――作品紹介―― 高度に発達した魔術は奇跡と区別がつかない
奏「ハルは向こうの世界でも元気にやってるかしら」
カズミ「ハル君のことだから、きっとどんな世界でもそれなりにうまくやってるさ。何しろ奏さんがとことん強さを仕込んでたし」
ヒュパティア「むしろ彼に降り注いだ不幸の方がかわいそうになるレベルよね。でもなんだかんだで奏もハル君のことを心配してるのね」
奏「あの子は10年くらい育てましたから、ほとんど我が子同然ですね。あの自称絶対神さんが、ちゃんと見守ってくれるといいのですが」
エル「一応、何のことかわからない読者もいる可能性があるから、説明しておく。連載中の「転生して気ままな人生を過ごしたい? だが断るっ!」は、死亡して異世界に転生した
カズミ「あそこは現代の梁山泊と言っていいくらいの、アウトロー集団だよね」
ヒュパティア「下手に転生の前日譚として書くよりも、いっそのことあのままアウトローたちの日常を描いた方が受けたんじゃないかしら?」
奏「それはどうでしょう? とにかく、ハルは私にとって子供も同然なくらい愛しているんです。母親なら子供を心配するのは当然でしょう?」
カズミ「本当の子供ならもっとよかったとも思ってる?」
奏「それはもう、いっそ私が産んであげたかったくらい♪」
エル「……………今の発言は聞かなかったことにしよう」
(スタッフの笑い声)
――――今回のテーマ――――
『三界の魔術師』
油布 浩明 様:著
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883695616
奏「前回に引き続き、ハイファンタジーの紹介です。とある帝国の奴隷魔術士である主人公シンは、実はとても大きな秘密を抱えていまして、それと同時に強力な力を内に秘めています。そんなシンさんは、帝国から命じられた自爆攻撃の前日に、恋人の奴隷と共に逃亡するところから物語は始まります」
エル「この大きな秘密というのは、彼の頭には神に匹敵する叡智を持つ白蛇が棲んでいて、その白蛇は――――作中ではネクトと呼ばれているな。シンは白蛇ネクトに魔力を供給する代わりに強大な魔術と人知を超えた知恵を得る」
ヒュパティア「前振りでハルの話題が出たのも、主人公シンの在り方がハルそっくりだったからよね」
カズミ「まあ……あちらの作者様からしてみれば「一緒にするな」と言われそうだけど、神様から対価として自分の能力以上の力を手に入れるっていうのは、神話や昔話でもよくあるよね」
エル「もっとも、そういった神話などは、貰った力よりも「神様から力をもらった選ばれしもの」という事実の方が、どちらかといえば重要だがな」
奏「しかし、他からもらった力というのは得てしてデメリットも相応にあります。このお話で主人公に力を貸してくれるネクトさんは、かなり律義に主人公のことを気にかけてくれますし、必要とあれば惜しむことなく力を貸しています。ただしその代償に、ネクトさんは力を使うとしばらく休眠状態に入ってしまいます」
カズミ「自分の好きなタイミングで自分の力が行使できないって、凄いつらいよね。一方のハル君は信仰という名のリソースを使って奇跡を起こしているけど、シン君はクールダウン方式ってところだね」
ヒュパティア「帝国から脱出した主人公とヒロインは、何度も絶体絶命のピンチに陥るのだけれど、知恵と工夫、それにネクトの力で次々に乗り越えていくわ。ハイファンタジーならではの痛快な展開の数々は、読んでいて飽きが来ないわね」
奏「彼自身は愛するヒロインと静かに暮らしたいだけなのですが、乱世の事情がそれを許さないのです。ですから、彼は必死に戦います。そんな姿が、どことなく最近の転生モノに通ずるところがあるかもしれません」
エル「奏の言う通り、全体で一つの大きな事件を解決するというよりかは、いくつもの困難を、その都度その都度乗り越えていくという形だな。細かな伏線も見事に回収されているし、見事というほかない」
カズミ「あと、この作品の大きな特徴は魔術が存在する世界なのに、結構神様の存在があいまいなんだよね」
ヒュパティア「ネクトは厳密にいえば神様ではない。作中に起きる数々の「奇跡」は、あくまでシンとネクトが展開した強力な魔術を、隠ぺいするため。魔術が日常的に根付いているのに、神様の存在がほぼ現実と同じというのは、ファンタジーにしては珍しいと思うわ」
カズミ「神様の存在とその力の行使の設定って、意外と難しいよね。実際に神様がいて、人間世界に介入したとすれば、宗教はもっと発展しているはずだって、なにかの小説で書いてあった気がする」
エル「というか、宗教の概念自体が大きく変わっていると思うぞ」
奏「なぜ主人公が魔術の行使の隠ぺいを行う必要があるのかといえば、そもそもシンさんが使える魔術は、既知の魔術の概念どころか世界をひっくり返しかねないとんでもないものだからですね」
