――作品紹介―― 不思議とあるこう!


ヒュパティア「さ、というわけで、始まってしまったわけだけど」


カズミ「ねえ!」


ヒュパティア「いや、何が「ねぇ」なんだかわかんないけどね!」


(スタッフの笑い声)


エル「いきなり他のをパクるのはいかがなものだろう」


奏「きっと、おもしろい掴みが思いつかなかったのでしょう」


(スタッフの笑い声)


エル「それはもういいっつーの」


ヒュパティア「おほん。では気を取り直して。今回私たちは作者の代わりに、ひっそりとおすすめの物をいろいろと紹介する企画をすることになったわ」


カズミ「それはやっぱり、ほかの方の作品とか?」


奏「それもありますが、マイナーですが為になる漫画や小説の紹介も、随時やっていきたいそうですわ」


エル「一体全体どんな風の吹き回しだよ。それに、まだ発展途上の作者が、上から偉そうにいろいろケチ付けてもいいものなのか?」


奏「言うだけならタダですからね。それに作者は基本、褒めるスタンスですので」

ヒュパティア「何しろここ10年程、他人相手に怒ったことないみたいだし」


カズミ「それはそれで、人としてどうなんだ(汗」


(スタッフの笑い声)


ヒュパティア「ほら、また話がずれてるわ。この調子で本当にお勧めできるんでしょうね?」


エル「では、記念すべき1つ目を紹介していこう」



――――今回のテーマ――――


『ヨゾラとひとつの空ゆけば』

帆多 丁 様:著

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885031700



ヒュパティア「かなりいい作品だから、知っている人も多いんじゃないかしら。そんなわけで、今回は『ヨゾラとひとつの空ゆけば』について話していく」


カズミ「ジャンルはファンタジー…………それも、かなり独立した世界観を持つ、ハイファンタジーだね」


エル「物語は、主人公の男の子アルルが、喋る黒猫と出会い、そのまま一緒に各地を旅してまわるというものだ。とはいえ、現在はまだ初めての町を過ぎたばかりだが、その初めての町でのやり取りの時点で、驚異的な濃度で描かれているのが特徴だ」


奏「私たちの作品も、ほかの方から見ればかなりゆっくり話が進んでいると評価されていますが、『ヨゾラとひとつの空ゆけば』と比べれば児戯に等しいくらいです」


カズミ「僕がさっきも言ったように、とにかく世界観の独自色が強いよね。カクヨムの異世界物は、読んでるとまるでゲームをやっているような感覚になるものが多いけれど、この作品は…………まるで映画だね」


エル「とりあえず、読む前に目次を一通り眺めてみるといい。どうだ、何とも言えない章タイトルが乱舞しているだろう」


カズミ「はじめのうちは「なんじゃこりゃ」って思ったけど、読み始めてから改めてみると、作品の色を如実に表しているのがわかるよ」


奏「その分入口で、ある程度人を選んでしまうのが難点と言えば難点でしょうか? 『精霊の守り人』や『キノの旅』のような話が好きな方向けですね」


ヒュパティア「だからこその魅力、ってわけよ。淡々と進んでいくように思えて、実はところどころ緩急がある。読んでいけばいくほど続きが気になるという寸法ね」


エル「さて、そもそもなぜこの作品をお勧めの一番に選んだか。それは、この作品が作者の理想としている終着点の一つだからだ」


カズミ「終着点って……むしろスタートラインでは」


奏「だって、作者はまだスタートラインの場所すらわからずに、戸惑っている段階ですもの。早くどこかでスタートラインを見つけなければ、よーいどんすらできません」


(スタッフの笑い声)


ヒュパティア「本作は基本的に一人称視点で物語が進む。そして、その視点が時折主人公と黒猫で切り替わる。これがなかなかうまくできていて、一方が見ている視点と同時にもう一方の視点で見ると、同じものを見てもかなり違ったものになるの」


