第19話 邂逅
真一がレイアとの話を終え、裏ギルドから『愛楽歩亭』へ帰ってくると、獣人少女はベッドから飛び起きて出迎えてくれた。
「おかえり!」
誰かにおかえりと言われるのは久しぶりだなと、真一は面映い気持ちで微笑を浮かべた。
「あぁ、ただいま」
真一が椅子に座って水を呷ると、獣人少女は向かいの席に着席して楽しげに問いかけた。
「ねぇ、君の名前を教えて?」
「シンイチ・アサギリだ」
「シンイチかぁ……いい名前だね! ボクはマロン。マロン・フォールスコットだよ!」
マロンはミルクティ色の髪を揺らしながら、前面に垂れた猫耳と尻尾をぴこぴこと小刻みに動かした。
地球で言う所のスコティッシュフォールドのような雰囲気だ。
「マロン、僕に着いていきたいと言っていたが、まず話しておかなければならないことがある」
真一は、自身が異世界から召喚されたこと、仲間を助けるために獣人族領を目指していること、異世界に帰ることを目的としていることを話した。
獣人族領で故郷に帰るというのならば送ることも吝かではないという話もした。
「ふーん、なるほどにゃー……まぁ、ボクはシンイチについてくことに何の変わりもないね!」
マロンは爽やかな笑みを浮かべ、あっさりと答えた。
「……そうか、分かった。他種族領に行くためには冒険者ランクをCランクまで上げなきゃいけないから、マロンも冒険者登録をしてくれ。魔物と戦ったことはあるか?」
「うん! ボクら獣人族は人族よりも筋力が高いからね。故郷では大剣をブンブン振り回して狩りをしてたよ」
小柄なこの娘が大剣を振り回すところは想像し難いが、獣人族が人族よりも筋力に秀でているというのは有名な話だ。その代わりに魔力が乏しいという欠点はあるが……真一も魔術を使えないため特に問題とも思わなかった。
「ならこの大剣を使ってみるか? 盗賊が使ってた物なんだが……もし気分的に嫌なら売っぱらう」
真一はブラックウルフから奪った
重量を軽くしているため、片手でも軽々と持てる。
「誰が持ってた物であれ、ボクは全然気にしないよ! これ魔剣でしょ? 逆にこんな良い剣貰っちゃっていいの?」
「問題ない。僕には使いこなせないからな」
「んじゃー貰うね! シンイチ、ありがとっ!」
マロンは黒曜牙を抱きかかえ嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねた。
マロンが飛び跳ねる度に羽織っているマントがふわりと舞い、一糸まとわぬマロンの四肢がチラチラと目に入る。
真一は忘れ去っていた街で買ってきた服を慌ててマロンに渡した。
「す、すまない、忘れていた。これに着替えてくれ。僕は外に出ている」
真一が後ろを向いてドアに向かって歩き始めると同時くらいに布の擦れる音が聞こえてきた。
脱ぐのが早すぎる、羞恥心が来いと真一は内心で激しいツッコミを入れつつ、そそくさと扉の外へ出るのであった。
◆
マロンを二日ほど休ませ、翌日真一はアルタムーラを発つことにした。
領主が手に入れるはずであった獣人族、マロンを探している可能性があるため、一刻でも早くこの街から脱出したかったのだ。
またその間に真一は、防具屋のおっさんに無理を言ってクリアリザード製のマント 『
素材の量が残り少なかったが、マロンが小柄であったためギリギリ間に合い真一は安堵した。
フードを被ったマロンと真一が『愛楽歩亭』から出ると、外には赤髪を棚引かせた美女、レイアが待っていた。
レイアとマロンの目がバチッと合い、二人は即座に真一に視線を向けた。
「シンイチ、この人誰?」
「おいシン、同行者がいるなんて聞いてなかったぞ」
真一は二人の反応をとりあえずスルーし、簡潔に二人の名前だけを述べた。
二人はそれに納得できずに無言の圧力でもって真一に話の続きを促すが、真一は意に介さず話は終わったとばかりに歩き出した。
「詳しくは街を出てからにしよう」
真一の一言に二人は納得はせずとも言外に込められた意味を汲み取り、若干頬を膨れさせ真一の後に続いた。
「……で?」
アルタムーラの街門が見えなくなった頃、レイアは待ちきれないとばかりに真一に詰め寄った。
真一はマロンに目を向けると、マロンは目線の意味を理解してそっとフードを外した。
「マロンは黒狼団に囚われていた獣人族だ。豚領主の指示で連れて来られたと思われる。どうしたいと聞いたら着いてきたいと言うので、同行してもらうことになった」
マロンのフードの下に隠れていた垂れた猫耳を見てレイアは息を呑む。
「で、こっちのレイは僕が所属する裏ギルドの……一応上司ってことになっている。マロンが捕らえられた要因である豚領主をブタ箱にぶち込むよう動いてくれていた人でもある。僕に戦い方を教えてくれるために、途中まで同行してくれることになった」
真一の紹介を聞き、レイアを見るマロンの目が見開かれた。
「そうだったんだね……。レイアさん、ありがとう。これからよろしくね!」
「いや、レイでいい。マロンも色々と……大変だったな。暫くよろしく頼む」
街でのやり取りを思い出し、若干面映ゆげに頬を掻きながら二人は手を握った。
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