日々の暮らし
なるほ みえ
第1話 車の運転
運転免許は持っている。免許を取ってから、運転した回数は両手で数えられるほど。更新の度にゴールドで、なんだか申し訳ない気持ちになる。乗っていないのだから、ゴールドなのは当然。だけど、こんなゴールドは本当のゴールド免許ではない。
数年前に運転ができたら便利だという職場になった。いきなり職場の車を運転するのは危険なので、夫の車で練習をした。一人では怖かったので、夫に練習を付き合ってもらった。
ところが。
夫は教官には向かない人だった。
夜の誰もいない道を運転するのに、汗だくで心臓バクバクの私に容赦ない。
「曲がるとき、左に自転車とか歩行者がいるから、ミラーを見なきゃだめ」
「今のタイミングだと後ろの車に突っ込まれて危ない」
「ブレーキが遅い」
最初はしおらしく「はい」と答えていた私だが、次第に無口になり、イライラしてきた。イライラするとなおさら、よろしくない。
「そんなに大きくハンドル切ると向かい側の車線の車に迷惑だよ」
「なんで、そんなとこでブレーキ踏むの」
ええい、うっとおしい!
その日は他の車もいるけれど、まだ交通量が少ない休日の朝に運転をしてみようと思った。少しでも運転しないとうまくならないと聞くし、気は進まないがやるしかない。そんな気持ちで運転席に座った私に夫が言った。
「それで発進していいの?やること一つ忘れてるよ」
それが何なのか教えてくれない。優しくない。わからないまま、とりあえず発進した。それでも、夫は教えてくれない。何を忘れているんだろう。大丈夫なのか。わからない。
不安とイライラを抱えて運転していると、細い路地に入ったところで対向車が見えた。脇に寄ろうと思ったが歩行者もいた。少しだけブレーキが遅れた。
「なにしてんの!」
夫が怒鳴ったとき、歩行者のかなり近くで車が止まった。歩行者の人が迷惑そうな顔をしていた。通れなくなってしまったのだ。ちょっと寄りすぎた。
「なんでこんなに寄せるの!危ないじゃないか!」
わかってる。私だってわかってる。でも、対向車がいたんだ。怖かったんだ。
思わず怒鳴り返していた。
「うるさい!隣でガタガタ言わないでよ!」
以来、ハンドルは握っていない。
車の運転ができたら、便利なのは間違いない。
いまだに少し未練がある。
でも、今は家庭の平和が一番なので、ハンドルは握らない。
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