第8話 着物リメイクに挑戦したけれど

 母が自分の持ち物を片付けだした。足を悪くして、正座ができなくなってしまったので習っていたお茶を辞めたそうだ。お茶のお稽古に着ていった着物ももういらないという。

「あんたにあげるわ」

そういわれても困る。

 着物を着ている人を見るのは好きだが、着物を自分で着られる自信がない。着付け教室に通ったことがあるので、知識としてこういうふうに着るということはわかっている。けれど、着付けは回数を重ねないと素早くできないし、着物には季節のルールや格のルールがある。それをわかっていて着ていけるかと聞かれると自信がない。細かいことを気にしなくていいので、好きに着ればいいという人もいるが、知っていてルールを破るのと無知でやっているのはかなり意味合いが違うと思う。要するに「あんなことして‥」と眉をひそめられるのが怖いのだ。

 着物を着る機会はないし、いざという時に着る着物は2~3着すでにある。そこへ母の着物まで引き受けられない。

 私のように考える人が多くいるようで、着物を洋服やバッグなどにリメイクしている人もいるらしい。実際に着物をリメイクした上着を着ている人を見たこともある。着物だなと思う柄だったけれど、上手にリメイクしてあったのでカッコいい上着になっていた。本屋で面白そうだと思い、本を買ってみた。母に話したら

「これあげるからやってみなさい」

とすぐにいくつか着物をくれた。広げて見てみるとまだしつけ糸がついていた。と、いうことはこの着物は仕立てられてから一度も着られていないのだ。着物として仕立てられたのに、一度も着ないままほどいてしまうのも何だかためらわれて、その着物には手をつけられなかった。

 もう一つは布の状態になっていた。小さいたとう紙に包まれていて、そこに亡くなった叔母の名前と中止の文字が書いてあった。

 叔母もお茶を習っていた。10年以上前に病気で亡くなったが、たぶん入院する直前に着物を仕立てようと手配したのだと思う。元気になったら着ようと思っていたかもしれない。でも、依頼主を失い、着物は仕立てを中断された。母は叔母の遺品の中からそれを譲り受け、何とか活かしたいと思ったようだ。だが、叔母と母では体格がかなり違うので、すでに裁断された状態の布をそのまま仕立てても母には着られない。どうしようと思いながら持っていた母は、自分ではどうすることもできず私に渡してきたらしい。

 この状態なら着物をほどく罪悪感がないので気楽だ。着物は古いものであれば手縫いだし、職人さんが細かな工夫をしているものもあって、ほどいて布に戻すのは罪悪感を感じてしまう。でも、この仕立てを中断された状態だと布だし、両袖、見頃、おくみというパーツに切られた状態なので、リメイクもしやすい。さっそく本を見ながらノースリーブのチュニックを作ってみた。

 ちょっとてこずったが、一日ほどで完成した。

 母に報告すると喜んでいた。眠っていたものをちゃんと使える状態にできて、私も満足だ。

 モノはちゃんと使わなくちゃ。

 そう考えると勇気を出して、しつけ糸がついたままの着物もリメイクするしかないと思うのだが、やっぱり糸を切る勇気はまだない。

 

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