エル「タイトルにある「三界の魔術師」というのはそこから来ている。主人公のシンが使う魔術には、古今東西の権力者が求めてやまなかった力がある。内容は大体察しが付くだろうが、それが原因で彼の真の力が知られれば、奪い合いが始まるだろうな」
ヒュパティア「その点小生の世界では、ひょんなことで不老不死になるし、神様たちも、ちゃっかり人間界に干渉してくるわ」
カズミ「僕なんか神様と敵対してるんですがそれは」
奏「カズミさんは存在自体が人類のラスボスですからね、仕方ありません」
カズミ「ラスボスにも人権を!」
(スタッフの笑い声)
エル「討伐されないラスボスに、いったい何の価値があるんだろうな? それはさておき、この作品の大きな特徴がもう一つある。それは、世界観が現実の世界史をもとにしているところだな」
ヒュパティア「パラドックス社的歴史分類でいうなら、ちょうど
奏「世界史的には、コンスタンティノープルの陥落は大航海時代突入のきっかけとなるわけですね」
カズミ「それどころか、宗教改革やルネサンスが興隆したのも、オスマントルコ…………というかイスラム勢力が交易の要だった、コンスタンティノープルを掌握したからなんだ」
エル「一つの都市の陥落がこれほどまでに歴史に影響を与えるとは、誰が想像しただろうか。まあ、ぶっちゃけ今までの歴史の経緯を見る限りは、いずれ起きうることだったとも思われるが」
ヒュパティア「そういった歴史背景を知っていると、この小説はより楽しめると思うわけよ。現実世界に魔術があったら、こんな展開になるのかもしれないというIF世界を存分に楽しむことができると思うわ」
奏「世界観設定というのは、ファンタジー小説を書くうえで非常に重要なことですが、その大変さも並の物ではありません」
エル「まあな。さすがに宇宙係数から考えろとは言わないが、現実の地球からどの程度乖離しているかくらいは考えておきたいところだ」
カズミ「最近は「ファンタジー警察」なるものがうるさいからね。設定がおおざっぱだと話に矛盾が出るし、細かすぎても読者に伝わらなきゃ意味がない」
ヒュパティア「特に魔法の要素の説明というのは、よほどのことがない限りJRPGのような系統化された魔法程度で十分よね。下手に独自要素を出しても、見向きもされないわ」
奏「一方で参謀本部の作者は、世界観を練るのが好きですよね」
エル「ただ色々資料不足だから、少しでも疑問があると調べ物をする時間が長い。ヒュパティアが出てきた「大図書館のラヴィア司書長」も、花一つ調べるのに一日費やしたぞ」
カズミ「まあ、そんなんだから、ある程度現実に合わせた方が、読者も想像しやすいし、説明不足でも納得してくれるよね」
ヒュパティア「ましてや文明や地形を一から考えるとか、正気の沙汰じゃないわね。作者が気に入っていた「精霊の守り人」シリーズのような、民俗学にまで踏み込んだファンタジーこそ、目指す先とかぬかしてたけど」
奏「その点、この作品は現実の歴史を大元にしているだけあって、細かな説明なしでも小説内の光景が浮かんでくるようです。もっとも、現実を改変するだけでできるような代物ではありません。これはこれで、相当な歴史の知識が必要です」
カズミ「実際の歴史だけじゃなくて、神話や宗教学もね。結局、ファンタジー世界では現代の価値観なんて通用しないんだから」
エル「奴隷がいる世界で人権だの自由だの叫んでも、どうにもならないのと同じだ。チートで文明を進めても、その世界の人々が啓蒙されてなければそれまでだ」
ヒュパティア「ま、それ以前にこの小説ほどの文章力を身に着ける方が先かしらね」
エル「今回の作品紹介はここまでにしておこう」
ヒュパティア「カクヨム内でたくさん小説を読んでいると「読みやすい文章」と「読みにくい文章」って、一目見た感覚でわかるようになるのよね」
奏「というより「何となく感じる違和感」をより具体的に示せるようになれば、評論家としても一人前になれるのではないでしょうか」
カズミ「作者がほかの作品をなかなか批判しないのは、まだ自分の感性に自信がなくて、的外れな批判をしたくないのが大きいよね」
エル「逆に言えば――――――かなり厳しい言い方になるが、参謀本部にダメだしされたら、よほどのことだと思ってくれ」
奏「作者によって文章に個性が出るのは当然ですが、小説は読んでもらわなければ話になりませんからね」
ヒュパティア「ただ、過去に一つだけ「レベルが高すぎて読めなかった」小説もあったわよね…………あれは作者が圧倒的な敗北を感じてたわ」
カズミ「だから作者のレベルがまだまだ低いんだってば」
エル「というか、作者はネタだけ出して、ゴーストライターに書いてもらった方がいいのでは?」
奏「言えてますね」
(スタッフの笑い声)
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