなんだか違う。
脱臼ってこんな感じ?
こんな時に仕事のことを思い出すくらい仕事人間になっているのが我ながら哀しいが、連休明けに腕が動かないととても困る。
日曜日だし、もう夜だし、どこで診察を受けられるのかわからない。
そういえば、市の広報誌に休日診療の案内があったなと思い、電話をしたがちょうど夜間診療が始まる前で留守番電話の対応だった。同じ欄に消防署が24時間で診療の相談に乗ってくれるとあったので、そちらに対応してくれそうな病院を教えてもらった。
ダンナに頼んで車を出してもらい、時間外救急の窓口に行った。事前に電話をしていたので、スムーズに診療してもらえた。骨には異常がないと言われ、腫れているので冷やして様子を見てみてくださいとのことだった。大騒ぎをしたようで気恥ずかしかったが、それでも旦那が「よかった、よかった」と言ってくれたので救われた。
でも、痛い。横になるのが一苦労なのに驚いた。腕の向きが変わるのが堪えるのか?横になる時の人間の体の動きは意外と複雑なのかもしれない。
あっと思った一瞬、あの一瞬がいろんなことの分かれ道だったんだなと思う。
私の転がるのが左側だったら、隣の車線まで行ってしまっていたら、右肘ではなく頭を打っていたら…。
「日常」の中にひそむ一瞬の怖さ。
自分ではどうにもならないことへの恐怖を思い出した。
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