第5話 どうしようもない後悔
今年は庭のブルーベリーが豊作だった。
寒い冬があるとブルーベリーは豊作になるらしい。昨年の冬は寒かったので、そのおかげなのだろう。寒い冬を乗り越えたご褒美だと思うことにして、たくさん実ったブルーベリーを楽しんだ。
我が家のブルーベリーを思うと、時々少し苦しくなる。
この木はこの家に引っ越してきた時に引っ越し祝いにKくんからもらったものだ。
Kくんは私と一回り年が違う、当時はまだ若い男の子だった。夫の会社の後輩で、未成年のうちから仕事を始めていた。その子がお祝いにとお金を出して買ってきてくれたのだ。驚いたし、うれしかった。
その後、夫はその会社を辞めてしまったので、Kくんとは接点が無くなってしまった。元気でいるだろうかと時々二人で話題にしていたが、会わないまま時間が過ぎていった。夫が、前の会社の人からKくんの消息を聞いたのは、会社を辞めて3~4年経った頃だったかと思う。
「Kくん、失踪したんだって」
夫が聞いてきた話によると、ある朝、仕事に来るはずのKくんが来なかった。会社の人が家に行ってみると、家財道具はそのままでKくんだけがいなくなっていた。
Kくんにはかなり借金があったらしい。何があったのか会社の人にもわからなかったそうだ。
若いうちから働いていたKくんは、お金の使い方や怖さを知らなかったのかもしれない。働いてお金を得る、お金を使う楽しさは知っても、お金の怖さは誰も教えてくれなかったのかもしれない。
助けにはなれなかったかもしれないが、困ったならうちに来てくれればよかったのに。
Kくんにとっては、私たちは助けを求められるような気軽さがなかったのかもしれない。
でも、まだ若かったKくんの笑顔を思うと、その後の彼の人生がどうなったのかと思うとたまらない。
どうしようもない後悔が、ブルーベリーを見るとこみあげてくる。
Kくんが今どうしているのか知りようもない。どこかで元気でいてくれることを願っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます