――資料紹介―― 賢者のいない世紀

エル「諸君。俺は戦争が好きだ」


カズミ「ファッ!? 何言ってんのこの人!?」


エル「この地上で行われる ありとあらゆる戦争行動が大好きだ」


ヒュパティア「いきなり飛ばすわね戦争狂。小生は戦争は嫌いだわ。貴重な文献や文化財が消失するじゃない。世界の損失だわ」


カズミ「いやまず文化財とかより、戦争に駆り出される人間や巻き込まれる人間のことを先に考えようよ」


ヒュパティア「小生にとっては文化財の破壊さえなければ、どこの誰が死のうと関係ないわ」


カズミ「この人も大概だなぁ」


(スタッフの笑い声)


奏「そういうカズミさんは、軍人さんなのに戦争は嫌いなんですか?」


カズミ「逆に聞くけど、奏さんは仕事をしてお金もらうのと、仕事をしないでお金もらうの、どっちがいい?」


奏「質問を質問で返すなんて……我が国の士官学校は、疑問文には疑問文で答えろと教えているのでしょうか? でも、選ぶとしたら仕事をしないでもらえることに越したことないですね」


カズミ「だろ? 軍人さんはね、基本的に戦争はしたくないの。どっちかっていうと、敵にも味方にも戦争させないのが僕たちの仕事なの」


エル「お前、それガリアでも言えるのか?」


カズミ「年がら年中、殴り合いばっかりしていた時代と一緒にしないでほしいな…………」




――――今回のテーマ――――



『Hart of Iron Ⅱ AAR』

http://hoi2aar.paradwiki.org/index



エル「今回は資料紹介だ。次のゲストは作品紹介の際に出演願うから、しばらく待ってくれ」


ヒュパティア「際物が来たわね。ハーツオブアイアンⅡのAARwikiじゃない」


奏「『ハーツオブアイアン』シリーズは、スウェーデンのPaladox社が出している、第二次世界大戦をテーマにしたシミュレーションゲームですね。比較的硬派なゲームですが、ハマる人はハマるものです」


カズミ「AARっていうのは、After Action Report……つまりプレイレポートのこと。実際にゲームをプレイしてみての感想や、経験について書くことが多いよ」


エル「シリーズの中でもⅡはかなり前に出たバージョンだが(最新は4)、比較的ゲーム性がシンプルで、そこそこ知名度がある。そのため現在でも、根強い支持があり、プレイヤーも多数いる」


奏「このゲームの魅力は、なんといっても二次大戦時代に登場する国家をすべて操れることでしょう。我らが祖国日本はもちろん、ドイツ、ソビエト、アメリカ、イギリスのような強大な国家から、エチオピア、アルバニア、リヒテンシュタインといった小国、果ては中国の軍閥やカリブ海の島国まで、やろうと思えばどんな国でもプレイ可能です」


ヒュパティア「そして、それらの国で歴史をなぞるもよし、歴史を壊しIFの世界を作るのもよし。対米戦に勝利した日本、マジノ線を延長したフランス、欧州赤化を果たしたソビエトロシア、ローマ帝国再興を成し遂げたイタリア、こんな言葉にロマンを感じる人にはおすすめね」



エル「さて、ここまで読んで「あ、これ自分に合わないな」と感じた諸君、ちょっと待ってほしい。本題はあくまでゲームではなくAARの方にある」


ヒュパティア「資料紹介と銘打ってあるからには、小説執筆で役に立つものを紹介しなきゃ意味ないわ」


カズミ「世の中には、将棋や囲碁の棋譜を読んでいて楽しいと感じる人がいるように、シミュレーションゲームは実際にプレイ画面を見なくても、過程さえ書いていけばそれなりに読めるものが仕上がるのがいいよね」


奏「アクション性が皆無ですから、あまり画面を見せなくても、プレイ内容が伝わってくるんですね」


エル「知名度とプレイしやすさのせいか、ハーツオブアイアンⅡのAARの数はかなり多い。そんなAARだが、大きく分けて「記述型」と「対話型」の二通りがある」


ヒュパティア「記述型っていうのは、単純にゲーム中で起こった出来事をレポートにして書き起こしていく形式ね。本来のAARの形はこっちになるわ。纏める人によって文章の短調や、SS(スクリーンショット)を多用したり使わなかったり、色々な個性があるわ」


奏「こんな風に書いてくださいというようなテンプレートがありませんから、皆さま本当に自由気ままに書かれておられます」


カズミ「大抵は勝利や生き残りで締めることが多いけれど、時々負けたプレイのレポートもあるよね。ああいったものも結構貴重だけど重要で、AARをみて学ぶことは多いと思う」


ヒュパティア「そして、これだけ数があると、必然的にレベルの高い文章力の作品が結構あるの。代表的なものと言えば―――――」


『総理 岡田啓介の憂鬱』


ヒュパティア「日本プレイを、国家元首である岡田啓介の視点から書いたものね。特にスーパープレイとかはないけれど、堅実に戦争を勝ち抜いていく日本を一人称視点から書いた、素晴らしいAARだと思うわ」


奏「あとは、こんなのもありますね」


『フランス~通り道国家とは呼ばせない~』


奏「史実でドイツの電撃戦の直撃を受けて、序盤で大敗北を喫したフランス。史実に逆らいプレイヤーの腕前でドイツを返り討ちにするという内容です。ゲームだからこそできる、IFの歴史の一つですね。文章も短めながら要点が整っていて、わかりやすいですね」


エル「一方で、対話型AARだが……これはいわば、ゲームに登場するキャラクターたちが台詞で掛け合いをしながら、寸劇のような形でプレイ内容を紹介していくというものだ」


