――作品紹介―― お前があの!?

ヒュパティア「作品紹介、早くも二回目に突入したわね」


奏「作者が思いのほか好評に味を占めたのでしょうか」


カズミ「なんでも、一回の気まぐれじゃ終わらないよっていうアピールのつもりなんだってさ。初回から気まぐれだと、期待されないかもって」


エル「変なところで律義なんだな」


ヒュパティア「自分で作ったキャラクターにボロクソ言われる作者の威信値は、右肩下がり待ったなしね」


エル「威信値とかもとからあるとも思えんが」


(スタッフの笑い声)


カズミ「はいはい、あんなのでも僕たちの生みの親なんだからね。それじゃあ、今回の作品紹介、やっていこうか」


――――今回のテーマ――――


『趣海坊天狗譚』

みりあむ 様:著

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885716644


奏「前回から一転して時代小説ですね。この物語は、怠け者の天狗「趣海坊」が、自宅警備を解任されて、元の生活を取り戻すために、仕方なく一人の人間を天狗にしようとあまりがんばらないお話です」


カズミ「内容端折りすぎなうえに、頑張らないお話って……」


(スタッフの笑い声)


エル「さすがに全く頑張っていないわけではないんだが、主人公の天狗趣海坊は、長命種の性か焦りが全く感じられない。むしろ余裕すら感じられるな。ただ、読んでみればわかるが、彼は焦っていないわけでも余裕があるわけでもない。あくまで天狗の価値観で行動しているに過ぎない」


ヒュパティア「そもそも小生やエルのような西洋人には、天狗と言っても今ひとつピンとこないんだけど、そんなにすごいの?」


奏「天狗というのは、いわば日本版「堕天使ルシフェル」ですわ。お坊さんや山伏が堕落した存在で、ある程度修行しているから地獄に落ちることがありませんが、邪術を扱うので極楽にも行けません」


カズミ「天狗の鼻が高いのは、高慢の証なんだ。天狗は教えたがり屋で、自分の知識を得意げに話すせいで、ちっとも徳を積めないのだとか。けっして嘘をついたから鼻が伸びたんじゃないよ」


奏「しかしそこはあらゆるものを取り込んで進化するアジア文明。なんでもかんでも「天狗の仕業」にしているせいで、いつの間にか山岳信仰と混ざって、天狗は山の神様としてまつられることになるです。作中に出てくる「僧正坊」というのは、かの有名な「鞍馬天狗」のことですね」


ヒュパティア「相変わらず東方文明は複雑怪奇ね。侵略してきた国をいつの間にか自分の国にしてしまう中国、伝わっている話を神話に全部ぶち込むインド、そして外来の物を自国用に魔改造する日本……我ら西方民には理解不能だわ」


エル「古代ローマ時代までは俺ら西洋民も似たようなもんだろ」


(スタッフから「話が脱線してる」のカンペ)


エル「話を戻そう。趣海坊は山に戻る条件として、人間一人を修行させて天狗にするという課題を背負わされたわけだが、その趣海坊が目につけたのは一人の医者だ。この医者を見込んだ趣海坊は、彼を天狗道に勧誘すべく、医者の旅に同行する。その旅の動向が、まるで講釈師の語り口調のような表現で書かれているのが、本作の特徴だな」


カズミ「今の時代に講釈師と言われてもあまりピンとこないかもしれないけど、要は落語みたいな喋り方ってことだね」


奏「確かに落語家さんが語っても違和感がないような、ところどころで抑揚のある仕上がりになっております」


ヒュパティア「そういえば作者も落語好きよね」


奏「今でも月一くらいに寄席で落語を聞くのが楽しみみたいですよ」


エル「小学校の時も読書の時間に落語の本を読んでたものな」


カズミ「ああ……作者が時々発作的に起こす「笑い取りたい病」はそれが原因か」


奏「作者のことは置いておくとして、本作の著者であるみりあむ様は民俗学に興味がおありで、本作の参考文献にもそういったものを上げておりますよ」


エル「時代小説というと、たまにお堅い文学のようなイメージを持っている者もいるかもしれないが、実際の時代小説は本作のようなノリで話が進むものも多い。藤沢周平とかそうだな。司馬遼太郎も初心者向きだ」


ヒュパティア「むしろ本作が、それらの作品に匹敵するくらい読んでて楽しいものだって、はっきりわかんだね」


カズミ「前回紹介した『ヨゾラとひとつの空ゆけば』と同じく、この作品も登場人物間で見ている世界が異なっていることがポイントだよね。何しろ天狗はかなりストイックで、偏見をほとんど持たない」


エル「が、そのストイックで偏見を持たないっていうのはあくまで人間から見た天狗の印象で、天狗には天狗の欲やしがらみがある。趣海坊も結局は自由人ではなく、天狗の掟に行動を制限されているわけだしな」


奏「ですが、面白いことに、読み進めていくと読者の考えはどんどん天狗寄りに立っていくのです。そしてどんどん、人間の方をおかしいと思い始めます。不思議だと思いませんか?」


ヒュパティア「それは単純に、我らが「これおかしくない?」と思う場所が、たまたま天狗のそれと同じだからではないかな。これで「天狗は人権派」と思うような脳内お花畑がいるとは思えないけど」


奏「どうでしょうね? 仲間意識は持つかもしれませんが」


エル「そういうやつに限って、勝手に同族意識をもって、後になって考えが違う面があるとすぐに「裏切った」と解釈しやがる。結局、理解していると勘違いしているわけだな」


カズミ「ちなみに、本作には実在の人物のモデルと架空人物のモデルが1人ずついるよね」


ヒュパティア「だからといって歴史小説家というと、それはちょっと違うのだけれど、サブ主人公の医者は実在の人物がモデルね。残念なことに、作者は物語の最後になってようやく気が付いたらしいわ」


奏「高校は日本史を選択していたというのに……不勉強ですね」


エル「その様子は、さながらクイズ番組の順番にヒントを開示するやつで、最後のヒントでぎりぎり気が付くような間抜けさだ」


カズミ「本作はクイズじゃないんだけれどね……」





ヒュパティア「てなわけで、第二回目も終了ね」


カズミ「これ本当に宣伝になってるのか、かなり不安になってきた」


エル「とはいえ、作者からは話したいことを話せとしか言われてないもんな」


奏「ここでいったんお茶にしましょうか。今お茶菓子用意しますね」


エル「ザッハトルテが食いたい」


ヒュパティア「小生はアマレッティで」


カズミ「虎屋の羊羹がいいな」


奏「……………………(これだからブルジョアキャラ達は)」


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