第13話 追い風

 洞窟を抜けたふたりを太陽が出迎えた。月よりも濃く明るい。慣れない光に少年は目をくらませた。

『大丈夫?』

「うん。ちょっとびっくりしただけ」

 少年はゆっくりと瞼を上げ、感嘆の声を漏らした。夜に来た時よりも、景色が鮮やかに彩られていた。少年の周りを囲む芝生は瑞々しい新緑色をしている。遠くまで見渡すことができるが、遠くになるほど霞んで見える。これはどういう訳だろう? 新たな発見と驚きが少年の胸をときめかせた。

「あれはなに?」

 少年は青い空に浮かぶ白い綿を指差した。

『雲。水蒸気ノ、塊。風ニ、乗ッテ、流レル』

「へぇ」

 ぷかぷかと浮かぶ雲。手が届きそう。そう思って手を伸ばすが、その手は宙をかすめた。

『届カナイ、ヨ。スゴク、遠ク、ニ、アル』

「そうなんだ」

 掴めないことを、少年は全く残念に感じなかった。空は遠い。澄んでいる。それが分かっただけでも十分だ。機械街を覆う深淵より、届かない華麗な大空の方が少年に似合っていた。

 後ろを振り返えると、ずんぐりとしたドームがぽつんと佇んでいた。灰色に輝く壁を作った人は、いったい何を想ったのだろう。ドームの天辺から黒い煙が立ち上り、水色の空にシミを作っていた。

 それが多くの工場から立ち上る黒煙だと知っているのは、この世界で少年とその〝友達〟だけだった。

 少年たちは草原の間にある道に出た。ドームに背を向けて進むとT字路にぶつかった。右に行くか、左に行くか。

「どっち行けばいいのかな」

『右。予定、デハ、三日目、二、小サナ街、ニ、着ク』

 少年は進むべき先を見据える。見たことのない道が、ずっと先の、知らない街まで伸びている。

 不安も恐怖もある。しかし少年の瞳は陽の光を反射して、明るく、キラキラと輝いていた。

 旅が始まる。

 甘く暖かい風が追いついて、小さなふたりの背中を押した。


                               -Fin―

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【短編】機械街の少年 神田 伊都 @kanata1250

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