第2話 謁見

 真一は騎士団長のヴェインの様子から、可能であれば真一達の協力を得たいという意志を感じていた。

 ただしそれと同時に、真一達に対しようにも思えた。

 一介の学生、子ども達に何を恐れることがあるのかと思うが、この過剰な防衛体制や剣から手を離さないヴェインの態度から、真一は半ば確信を持っていた。


 では彼らは一体何を恐れているのか。

 オタク的に真っ先に思い当たるのがだ。

 異世界転移系の物語では、転生者はいきなり凄い能力を持っているというお決まりがある。

 しかし今のところ、真一にはそんな凄い能力は実感できなかった。


 真一が悶々と考えている間に、王座の間に辿り着いていた。

 そこにはいかにも王様っぽい服装の六十代くらいの男性と、切れ長の目で整った顔立ちの四十代くらいの男性がいた。


「勇者達よ、よくぞ来てくれた。我はエルタリア国王、ハインリヒ・エル・オルタリアである」

「私は宰相のアルフレッド・マクスウェルです。九人と人数が多――」

「十人です」

「あぁすまぬ、十人と人数が多いため、誰か代表者と話をさせていただけないだろうか」


 真一はいつものように人数にカウントされなかったので、つい癖で突っ込んでしまっていた。

 影が薄いためその主張がサラリと流されるのもいつも通りである。


 代表者と聞いて、皆の視線が委員長である翔に向いた。

 自分でも分かっていたのか、翔は一歩前に出てそれっぽく跪いた。


「国王陛下、御子柴 翔と申します」

「うむ、ミコシバ殿が勇者達のリーダーであるか」

「では、私からお話させていただきます。ヴェインより簡易な説明はあったかも知れませんが、このたび勇者様方を召喚魔術によってこの世界に召喚させていただきました」


「何のためにですか? 私達は帰れるのでしょうか?」

「現在この国は、他種族からの侵略を受けています。それらを退けて民を救うために、強力な異世界の勇者様のお力をお借りしたく召喚いたしました。また帰る手段ですが……残念ながら、現在はございません。異世界への転送魔術は凄まじい魔力を消費と思われます。その魔術を発動するためには、魔人族を束ねる魔王の魔核レベルの魔術媒体が必要となるでしょう」


「帰れない…………魔王とは、魔核とは、一体……?」

「魔王とは、魔人族という種族の王です。非常に強力な魔力を持っておりますが、勇者様方であれば倒せるのではと存じます。魔核は、魔王を討伐すれば魔王の魔力が固まって発生いたします」


「……勇者勇者とおっしゃっていますが、僕らはただの学生ですよ? そんな力は到底ないのですが」

「恐らく、そちらの世界のはこちらの世界のではないと思われます。そちらの世界のマジックアイテムは強力なものばかりですし、昔に召喚されたという勇者様も強力な力をお持ちであったと伝わっております」


「僕らの世界にマジックアイテムなんてありませんよ……?」

「ふぅむ……そちらの世界とこちらの世界ではアイテムのレベルが違うのかも知れません。お見せしたほうが早いですね。ヴェイン、確かマジックアイテムを持っていたでしょう」

「あぁ、持ってますね。これですかい?」


 そう言ってヴェインが懐から出したのは折りたたみナイフであった。

 普通のナイフではないかと思われたが、皆に見えるように掲げた柄には英語でブランド名が書かれていた。アメリカの有名ナイフブランドだ。


「これはそっちの世界から召喚されたマジックアイテムの一つですね。ちっと使ってみますか。おい、ライト! 斬りかかってこい!」

「うぇー!? 俺ですか?」

「お前だ、早くしろ」

「仕方ねっすねぇ……後で新しい剣支給してくださいね?」


 近くに居た兵士、ライトが長剣を抜いて折りたたみナイフを構えるヴェインに斬りかかった。

 ヴェインがその小さな刃で剣を受け止めたかと思った瞬間、まるで豆腐のように剣がスッパリと切断されていた。


「と、このようにそちらの世界のアイテムはこちらの世界では凄まじい能力を持っています。そちらの世界での普通は、こちらの世界の普通ではないのですよ」


 そう言って満足げな顔で語るアルフレッドであるが、生徒達は皆ポカンとしていた。


「い、いや……こちらの世界のナイフはそんな斬れ味ではないのですが……ナイフではなく騎士団長殿が凄いのでは……?」


 翔は顔を引きつらせながらなんとか答えた。


「確かにヴェインは能力が高いが、流石にあのような小さな刃で剣を両断する力はありません。マジックアイテムの力であるのは間違いないのですが……」


 嘘みたいな話であるが、嘘をついている顔ではないと真一は思った。

 ではやはりあのナイフに何かあるのだろうか。そう思いナイフを注視すると、真一の目にナイフを包む水蒸気のようなモヤモヤとした赤い何かが見えはじめた。

 真一はそのナイフが纏っている水蒸気もどき、オーラが無性に気になり、騎士団長に近づいてマジマジと視る。すると、騎士団長も赤いオーラに包まれていることに気づいた。

 いや、という感覚の方が正しいか。

 その部屋に居る他の人達も集中して視ると、その人を覆っている様々な色のオーラが見えた。ちなみに真一は無色であった。


 見えているこれは、魔力的な物ではないだろうか。そうであったら面白いなと、真一は少し胸を躍らせた。


「うむ……勇者様方、何も無理に戦場に出るよう強要するつもりはございません。ただご助力いただけると我々は助かりますし、勇者様方が元の世界に戻るためにも悪いことではないと思います。本日は混乱されていることでしょうからお休みいただいて、明日また勇者様方の力を確認させていただくということでいかがでしょうか?」

「……分かりました。とりあえずまだ頭が混乱しているので、今日は休ませていただきます……」


 兵士に囲まれており、またこの世界では右も左も分からない真一達には選択肢はほぼ存在しなかった。

 翔が下手に抵抗しなかったお陰で流血沙汰にならずに済み、真一は安堵のため息を吐いた。

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