第11話 再び洞窟へ
大量の食糧を仕入れて寝床に戻った少年は驚いた。壁際に荷物が纏められている。大きな背負い鞄がパンパンに膨れている。何が入っているのだろう。少年が〝友達〟に聞くと、
『旅ニ、必要ナ、モノ。火、ト、水ハ、必須』
少年が鞄を開けてみると、コンロや容器などが詰め込まれていた。
「……こんなに持てない」
『ボク、ガ、持ツ』
「一人で? 僕も持つよ」
『キミ、ハ、ソノ籠ヲ、持ツ。ボク、ガ、鞄ヲ、持ツ。平等』
「そうかい? じゃあお願いするよ」
〝友達〟が旅の用意を進めてくれていた。後は、いつも使っていた布団を丸めて縛るだけだ。
この街に未練はない。
少年をこの街に縛り付けるものなど、最初からなかったのだ。
少年は街を出る。
♯
翌朝。ふたりは誰にも見つからないように、こそこそと街の出口を目指した。物陰から物陰へ。辺りをうかがいながら進んだ。
工場の機械音が四方から聞こえてくる。今まではこの音に囲まれて暮らしていた。もう、頭を揺さぶるような音を聞かなくて済む。嬉しいことのはずなのに、少年はなぜか、寂しいと感じた。
曲がり角を右に折れ、進んだ先の十字路を左へ進む。そうすると、正面に見慣れた工場が現れた。長い間少年が働いてきた工場だ。
近づくにつれ、コンベアが忙しなく動く音が聞こえてくる。きっと中では大変な騒ぎだろう。
〝友達〟が来ない。
またサボった。
そう言えば、あの時の少年は口数が少なかった。
〝友達〟に愛想を尽かされたに違いない。
次に来たらとっ捕まえてバカにしてやろう。
でも、彼らは知らない。二度と、この工場に少年は来ない。
「見えてきた」
工場の外壁添いに裏手に回ると、例の鉄の扉が見えた。先日少年たちが通ったあと、開け放したままだ。閉じようとしても、錆のせいで閉じられなかったのだ。
洞窟を覗くと、やはりランタンが灯っていた。明るいところと暗いところが、道に沿って交互に連なっている。洞窟の入り口に立つだけで、あの日見た月明かりと、甘い草原の風を容易に思い出せた。
少年は大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出した。心はすでに決まっている。〝友達〟に言った。
「よし、じゃあ、行こう」
〝友達〟が頷くのを見て、少年は洞窟に足を踏み入れた。
「どこに、行くノ?」
真後ろから声を掛けられて、少年はぎょっと肩を震わせた。あまりに驚きすぎて、手に持った籠の中身をいくつか落してしまった。少年が恐る恐る振り返ると、赤い眼をしたロボットが立っていた――五〇番さんだ。
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