史実の戦前ドイツを彷彿とさせる悲劇の敗戦国・ヴォルフ共和国。先の大戦で二つに引き裂かれたヴォルフ人同士が近代兵器──それも登場間もない航空機を使って殺し合うという、20世紀の戦史が好きなオタクにはたまらなく刺さる物語。
大編隊を組んで襲来する爆撃機、機関砲の咆哮と共に敵機を墜としていく戦闘機、最前線へ果敢に飛び込んでいく偵察機。無情な空の戦場で織りなされる群像劇はもちろんのこと、文面からパイロット一人一人の荒い息遣いや極限環境下での心音まで聞こえてくるような作品です。
常に神経をすり減らしながら命がけで飛び立つパイロットたち。
先の大戦での傷跡も癒えぬまま、二度目の大戦に巻き込まれていく共和国。
彼らの命運を見守り、彼らが歴史に残す足跡を見届けたい──そう思わせる秀作です。
やはり、小説は良いですね。
”みんなちがって、みんないい”とは、金子みすゞ先生の『私と小鳥と鈴と』の最終フレーズですが、これはどのような創作にも当てはまると思っています。
飛行機への愛は私も防衛太郎先生に負けないと思っておりますが、その愛へのアプローチが異なっており、自分ができない、もしくはしない表現方法が読んでいて誠に気持ちが良いです。
メカニズムと言うものは、全く知らない人には説明してもなかなか本質が伝わりません。どうすれば伝わるか・・・作者の腕の見せ所かと思います。
その点、防衛先生の表現は見事だと思います。
続きを楽しみにしております。頑張ってください。
こちらは無邪気な新米パイロットが周囲の人々との関わりの中で一人の爆撃機乗りとして成長していく物語です。平時の魅力あふれるキャラクターたちの和気あいあいとした心温まる交流と、戦場での陰惨な現実の対比が実に鮮やかで、戦うことの意味を深く考えさせられます。
スピーディーで臨場感あふれる戦闘描写は映画のよう。五感に訴える丁寧な情景描写がキャラクターたちの心情をもリアルに感じさせます。
こういった空軍ものではきちんと描かれることの少ない地上部隊との連携や彼らの活躍が丁寧に描かれているところも本当に素晴らしい。空を飛ぶのはパイロット一人ではとうてい不可能だと痛感しますね。
ミリタリー好きな方もそうでない方も、ぜひ一度は読んでみていただきたい作品です。
空を飛ぶ。飛行機に乗って空を飛ぶ。一言で言ってしまえばそれだけのものであっても、圧倒的な密度の描写である。
空の上で戦闘機を運転する人は何を考え、何を判断し、そして行動するのか。まるで自分がそれを体感していると錯覚するほどにリアルなのである。
ともすれば息遣いまで聞こえてきそうなほどなのだ。
未熟な新米パイロットは、どのように空を飛んでいくのか。圧倒的密度の描写と、そしてはっとする空の美しさと、登場人物たちの絶妙な掛け合いと、それらが見事なまでに組み上げられている。
読み手も読んでいるうちに、青と白の空へと引き込まれていく。ぜひご一読ください。
ただ飛行機に乗って空を飛ぶ。
”ただそれだけの”事にどれだけ大変な思いをして、色んなことを考えて、工夫しなきゃいけない。ルーキーなんて空の景色を楽しむ隙も与えられないのです。
爆弾はボタン一つで命中してくれません。決められた操作を何度も繰り返し、勘を養い、強くなっていきます。
そんな空で戦う人々が、機上でどんなことを考え、どんな風に生きているか(そしておそらく死んでゆくか)を語る物語です。
まだ物語は序盤ですが、プロ顔負けの作者の筆力は留まるところを知りません。
過酷な運命に放り込まれた”普通の”少女ユモの戦いと生き様を、是非感じて頂きたい。
(2022/8/16執筆)
主人公はまだまだ未熟なパイロット、ユモ。
第1話を読む限り、真っすぐ飛ぶのも難しいという有様。
しかし、隊の人員は彼女を見捨てたりはしない。
それは、未熟とは言え命を預ける相手。邪険にしては自分が危ないということもあるだろうが、そこから培われる軍隊特有の強い絆があってこそのものだと思う。
大隊長の「一人も欠くことなく生きて還れ!」という言葉にもその精神が滲み出ている。
戦う者達の感情が細かく書かれている作品だ。
一方で、美しい空の描写がところどころに書かれているのも特徴的だ。
それがあってこそ、これから厳しい戦場へ向かう緊張がより感じられるように思った。
新米パイロットであるユモ一等兵の不安、焦燥を通じて描かれる空の世界。その緻密な描写は処女作とは思えぬほど詩的で美しく表現され、読者の皆さんもキャノピーの向こうに拡がる無慈悲で冷厳な青と白の世界へと引き込まれることでしょう。そして彼女の周囲からはレシプロ機が生み出す振動に加え、自らの技量と度胸が試される中どこからかオイルの匂いが鼻についてくる感覚すら覚えましたね。私、この小説に登場する急降下爆撃機のファンアートを送った者ですが、文面から白とグレーの冬季迷彩を施した逆ガルウィング、固定脚のあの機体が翻るのを想像しておりました。
今後の活躍を期待しております。