第22話 マロンの冒険者登録

 翌朝、真一とマロンは冒険者ギルドへ来ていた。

 マロンの冒険者登録と二人のパーティ編成、クエスト受注のためである。



 ちなみにレイアは、裏ギルドに顔を出して依頼や連絡がないか確認しに行っている。

 裏ギルドでは夜鴉ナイトクロウという魔物が伝書鳩のように使われており、これで街間での情報共有がなされている。

 夜鴉ナイトクロウの飛行速度は時速150kmを超えるほどの速さで、この世界の情報伝達手段としては上位に位置しているそうだ。



 真一たちはカランカランと鈴を鳴らし戸をくぐり、まっすぐ受付へ進んだ。


「すいません」

「……」

「あの、よろしいでしょうか?」

「へっ!? あ、あぁ、失礼いたしました!」


 真一は相変わらずの影の薄さにこめかみを抑える。


「彼女の冒険者登録と僕とのパーティ編成をお願いしたいのですが」


 真一がマロンの背を押して、受付の前に押し出す。


「あ、よろしく、お願いします……」


 マロンはフードを被ったまま頭を下げた。


「かしこまりました、こちらの魔術陣に手を置いて下さい」


 受付嬢はそう言ってマロンへ魔術陣が刻まれた板をカウンターの上に差し出した。

 マロンは不安そうな顔で真一へ目を向ける。


「確か、個人情報をギルドカードに転記する魔術陣、でしたよね?」

「はい、その通りです。人体への影響はございませんので、ご安心下さい」


 真一が受付嬢へ問いかけると、受付嬢はマロンへ笑顔を向けてそう答えた。

 受付嬢の顔を見て、おずおずとマロンは魔術陣へ手を置く。


 魔術陣が光り、受付嬢がギルドカードのチェックをした。


「マロン・フォールスコット様ですね。えっ! 獣人!? ……あっ!? も、申し訳ございません。失礼しました……」


 ギルドカードを見た受付嬢が驚き大声を出したお陰で、ギルド内にいた冒険者や他の受付嬢の視線が突き刺さる。

 そしてざわざわと獣人がどうのというざわめきが聞こえ始めた。


 冒険者ギルドの受付嬢はどいつもこいつも迂闊すぎるだろと、真一は思わず顔を歪める。

 マロンは地面にめり込むのではないかというくらい俯いて小さくなっていた。

 そんなマロンを見て、真一は優しく頭を撫でる。


「これで彼女はFランク冒険者の登録が終わりましたよね? 説明は不要です。僕とのパーティ編成をお願いします」

「か、かしこまりました。……申し訳ございませんでした」


 受付嬢の失態に苛立ちを隠しきれない真一に、受付嬢はぺこぺこと頭を下げる。

 パーティ編成はすぐに完了し、手頃なクエストを受注して真一とマロンは受付から離れた。

 足早にギルドから出ていこうとした真一たちであったが、三人の図体のでかい冒険者達が進路を塞ぐように立ちふさがった。


「おいおいおい。なんで冒険者ギルドにがいるんだァ? おぉ?」

「小僧てめぇ、自分がなにしてっか分かってんのか? そのを俺らにプレゼントしてくれるってんなら見逃してやんよ」

「安心しな、きちんと可愛がってやるからよ! ベッドの上でな!」

「「「ぎゃはははは!」」」


 あまりに下品な男たちに、真一の顔から表情が消え去った。

 震えるマロンを後ろに庇いつつ、真一は男たちに対峙した。


「彼女は僕の仲間です。残念ですがお引き取り願います」


 男たちは拳をポキポキと鳴らしながら、真一に近づいていく。


「おいおいおい? 餓鬼がなにほざいてやがんだ? 死ぬか? 死にてぇのか? てめぇは黙ってそこのを引き渡しゃいいんだよ!」

「こいつ、殺っちまいますか?」


 しつこくマロンを貶す男たちに真一は我慢の限界に達し、殺意を男たちに放った。


「黙れ、社会のゴミ。邪魔だ、退け」


 ひょろい男が大男三人に向けてあまりに無謀な言葉を放ったことで一瞬ギルド内が静寂に包まれ、すぐに各所でコソコソ話が始まった。


「おいっ!? あの小僧、ゴルゾフに喧嘩売りやがったぞ!?」

「まーたゴルゾフの弱い者いじめか」

「やっちまったな……。やっぱ獣人を連れてるだけあって頭のネジ数本抜けてたんだろうな」

「触らぬ神に祟りなしだな」


 一方リーダー格の男ゴルゾフはそのスキンヘッドに青筋をいくつも浮かべ、顔を真っ赤にしていた。


「クソ餓鬼が!! 殺すッ!!!」


 ゴルゾフは背中に背負った大剣を掴み、真一へ思い切り振り下ろした。


 真一はそれを冷静に観察し、最小限の動きで回避する。

 最近トレーニングしているマロンやレイアの攻撃と比べるとあまりに遅く、その攻撃を避けることは真一にとってあまりに容易かった。


 真一はそのまま、《観察眼》により見抜いた弱点である左脛を思い切り蹴り抜いた。勿論マロンを貶した相手ゴミに手を抜くことはなく、《魔纏ブースト》で強化したローキックである。


「――ッ!!??」


 ゴルゾフは床に突き刺さった大剣を手放し、涙を流しながら両手で脛を押さえて床をゴロゴロと転がった。


「「は?」」


 ゴルゾフの取り巻き二人および成り行きを見ていた冒険者達は、唖然とした表情で大粒の涙を零しながら床を転がるゴルゾフを凝視した。

 真一は床を転がるゴルゾフをゴミでも見るかのような視線で一瞥した後、ポフッとマロンの頭に手を乗せた。


「マロン、行くぞ」

「ッ!? うんっ!!」


 マロンは満面の笑みを浮かべ、スキップをしつつ真一の後をついてギルドから出ていった。


「「「あいつら何者だ!?」」」


 扉が閉まると、冒険者たちの合唱がギルドに響いた。

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