カズミ「つまり……今まさに僕たちがやってることだね、うん」


ヒュパティア「そりゃそうでしょう。そもそも「参謀本部」は、Hoi2 AARの対話型をモデルにしているのよ」


奏「いつしかAARはこちらの形式が多くなりましたね。読者もわかりやすいですし、作者も作りやすいですから」


エル「ここで諸君は疑問に思うかもしれない。「このゲームにキャラクターはいるのか?」と」


奏「いないといえばいないですが、いるといえばいますね」


カズミ「ここでいうキャラクターは、ゲームに登場する国家の閣僚や将軍たちのことだね。彼らは画像はあるけれど、一言もしゃべらないし、ただデータ的に能力が割り振られているだけだ」


ヒュパティア「ところがこのゲーム、制作陣がとっても細かいところまで情報収集をしたせいで、とにかく膨大な数の人間のデーターがあるのよね。ヨーロッパのメジャーな国はまだしも、南アメリカの国家や、中央アジアの小国まで、最低20人くらいはデータがあるの。すごい執念だわ」


奏「まあ、中にはたまに変なものがあったり、画像がない人もいますが……新しく架空の国を独立させるときも、ほとんどの場合きちんと人が配置されるから驚きです」


エル「ところで、読者諸君は第二次世界大戦時代の各国の国家指導者及び、有名な将軍の名前をどれだけ知っているかな?」


カズミ「どんなに歴史の知識が浅い人でも、ドイツ、アメリカ、イタリアの指導者の名前は知ってるはず。日本、イギリス、ソビエト、中国もまあ、知らない人はほんのちょっとくらいかな。でもフランス、オランダ、ポーランドまでくると、大戦の当事者の割に知ってる人が少なくなると思う」


奏「山本五十六やパットン、ロンメルのような有名な将軍も多いですが……それこそ指揮官は無名人が多いですね」


ヒュパティア「ましてや閣僚ともなれば……当時の日本の外務大臣が誰かわかる人が何人いるかしら」


エル「このように、有名どころは知っているが、それ以外は全く分からないというのが多いと思う。しかし、各国の対話型AARでは国家元首や政府首班、閣僚や将軍が面白おかしく語り合うことで、知名度アップにつながっているわけだ」


カズミ「特に有名なのはイタリアのムッソリーニだね。Hoiを知らない人でも、なんとなくムッソリーニには女性とピザパスタが大好きってイメージがある人が多いんじゃないかな」


奏「対話型AARのレベルの高いものになりますと、本当に下手な市販の読み物よりも面白いですよ。もちろんゲームプレイのお手本になる上に、世界史の勉強にもなりますし、そしてなにより小説の物語構成のお手本にもなります」


エル「では、そんな対話型AARの中から、有名かつレベルが高いものをいくつか紹介しよう」



『大英帝国騒乱記』


エル「おそらく「一番面白いAARは何か」と聞かれたら、恐らく大半の人がこれを挙げるだろう。それほどまでに有名かつレベルが高い一作だ」


ヒュパティア「なにしろ、AARにとどまらずハーツオブアイアン界隈全体に良くも悪くも多大な影響を残した作品よね」


カズミ「作者のプレイの腕前もさることながら、とにかくイギリスの閣僚たちが実に生き生きしてるよね。ただ、これを読んだ後だとイギリス王室へのイメージが凄いことになるけど」


奏「中盤の主人公の「あの方」は、物語に出てくる強大な悪役キャラの参考にもなりそうです」



『ベネズエラ ~妄想の世紀~』


カズミ「一方こっちは「最も笑えるAAR」で堂々の第一位になると思われる作品だね」


ヒュパティア「ベネズエラってどこよ、って思う人はあまりいないでしょうが、具体的にどんな国で、二次大戦中は何した国と知っている人は、少ないんじゃないかしら」


エル「内容はといえば、ベネズエラの大統領が自身の欲望と妄想の赴くまま、国を発展させていく話だ。見ているとあまり有能そうには見えない大統領なのだが、ゲーム上ではやることなすこと、全ていいことずくめなのだから恐ろしい」


奏「大統領は完全に国家を私物化していますが、私物化しているがゆえに発展させようと努力し、結果国が豊かになっていくのが皮肉ですね」


カズミ「そんなことよりとにかく笑えるんだよね! 腹筋が痛くなること請け合いだ! それにやっぱりベネズエラのことにも詳しくなれる!」


ヒュパティア「ただAAR自体が完結していないのが惜しまれるわね」


『イタリア消耗抑制記』


奏「この作品は知名度はそれほどでもないのですが、作者が一番最初に読んだAARなので印象深いそうです」


エル「知名度はさほどでもないとは言ったが、それはあくまで上位陣と比べているからであって、これも掛け合いが十分面白いし、何よりプレイングの参考になる点も多い」


ヒュパティア「消耗抑制っていうのはドクトリンの名前ね。ドクトリンっていう言葉の説明は省くけど、この消耗抑制っていうのは結構しょうもないドクトリンなのよね」


カズミ「決して弱いわけじゃないんだけど、ほかにも強いドクトリンが多いから、相対的に微妙ってわけだ」


奏「そんな微妙なドクトリンを採用したイタリアが、なんと世界征服してしまうのです。どんな内容か気になる方は、ぜひ読んでみてくださいね♪」




エル「以上で資料紹介は終了だ」


ヒュパティア「硬派なゲームにもかかわらず、これほどまで読ませる技術があるのは、称賛に値するわ」


カズミ「作者も、これくらい面白いものが書けるように、上達に励むそうな」


奏「それでは最後に、一つだけお勧めの作品を名前だけ紹介して終わりましょう」



『アイルランド交響曲 -An Irish Symphony- 』


カズミ「あっ…………(察し)」


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