クイズとスカート
弦楽部では美麗にバイオリンを奏で、大差で選挙に勝って生徒会長に就任したばかり、物腰は柔らかく、都内を歩くと恵まれた容姿ゆえにスカウトからの名刺が集まる。他にも挙げればきりがないのだが、
――のだが、私だけが知る明確な粗がある。
地元が一緒なので、私と日菜乃は同じ路線のバスで帰る。夕闇に染まる道は住宅街に入り、終点――
並んで座る隣、向かって右から日菜乃の右手が伸びる。それはブレザーのスカートの上から、チェックの柄をなぞり、私の
「ねえ、
女同士だからぎりぎり許されるのである。
あろうことか、品行方正極まる生徒会長が、バスの車内という公共性のある場所で、いち女子生徒のスカートを堂々とめくろうという。なんといかがわしい。
これは昨日今日に始まったことではなく、小学生の時からずっと続いている。結局私は今も日菜乃との付き合いをやめていないというのだから、酔興と言われても致し方ない。あるいは、私は日菜乃に一度もスカートをめくらせてやらないので、頑固と言われても正しい。
毎度のことなので、私はとうの昔に、さらっとあしらうようになっている。今日もそのようにした。
「黒。フリル付き」
真っ赤すぎるほどの嘘を吐いた。私が今穿いているのは、何の柄もない白のショーツである。しかも綿である。日菜乃は私の言ったことをそのまま信じて、「うわ。えっろ」と言った。私と日菜乃は、高校ではクラスが違うので、体育の着替えを見られることはない。
私は日菜乃をあしらってはいる、が、黒でフリルと言ったのには、明確な理由がある。見たがってほしいから。しつこいとは思うが、そろそろ再確認してもいい頃だ。だから私は言った。
「前から言ってるでしょ。日菜乃が私と付き合ってくれたら、いくらでも見せてあげるって」
実のところ、今は穿いていないだけで、黒でフリルの勝負下着はしっかり洋服ダンスの中にあるのである。しかし、日菜乃に見せる日は一向にやってこない。
「友達のスカートの中を見るのがロマンなんじゃん! わかる? スカートの中! 友達だというのに。やばい震える。まず見せてよ。そしたら付き合うから!」
日菜乃は、それが絶対の正義であるかのように力説した。私の告白は、こうして、日菜乃の
ともかくも、物腰柔らかな優等生は今ここにいない。いるのは、パンツが見られないと知るや、すっと私の背に左手を伸ばした、そろそろぎりぎり許されない女子だ。なにせ――
「舞子、ブラ新しいの買ったんだ」
と、日菜乃は、いくら夏服だからって、ホックに触るだけで見抜くので、もう女同士でもぎりぎりアウトだと思うのだ。私は深く嘆息した後に言った。
「言っても無駄だと思うけど、付き合ってくれたら、いくらでも外していいよ」
「だめ。ホックは留まってるのがえろいから」
私は、日菜乃といざその時になっても、ブラを脱がせてもらえないのだろうか。
そのまますぐ、私たちが下りるバス停に着いた。降り
実質、行為が伴わないだけで、もう付き合っているに等しいと思うのだ。それも初々しくないやつだ。土曜日、つまり休日、日菜乃は朝から私の部屋に押しかけて、黙々と小説を読んでいる。純文学だ。私の机を占領し、窓から差す日を浴びて、時折、前髪をかき上げる。なるほど絵にはなる。なるが相手はしてもらえず、私とて当たり前のように相手をしない。
それはそれで居心地がいいのだが、日菜乃がパンツを見たがるように、私にだって欲というものはある。いい加減に行為を伴いたい。せめてキスのひとつくらいはしたい。そのためには正式に付き合い始めるというハードルを越えなければならない。
しかし今さら、私が友達としてパンツを見せて、じゃあ付き合いましょうというのも
なので、私はひとつ勝負に出ようと、今朝起きてから、日菜乃が来るまでの間で決意していた。ゆえにズボンではなくスカートを穿いて日菜乃を待ったのである。私はすっくと立ち上がり、マンガを本棚に戻した。文庫本のページを繊細にめくる日菜乃に、びしりと指を向けて、私は敢然と言った。
「いい加減に付き合おう。パンツを見せてから付き合うか、付き合ってからパンツを見せるかは、これからクイズをして決める!」
「いきなり、何?」
言いつつ、日菜乃は読み
「今、私のスカートの中を当てられたら、日菜乃の望み通り、パンツを見せてから付き合う。当てられなかったら逆、パンツを見せる前に付き合ってもらう」
聞いて、日菜乃は思案顔になる。
「それって、私が不利に過ぎない? せめてヒントとかないの?」
私は不敵に笑む。何をどうやったって、パンツなんて見せてやるものか。しかしこれは真剣勝負だ。偽りはいけない。誠実に、正直にヒントを言った。
「ヒントはね、修学旅行で見たことがあるよ」
日菜乃は悩まなかった。さすがの記憶力で、即座に答えを言った。
「それ、イチゴ柄のやつだ! 小学校の時も、中学校の時も、イチゴのやつ着てた! 小学の時はピンク地で、中学の時は白地で、すとろべりぃって書いてあった! 脱衣所で凝視したもん。しっかり覚えてる」
さすがの記憶力も、ここまでいくとぎりぎりアウトだと思うのだが――ついでに言えば、私の下着の趣味もアウトに思えるが、それはさておき、クイズは私の勝ちだ。見事に引っかかってくれた。
「残念でした。今この瞬間から、私たち、恋人同士だからね」
すなわち私は、いくらでも見せるという約束を守る。
私は堂々とスカートをめくり上げた。虚を衝かれたふうになった日菜乃だが、次の瞬間には椅子を跳ねるように下りて、私のベッドの上で身悶えしながら、ごろごろとのたうち回った。まともに言葉にならないのか、「うわ、うっわ。やっば」などと言いつつ。なんだ、ブラのホックは外したくないわりに、下はいいのか。私は勝ち誇りつつも、耳まで紅潮する感覚を味わっていた。自分で驚くほどに恥ずかしい。とにかく嘘は吐いてない。同じクラスで、一緒にお風呂に入ったんだから、ちゃんと見ている。
「ご覧の通り、何も穿いてません」
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