第15話 ネコ魔王の望まぬライフワーク

 辺りを観察しながら街を歩く私は路地裏、人が余り使わなさそうな場所を重点的に覗き込んでいたりしていた。


 決して、散歩をしてる訳ではない。これは重要なニャー様の右腕として必要な仕事だ。


「止めましょうよ、レティス様?」


 私の腕を引っ張って大通りを外れようとするのをペーターが止めようとするのを振り払う。


 まったくコイツは私の仕事の重要性を理解していない!


 ネコ達の生息地を把握するという私のライフワーク、もとい、ニャー様の部下達の事を知るという義務を!


 それなのに私を残念な、と言いたげに見上げてくるコイツには折檻が必要だな。


 ペーターが反応する隙を与えずにソバカスが目に付く鼻を抓んで持ち上げる。


「イタタタ! いつの間に掴んだんですか!?」

「馬鹿者め、これでも神に聖剣を与えられるような猛者の私がペーター如きに察知される動きをすると思ったか?」


 抓み上げられて半泣きになりながら「才能の無駄使いだぁぁ!!」と掴む私の手を両手で持って痛みを軽減しようと奮闘する。


 才能の無駄使いとは酷い事を言う。


 ニャー様に呼ばれれば魔王城にいる限り、3秒で駆け付けると自負している。右腕としての誇りだ。


 抓んでた手を離してペーターに言うと抓まれた鼻を撫でながら聞いてくる。


「本当ですか? トイレ中だったり、お風呂中だったりする事もあるんじゃ?」

「やはりペーターだな?」


 そう言われたペーターは「ええぇ~」と情けない声を出すのを鼻で笑う。


 こんな分かりやすい解なのにな……


 ドヤ顔する私はペーターの鼻を人差し指で押しながら言う。


「そのままの状態で駆け付けるに決まっているだろう?」

「恥じらいを覚えてください!」


 顔を真っ赤にしたペーターに溜めなしで即答されて私は言い知れないペーターの気迫に圧される。


 何をそんなに驚くのだろう?


 たかが、パンツがくるぶしの辺りで引っ掛かっていたり、水浸しのままの真っ裸なだけだろうが……なるほど!


「廊下が水浸しになると掃除の者やネコ達が困る、つまりそういう事だな!?」

「はぁ……一つ一ついきましょう。そうですね、まずは水気を拭き切ってタオルを撒くところからで……」


 遠い目をするペーター。


 胡乱な瞳で私を見つめながら「ニャー様もご苦労されてますね……」と言われる。


「どうして美人なのに残念なんだろう……ターニャ様もだけど……姉妹ともども残念ですよ!」

「何を言っている私達は3姉妹だ。後、1人いる」

「知りたくなかったぁぁ!!」


 絶望したように頭を抱えるペーターを憮然とした表情で見つめる私。


 まったく失礼な奴だ。







 巡回を終えた私は市場に通りかかった時に頂いたモノを抱えて魔王城に戻ってきた。


 胸に抱えるモノを胸一杯に吸い込む。


「良い香りだ。ニャー様もきっと喜んでくださる」


 スキップしそうになりつつ、鼻歌を歌う私は王の間を目指して歩く。


 そして、閉ざされてない王の間に入って行くと奥で丸くなっていたニャー様が片目を開けて私を見つめる。


「レティスか、もうそんな時間にゃ?……にゃ! この匂いは!」

「市場の者に頂いたんですよ」


 私が一歩前に出ると二歩下がるニャー様。


 首を傾げる私が再び、前に出ると同じ事を繰り返す。


「どうされたのですか?」

「どうもこうもにゃいにゃ! ニャー達はそれが苦手にゃ!」


 肉球が指し示す場所、私が抱えるモノのようだ。


 胸に抱えるモノを一個、手にして掲げる。


「もしかしてレモンの事ですか?」

「そうにゃ! ニャー達は柑橘系は駄目にゃ!」


 そう言うと両肉球で鼻を押さえるようにするニャー様をジッと見つめる。


 見つめる私を見てニャー様が後ずさる。


「れ、レティス……目の輝きが危ないにゃ?」


 レモンを突き付ける私は悪い笑みを浮かべる。


「近づけられたくなければ、ニャー様のお腹をモフモフさせて頂きたい!」

「きょ、脅迫にゃ!!」


 逃げ出すニャー様を私は追いかけ始める。


 それから小一時間、私はニャー様と楽しい追いかけっこに勤しんだ。

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『ネコ魔王と完堕ちした姫騎士』 バイブルさん @0229bar

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