第17話 獣人少女
「フウウゥゥゥゥ!!」
檻に入った獣人の少女は、髪の毛を逆立てて真一を威嚇している。
少女は威嚇をしてはいるものの手足はだらんとして檻に寄りかかるようにして座っている。また声も出ないようだ。
この娘が豚領主へ売り払う予定だった
商品の手足の腱を切って喉を潰しているとは考えづらいため、恐らく隷属の首輪で自由を奪われているといったところだろう。
真一は無言で檻に近づき、陽炎で檻を溶断した。
獣人少女はそれを呆気にとられた顔で見つめている。
獣人少女も衣服を身に付けておらず、また檻の中は汚物に
真一は檻の中に入り獣人少女を抱きかかえてボスの部屋へ戻った。
部屋にいた奴隷たちが息を呑む。
「貴女達をこの部屋から出すために、首輪を確認したい。誰か近くで見せてくれないか?」
獣人少女をソファに横たわらせ、真一が問いかけると先程やりとりした女性が名乗り出た。
「どうぞ御覧ください」
「失礼する。乱暴はしないから」
そういって真一はその奴隷に近づいて首輪を触る。
真一が手を差し出した瞬間に奴隷は一瞬ビクッと震えたが、そのままじっとしていた。
《観察眼》で視ると魔力が張り巡らされている中でも、一点だけ魔力が集中している箇所が見受けられる。
「この首輪は無理に外そうとすると死ぬとか、そういう機能はあるのか?」
外したら首が切られるとか、爆発するとかは漫画ではよくあるパターンだ。
この世界でそこまでの機能をもたせた首輪を量産出来るとは考えづらいが。
「いいえ、そのような機能があると聞いたことはございません……。ただ非常に強固な金属で出来ており更に魔術で強化もされているため、どんな武器でも壊すことは出来ないと言われております……」
真一は思案し、陽炎での切断を試みることにした。
陽炎で切れなければ真一にはどうしようもない。気は進まないが一旦ここに置いていくしかない。
「……ちょっと首輪をとれないか試してみたいのだが、良いだろうか? 極力痛くはしないように気をつけるが、もしかして少し首に傷がついてしまう可能性がある」
「構いません。この首輪が取れる可能性があるのなら、いくらでも傷がついても大丈夫です」
そんなに傷をつける気は無いのだがと真一は苦笑いをしつつ、陽炎を首輪に近づける。
奴隷は目を瞑ってプルプルと震えていた。
真一が陽炎で首輪の外側をそっと撫でると、薄っすらと刃の切り傷がついた。全く歯が立たないということはなさそうだ。
真一は魔力が集中している箇所にゆっくりとナイフを突き刺していく。
ある深さまでナイフが到達すると、蜘蛛の巣のように広がっていた魔力が消滅した。
魔力が消滅した途端に抵抗がなくなり簡単に刃が入るようになった。
恐らくあの魔力の核が首輪の強化と隷属をしていたのでと真一は推測した。
真一がそのまま慎重に左右から首輪を切断すると、ゴトリと音を立てて首輪が落ちた。
「――ッ!?」
落ちた首輪を見て、女性は手で口を覆い、涙をこぼした。
「まさか本当に……。ありがとう、うっ……ございます……」
真一は他の奴隷たちの首輪も同じく切断していった。
そして最後に獣人の少女に近づく。
獣人少女は冷静さを取り戻し状況を理解しているようで、威嚇や警戒を全くしなくなっていた。
真一は何度も繰り返したため手慣れた手付きで首輪を切断して取り外した。
「っぷはぁ! やっと動ける! 喋れる! ありがとうっ!!」
首輪が外れて自由を取り戻した獣人少女が真一にガバッと抱きついた。
全裸の少女に抱きつかれて、真一は慌てて引き剥がす。
「分かった、分かったから落ち着け。とりあえず奥の部屋に良さそうな布があったから、貴女達はそれを羽織ってくれ」
真一はちょうど宝物庫に盗品と思われる良質な布がいくつかあったのでそれらを女性たちに渡した。
自身は地面に突き刺している
宝物庫の中身は街の住民たちが盗まれたものであると思われるため、手をつけないでおいた。
冒険者ギルドに報告して回収してもらい、町の住民に返却なり売却なりしてもらおうと考えている。
そして最後に横たわっているブラックウルフの首を刎ね、布に包んで革袋に入れた。
「貴女達にお願いがある」
真一がそう切り出すと、女性たちが神妙な顔で頷く。
「僕はこいつの首を、
女性たちは皆何かを察したようで、真剣に頷いた。
「「「はい!」」」
真一は下手に目立たないために、自身が盗賊団を壊滅させたと噂されたくなかった。
そのため、
冒険者ギルドは討伐証明部位を持ち込みさえすれば、拾ったものでも貰ったものでも持ち込んだ冒険者へ報酬が支払われる。それは指名手配犯の首であっても変わらない。
それを利用し
いや実際は多少は目をつけられるかも知れないが、いきなり強硬手段をとるほどは怪しまれはしないだろう。
真一は最後の問題である獣人少女をチラリと見る。
獣人少女は視線に気づき、尻尾を振りながら首を傾げた。
奴隷になっていた女性たちは冒険者ギルドに預ければ家族の元に帰されるか、家族を失っていれば自立支援をしてくれるはずだ。
しかしこの獣人少女を冒険者ギルドに預けると、領主が無理矢理にでも手に入れようと動いてくる可能性が高い。
そして恐らく、それは通ってしまうだろう。
正直、あの豚領主の街に入れるだけでも危険なレベルだ。
真一は獣人少女を正面から見つめて問いかけた。
「ここの盗賊は街の領主に売るために貴女を捕まえてここまで連れてきたと思われる。だから貴女が街に入ると領主に捕まる可能性が高い。……貴女はこれからどうしたい?」
獣人少女は初めから決まっていたが如く即答した。
「君について行きたい!」
真一は予想外の回答に目を見張った。
「えっと、貴女が生きていけるようにお金や服、装備とかは支援しようと思っている。それを受け取ったら自由に生きていいんだぞ?」
獣人少女は首を横に振った。
「ボクが自由にしていいのなら、やっぱり君についていきたいな! ボクは君が気に入ったんだ。……ダメかな?」
上目遣いでうるうるとした瞳をこちらに向けてくる獣人少女。
真一は少し後ろに下がりつつ、思案する。
これから真一が向かうのは獣人族領。獣人族である彼女は心強い同行人であろう。
また彼女を故郷に帰すことも出来るかも知れない。
……何より可愛い猫耳少女に上目遣いでおねだりされてしまっては、断れるはずがなかった。
「……分かった。とりあえず貴女はこのマントを羽織っておいてくれ。視認阻害能力があるから目立ちづらいだろう。貴女を宿に置いてから冒険者ギルドに向かう」
女性たちは全員、力強く頷いた。
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