努力はしている。けれどなかなか実らない。
そんなニナが出会ったのは、才能に満ち溢れた先輩ナコト。
貴方には才能がある。そう言われても、いまいちピンとこないニナが一つ一つ、問題をクリアしながら空を翔る姿が生き生きと描かれています。
箒で空を飛ぶことは難しく、命がけの事。
間違えば墜落して死んでしまう。
それでも少女たちは空を飛び、競技を通してぶつかり合う。
飛ぶ理由。それが一体何なのかを考えることで、登場人物一人一人の想い。個性が見え、その世界で彼女たちは確かに生きているのだと実感できます。
そしてこの作品は、ニナが過去を回想する物語となっています。
昔の自分はこう思っていた。というのがニナの感性によって語られているため、ニナに対して感情移入すると同時に親近感を覚えます。
ついつい応援してしまいたくなる主人公のニナ。
作りこまれた世界観。
個性豊かな登場人物。
魔女が好きな方にはぜひ読んでもらいたい作品です。
かなり理論的に「魔法らしからぬ」整頓された印象は、この魔法というツールが高度に発達したことを顕著に示し、学問としてきちんと体系化されていること、そして不文律的なものを解き明かすような文明力の高さを感じます
同じく、箒を使った競技というのはその魔法世界においてツールとしての魔法が成熟し、魔法の取り扱いにある程度世界の基準が高くまとまった故に現れる「遊び」そしてそこから「競技」へと成熟したことも感じます。
故に世界観はかなり練り込まれており、少し最初読む人からすると難しくとっつきにくいかも、と思うかもしれません。
しかし、この質量はクセになります。
羅列整然と「ツールとしての」魔法を説明するには不可欠。
成熟した技術は魔法でも科学でもやはりスマートでかっこいいのです。
新たな常識を意識に植え付ける作品は名作だ。
と、僕は勝手に定義します。
いつの間にか、ごく自然に読んじゃってましたものね、
箒体(きたい)
箒動(きどう)
筆頭箒手(ひっとうきしゅ)
各箒(かっき)
敵箒(てっき)
箒の刷毛(テール)を振り、サーフ粒子の反発力を捕まえて空を飛ぶ。
主人公ニナ・ヒールドを初めとして、完全な人は一人もいない。完璧っぽい人にもちょいちょい差し込まれるぽんこつエピソード。
愛せるわ、これは愛せる。
体感に重点を置いた飛行描写は、滑翔競技が(わりと野蛮な)スポーツであることをがっちりわからせてくれます。
箒と魔力でなんとなくふわふわと飛ぶのではなく、反発力を求めて箒を操り、アクロバティックに繰り出されるトリックの数々。
腹斜筋がうねる感覚すら覚えますよ僕としては。
その感覚を読者のイメージに投影する見事な語り口、そしてキュートなアリソン。
カタカナ、ひらがなの選択に表れる確かなセンス、そしてキュートなアリソン。
造語や小道具から垣間見えるク・リトル・リトルの文化、そしてキュートなアリソン。
落ちこぼれニナの成長譚、と言うのがわかりやすくはあるのですが、そのイメージとは少し違う。
第一話で提示された「終わり」の可能性にハラハラしつつ、変化していくニナとその周りの物語に浸れば、あなたもいつか気づくでしょう。
箒の音読みは「き」です。
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"2-2:白くてきれいな迷いびと - Snow white strayed" より、『ストリング・バッグ(1)』まで読了。
私の評価ポリシーにより、未完の作品は星二つが最高評価。
エルダー・シングス魔術学院、薬学部に所属するニナ・ヒールドは、お世辞にも優秀とは言えない魔女だ。座学は努力で平均かそれ以上の成績を修めていたが、箒にまたがっての飛行は大の苦手だ。騙し騙しやってきたが、ニナ自身、己の限界を感じてもいた。
飛行学の演習で見事な「墜落」をしたところを飛行競技スカイ・クラッドの代表選手であるナコトに救われる。九死に一生を得たニナだが、その際ナコトに信じられない言葉をかけられる。「スカイ・クラッドの代表選手にならないか」――まともに箒に乗れない魔女に掛ける言葉として、正気ではないように思えた。
この物語で惹かれるのは「どんな落ちこぼれにも光る才能がひとつはある」ということではなくて、「ただのニナだからこそ」その等身大の劣等感や成長といった泥臭い感情に惹かれるのだと思います。もちろん、たとえのひとつひとつが世界に合っていたりニナの語彙で表現されていたり、文章の緩急や構成に魅了されたりといった、技術としての素晴らしさは言うまでもありません。ただ、この物語の何に心を動かされたかと言われれば、ただのニナが劣等感を乗り越えてつぼみになる、人間らしい(魔女らしい?)プロセスに他なりません。
自分の力量を痛いほどわかっていて、立ち向かうのがどんなに身の程知らずなことだとも知っています。それでも、劣等感で押し潰されそうになっていたニナが、ナコトとの出会いを通して何を掴み取ろうとするか。その姿に強く、胸を打たれました。
〈翅翼〉のエリス(2)まで読了。核心に触れるようなネタバレはありませんが、ほんの些細なネタばらしも受け付けない人(そんな人はそもそもレビューを読まないと思うけど)は気分を害される恐れがありますのでお気をつけください。
以下感想。
まず、丁寧に紡がれた作品世界が魅力的で、様々な作中アイテム(鉱石テレビ、魔女雑誌メイガス、無慈悲な誘精灯、ウィチペディアなどなど)が作品を賑やかせながらも完璧に溶け込んでいて、とにかく楽しい。設定のための設定ではなく、こう、ことごとく噛み合っている感じが爽快で好きです。
描写面でも、ときに軽妙、ときに重厚、ウィットとツイストが利いた語り口が、読み進める目と頭を飽きさせない。かなり好きなのが、お前いつから老婆なんだよみたいな地の文から繰り出される暴言で、ちょいちょい毒づいてて笑います。
キャラも、ストーリーの枠にはめられたりテンプレをそのまま判で押したようなキャラではなく、いい意味でのあざとさをしっかりキープしながらじゃじゃ馬のように暴れたり、野良猫のようなランダムムーブをしたりで、つまらない人間がいない。ああ主人公はいい人に恵まれてるなあ、と素直に感じることができます。
ストーリーで圧巻なのは、とにかくクライマックス。第一章のクライマックスはとにかく圧巻で(二回目)、それまで丁寧に構築された伏線やら諸々が一気に解放されて、その読後感は爽快の一言に尽きます。こう、派手なドンパチから詩的で繊細な情景に至るまで、一切合切無駄がなくて、没入できる作品です。
第二章も楽しみしかない。