第9話 ネコ魔王の握り締めた肉球
魔王城の玉座の間で私とニャー様がいた。
ニャー様は目の前に立ち塞がるものを見つめて、緊張からくる滴る汗を喉元に集まったところを腕で拭う。
両足をガクガクさせるニャー様の膝がついに崩れる。
「ニャー様、頑張ってください!」
「も、もう無理にゃ……」
仰向けに倒れるニャー様が大股を開いている。
その股にビー玉サイズのモノが2つ並んでいた。
さ、触りたい……ッ!
触りたいが以前、触った時に激怒されたので私は学習していたので寸でのところで耐える。
「もうニャーは頑張ったにゃ……」
「まだいけます、ニャー様!」
荒い息を吐くニャー様を眺めながら昨日の事を思い出す。
突然、妹のターニャの襲撃を受けたが結局、その日の内に王国軍は撤退していった。
本当にあの子は何をしたかったのやら、と呆れるしかない。
あの子の事は正直どうでもいい。
ニャー様にとんでもない弱点がある事が発覚した。
そう、イヌが苦手という事実であった。
あの後、調べた限り、ネコ自体がイヌが苦手な節があったがニャー様ほど酷い反応を見せないと分かって、ニャー様が特例だと判断した私はニャー様に弱点克服をして貰おうと修行を課した訳だ。
プルプル震わせる腕で体を支えるように立とうとするニャー様が言ってくる。
「苦手なモノは苦手にゃ……」
泣き事を言われるニャー様に私は小さな声で呟く。
「頑張ったら、今夜はブシとご飯の1:1の豪華仕様」
「ニャーは魔王にゃ! 何人もニャーを止められはしないにゃ!」
なんだと? とばかりに私を見上げたニャー様は腹筋を始めたので私は介添をする為にニャー様の後ろ脚を固定してあげる。
はぁはぁ、腹筋する度に上がってくるニャー様の顔……見えて、見なくなって、見えて……
私は静かに鼻血を滝のように流す。
10回ほど腹筋をした後、キリリとした表情で立ち上がったがニャー様は肉球を握り締める。
「くるにゃ!」
ニャー様が目を細めて睨みつける。
睨みつけた先にはフワフワの白い毛の塊といったケダモノ、ポチとそっくりなのがお座りをするようにしてニャー様を見つめ返していた。
そう、ニャー様の訓練相手はコイツである。
肉球を握り締めた拳でシャドーボクシングをするようにし出すニャー様は次第にフットワークを取り入れ始める。
ポチもどきの周りを旋回するようにしながら牽制するようにして拳を放つ。
相手の行動を伺うようにしていたニャー様の瞳がキラリと光る。
「隙ありにゃ!!」
ポチもどきの足下にスライディングするよう飛び込むが残念、ニャー様の足が短すぎて届かない。
それを見た私は鼻血を噴き出して片膝を吐く。
可愛過ぎるぅ!
「まだまだにゃ! ニャーはまだ諦めないにゃ!!」
スライディングした体勢のままで尻尾を旋回させてポチもどきの足を払い転倒させようとする。
力なくポテと倒れるポチもどきを見たニャー様が飛び起きると両手を天に向けて突き上げる。
「勝ったにゃ! ついに宿敵イヌをニャーが倒したにゃ!」
「お、おめでとうございます!」
涙と鼻血を流す私がニャー様に駆け寄るとニャー様も私に向かって走ってくる。
さあ、私の胸へ……ぐへへ
両手を広げる私の脇を駆け抜けるニャー様。
手を広げたままで硬直する私の耳に「1人凱旋パレードにゃ!」届かせて駆けていく。
ニャー様……ノリは理解しますが帰るのはここ、魔王城なんですが……
今度は色んな意味で悲しくなってきた私がポロポロと泣いていると伝令のペーターが現れ、ニャー様が倒したポチもどきを持ち上げる。
「なんですか、このぬいぐるみは……とても作りがいいですけどドドンさんにでも作って貰ったのですか?」
実はこのポチは偽者でぬいぐるみであった。いきなり本物でやったら危ないと判断したので慣れを作る為に練習していた。
「何を言っている? そのぬいぐるみは昨日、私が作ったのだが?」
ドドン、ドワーフ達は手先が器用だが、こういったぬいぐるみのようなモノは作らない。
彫像などであれば作るかもしれないがあのドドンが作るとは思えないと私は肩を竦める。
ペーターはびっくりしたような顔をした後、私とぬいぐるみを交互に見つめた後、微妙そうな顔をして言ってくる。
「なんていうか……似合いませんね?」
「よし、たまには私がお前を鍛えてやろう」
ペーターの顔を鷲掴みにして持ち上げて広い場所を求めて歩き始める。
私はただ鍛えてやろうと思っているだけなのにペーターは叫びながら私の手を解こうと躍起になり始めた。
「イタッタタ! ご、ごめんなさい、悪気はなくて素直に言っただけなんです!」
「よし、昼食も抜きで訓練してやろう。私がお前に求めるのは強くなるか、それとも死ぬかだ!」
ギャー、殺される! と騒ぐペーターを連れて私は天気の良いので中庭で鍛えてやろうと歩き始めた。
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