空に焦がれる。思いに焼かれる。

 エルダー・シングス魔術学院、薬学部に所属するニナ・ヒールドは、お世辞にも優秀とは言えない魔女だ。座学は努力で平均かそれ以上の成績を修めていたが、箒にまたがっての飛行は大の苦手だ。騙し騙しやってきたが、ニナ自身、己の限界を感じてもいた。
 飛行学の演習で見事な「墜落」をしたところを飛行競技スカイ・クラッドの代表選手であるナコトに救われる。九死に一生を得たニナだが、その際ナコトに信じられない言葉をかけられる。「スカイ・クラッドの代表選手にならないか」――まともに箒に乗れない魔女に掛ける言葉として、正気ではないように思えた。

 この物語で惹かれるのは「どんな落ちこぼれにも光る才能がひとつはある」ということではなくて、「ただのニナだからこそ」その等身大の劣等感や成長といった泥臭い感情に惹かれるのだと思います。もちろん、たとえのひとつひとつが世界に合っていたりニナの語彙で表現されていたり、文章の緩急や構成に魅了されたりといった、技術としての素晴らしさは言うまでもありません。ただ、この物語の何に心を動かされたかと言われれば、ただのニナが劣等感を乗り越えてつぼみになる、人間らしい(魔女らしい?)プロセスに他なりません。
 自分の力量を痛いほどわかっていて、立ち向かうのがどんなに身の程知らずなことだとも知っています。それでも、劣等感で押し潰されそうになっていたニナが、ナコトとの出会いを通して何を掴み取ろうとするか。その姿に強く、胸を打たれました。

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