エル「当然と言えば当然だな。だが、詳しくはここでは書けないが、双方の視線の違いは、見え方が違うとかそんな次元ではない」


奏「このずれというのが、序盤はまだ何とも思わずに読み進められるのですが、話が進むにつれて「あれ?」と思ってしまうような場面が出始めるわけです」


カズミ「けれどもまた話が進むと、また一旦読者が感じているずれが元に戻って…………と、何となく言い表せない不思議な気持ちになる」


ヒュパティア「よくできているわよね。世界に没入するだけじゃなくて、読んでいるといつの間にか脳が回転しているように感じるもの」


奏「それについては、この物語があえて世界観の説明を放棄しているからではないでしょうか」


エル「あんまりいい言い方ではないな。放棄と言っても、説明に手を抜いているわけじゃないんだから」


カズミ「でも奏さんの言葉はいい得て妙かなと僕も思う。僕たちの作品は、何か一つ重要な設定が出てくると、文章でいちいちその設定背景について詳しく説明しちゃうからさ」


ヒュパティア「こればかりは仕方ないわね。私たちの場合は、一歩引いた目線で見ることを前提としてるから、説明しないと整合性が取れないのよ」


エル「その点本作は、一人称――――それも読者の視線がほぼ主人公の中にある。もっと言えば、この作品は「本の中の物語」といったふうに動いているのではなく、ただ視界を共有していると言った方がいいだろうな」


ヒュパティア「私たちの作品で一人称っていうと、奏とハルロッサね」


奏「一人称の利点は主人公の心象風景が読者にダイレクトに伝わることです。主人公とともに喜び、ともに涙して、物語に没入する……しかしながら、デメリットとして、どうしても読者の視野が狭くなります」


カズミ「その視野の狭さを補うために、主人公は時折心の声で読者に語り掛けるわけだ」


奏「そうですね。第一、普段の生活で――――この甘味はかの有名パティシエが作って、その過程では云々――なんて思いながら食べません」


エル「甘いもの…………」


ヒュパティア「どうかした?」


エル「いやなんでも。とにかく、視野が狭いと、主人公の周りがわからないことだらけになってしまう恐れがあるわけだ」


奏「その「わからない」をあえて説明せずに、不思議を不思議のままに、話を進めているのが本作の最大の特徴なのでしょう」


カズミ「魔法の話から、各地の風習の話、それにオープニングで語られる歴史など、物語に断片的に登場するのに、その場で説明がなされることもほぼないね。むしろ、そういった分からない要素がある分、想像の余地がぐっと膨らむ面白さもある」


ヒュパティア「それでいて、これだけ不思議が多いにもかかわらず、物語を見ていくうえで必要な知識は自然に揃うのよね」


エル「その場合は、ほかの人が主人公に説明する形をとっていることが多いな」


奏「主人公が得た知識は、そのまま読者の知識になるということです。これもまた、世界観への没入を促すことにつながるのですね」




ヒュパティア「そんなこんなで、一通り話してみたけど、うまく魅力が伝わったかしら?」


奏「どうでしょう? とにかく、ネタバレをできる限りしたくないので、当り障りのない形で紹介してみましたが」


エル「別に俺たちも広告費をもらっているわけじゃないからな。だが、同じ作家としてこの作品には本当に為になることが多い。このレベルの物が書けるようになるには、作者は後どれだけかかるのやら」


カズミ「まあ、これを読んでくれる方が、少しでも興味を持ってもらえたら、それだけで僕は嬉しいよ」


奏「そもそも読んでくれる方がいるでしょうか?」


ヒュパティア「んなこと小生の知ったことではないわ。知名度が低いうちの作者に期待すること自体が無駄な行為よ」


エル「無名人が宣伝とか、これもうわからんな」


(スタッフの笑い声)


カズミ「結局は自己満足ってことか……」


ヒュパティア「とはいえ、この作品は本当の本当にいいものだから、小生からも強くお勧めするわ。読者さんたちのためにもなれば、幸いね」

 


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