第4話 幼馴染
沈痛な面持ちで語るセリーヌに、真一は穏やかな口調で問いかける。
「……どういうことでしょうか?」
「召喚魔術を行使したのは、私なのです」
「なぜ我々を召喚したのか聞いてもよろしいですか?」
宰相から聞いてはいたが、真一はセリーヌの口からも事情を聞きたいと考えた。
宰相は色々な思惑があって話をしていたが、真摯に謝罪をしてきたセリーヌであれば正直な話を聞けるのではないかと感じていた。
「……この世界では現在、我々人族と獣人族、魔人族で争っている状態なのです。召喚魔術では異世界の強力なマジックアイテムを召喚できることから、戦争が起こると度々行使されてきました」
「マジックアイテム……人ではなく?」
「はい。基本的に強力なマジックアイテム、武器を手に入れるために我々は召喚魔術を行使してきました。しかし今回マジックアイテムではなく、人が召喚されてしまいました……」
「つまり私達は間違えて召喚されたと?」
「召喚されるものはこちらでは決められずランダムなのです。国はマジックアイテムを求めて召喚魔術を行使しましたが、今回はそのランダムによって
ガチャじゃねーか! と真一は心の中でツッコミを入れる。
強力な武器来い! とガチャを回したら、予期せずにキャラクターが出てしまった、そんな感じであろう。
国王達はそんなこと言えるはずもなく、とりあえず
真一は国王達の話の端々から感じる違和感に答えが出て、少しスッキリとした気持ちになった。
「召喚魔術は大量の魔力を持ち、なおかつ光属性に適性がある人物しか行うことが出来ません。また三つの魔術陣を同時に発動しなければいけないため、人族、獣人族、魔人族で協定を組んで三カ国で同時に召喚を行うことになりました。そこで、人族で唯一光属性に適性がある私がいるこの国が選ばれたのです」
三つの魔術陣と聞いて、真一は教室に浮かんだ三つの円を思い出した。
その三つの円が光り、教室全体が光に包まれていた。
しかし、ここに居るのはクラスメイトの三分の一の人数。
真一の幼馴染である柚月もここにはいなかった。
召喚魔術に巻き込まれなかったのかと思っていた真一であったが、無意識に目を背けていた可能性に行き着く。
「ということは、獣人族と魔人族でも何かが召喚されたということですか?」
「そのとおりです」
「……僕らの友人達が、そちらに召喚されているかも知れません……」
「ッ!? そ、それはどういうことでしょうか!?」
「僕達がいた部屋には三つの魔術陣が現れ、僕達はここに召喚されました。しかしここには部屋に居た人数の三分の一しかいないのです。つまり残りの三分の二は……」
「まさか……そんなことって……」
セリーヌは頭を抱えて、震えだした。
「私が、私のせいで無関係の人々が……私が拒んでいれば……」
セリーヌは責任感の強い女性だと真一は思った。
あの召喚直後の絶望感に染まった顔は、人間を召喚してしまったことによるものだったのだろう。
国家、いや人族全体に関わるものであろう召喚魔術を、セリーヌの一存で拒むというのは非現実的であっただろう。セリーヌが拒んだとしても脅迫や洗脳等いくらでも手段はあったであろうことを考えると、真一はどうにもセリーヌを責める気が起きなかった。
「……貴女一人が責任を感じることではありません。今はそれより、これからどうするかが問題だと思います。……私達が元の世界に戻る手段はあるのでしょうか?」
「ありがとうございます……勇者様の世界へ戻る手段は、少なくとも今の人族にはありません。魔術に精通している魔人族の王、魔王であれば可能性はあるかも知れませんが……今までそのような魔術が行使されたという話は聞いたことがありません……」
「宰相は魔王を討伐して魔核を手に入れればもしかして、みたいな話をしていましたが」
「ッ!? ……可能性はゼロではありませんが……限りなく不可能に近いでしょう。それよりも魔王自身に転移魔術の開発を頼むほうが余程可能性が高いと思います。お父様とアルフレッドは……魔人族と対立している人族の立場上、魔王に協力を仰げとは言えなかったのでしょう。……申し訳ございません……」
セリーヌは益々恐縮してもはや地面にめり込みそうなほどであった。
意図せずに追い打ちをかけてしまった真一は思わず苦笑する。
「い、いやいや、なんとなく分かってましたから、大丈夫ですよ。国王にも立場というものがありますからね。王女殿下が正直にお話してくれて助かりました、ありがとうございます」
「本当に申し訳ございません……」
その後、真一はこの世界の情勢や常識などを聞いたりと、色々と情報を収集した。また書物庫の使用許可も貰い、有意義な時間を過ごせたと概ね満足であった。
「では、そろそろ帰りますね。食器回収の隙に出ていこうと思います」
「やっぱり、ジェシカが食事を持ってきた時に一緒にいらっしゃってたのですね」
「はい。流石に扉を開けたら気づかれるかと思いまして」
「ふふ、確かにそうですね。シンイチ様、もし良かったまたいらしてくれませんか?」
「いいのですか? 私は王女殿下から色々とご教授いただけるので助かりますが……」
「えぇ、勿論ですわ。あと、私のことはセリーヌと呼んでいただいけないでしょうか? 話し方ももっと素を出していただいていいのですよ!」
「えっ!? いやいや恐れ多いですよ!?」
「私が良いと言っているのですから、良いじゃありませんか! ほら、セリーヌって呼んでくださいませ」
「わ、分かりました……セリーヌ様」
「セリーヌ」
「分かりました、セリーヌ。僕がセリーヌのこと呼び捨てにするのですから、僕のことも真一とお呼びください」
「ふふ、よろしくてよ、シンイチ」
セリーヌがメイドを呼び、食器が片付けられる隙に真一は部屋を脱出した。
部屋に帰ってきた真一はベッドに横たわり、思案する。
幼馴染、腐れ縁の柚月。それ以外にも真一の親友である遊馬達もこちらに召喚されているかも知れない。しかも人族と敵対している獣人族や魔人族の国に。
先程まで、彼らが一緒にこちらに来ていないことに安堵していた自分の浅はかさに歯噛みする。
真一はセリーヌと話をしながら、これからの目標を立てていた。
まずは他国に召喚されているであろうクラスメイト達を探し出して安全を確保すること、そして元の世界へ帰る方法を探すことの二つである。
その目標を達成するためには、最低限でも知識と戦う力が必要である。
セリーヌ曰く、ここは獰猛な魔物が跋扈している世界であるらしい。
また治安もあまり良いとは言えず、自分の身を自分で守れる程度の力と知識がなければすぐに野垂れ死にだ。
まず当面は、セリーヌや書物庫から知識を蓄えていくことが妥当であろう。
真一は微睡む意識の中、この世界のどこかにいるであろう幼馴染を想い、強くなろうと決意した。
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