第12話 ネコ魔王とメタモルフォーゼ
ターニャを連れて魔王城を歩き回るペーターは捜し人、レティスの姿を求めていた。
背後にいるターニャには「お姉ちゃんはどこ? ねえねえ?」と煩さにうんざりしながらではあったがドワーフ達の仕事場、本来は技術課という名前が与えられているが既にその名で認識している者がいなくなりつつある場所に近づいた時、ターニャの前髪がピンと一房立ち上がる。
「むむむ!?
「姉貴? お姉ちゃんかどちらかに統一したほうが良くない?」
微妙に噛み合ってない会話をする2人であったがターニャは取り合う気がないようで「こっち!」とペーターの手を掴むと引きずって仕事場に向かった。
引きずられるペーターは溜息を零して「この際、僕の事を忘れて1人で行って貰った方が楽なんだけどね……」と職務放棄発言を零すが誰の耳にも拾われる事はなかった。
中に入ると捜し人のレティスがドドンと何やら真剣な表情で会話をしてるのを見た瞬間、ターニャはペーターを壁に叩きつけるようにして物影に身を隠す。
「ひ、酷い……」
「煩い、これぐらいで……男の子でしょ?」
ペーターの扱いが酷いターニャではあったがプロを思わせる真剣な表情を浮かべる姿がエージェントきどりであった。
そして、物影からこっそりと聞き耳を立て始める2人。
そこで語られる内容を聞かされ、ペーターは呆れ、馬鹿馬鹿しいとばかりに嘆息するがターニャはレティスの持つ物を見て息を荒らげ、鼻から青春の汗を滝のように流す。
「はぁはぁ、どうしよう!? 私は止めるべきなの? それとも見守るべきなの!?」
涎も流し始めるターニャを見て真正の変態だ、と思うペーターであったが姉妹だしな……と思ってしまうがここまで似なくてもいいのにと色々諦めたように溜息を零した。
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ニャー様に命令……されたというほど大袈裟ではないがコミニケーション対策を考える私であったが、すぐに行き詰ったのでドドンを訪ねる事にした。
ドドンなら何とかしそうであるし、伊達に120時間不眠不休で調査したり、長としての仕事を放棄して1カ月もネコの生態調査に奔走していない。
「魔王軍一の馬鹿者と私も認めているぐらいだからな」
レティスは知るよしもないがドドンに似たような感想を持たれ、また他の者達には似た者同士と認識されている事を当然知らない。
それに思うのだ。
いつかドドンが付けている前掛けのポケットから望めば何でも便利アイテムが飛び出すんじゃないかと!
「たのもう!」
私は仕事場に到着するとノックもせずに蹴り破るようにドアを開けるが中にいるドワーフ達の反応はチラリと目を向ける者が数名、残る者達は完全に無視である。
相変わらずの反応と言えるが自分の興味有る事以外には無頓着な奴等だ。
自分の行儀の悪さを棚に上げ、辺りをキョロキョロするとドドンを見つけ近寄る。
「さあ、出せ!」
「いきなり何じゃ!?」
問答無用に前掛けにあるポケットを漁ると柔らかい棒状の物がある事に気付き引っ張り出す。
取り出すとフニャフニャと曲がり、その長さは15cmほどのものをマジマジと見つめる。
取り返そうとするドドンが届かない高さまで上げると棒状の真ん中に穴がある事に気付いて覗きながら聞く。
「何だこれは?」
「魚の身の練り製品で竹輪と言うもんらしい。ネコが喜んで食べると聞いたんで仕入れたんじゃ。後でニャー様に持って行くつもりだった。返せ」
私は感心して頷くと竹輪を胸の谷間に仕舞うとドドンに向き合う。
「何故、仕舞う? お前、ニャー様にお届けする楽しみを奪う気じゃな!?」
「まあ、それはともかく、ニャー様からの指示で、かくかくしかじか……」
取り返そうとするドドンを手で頭を押さえて近寄れないようにして説明をするがドドンが眉間に皺を寄せて言ってくる。
「……お前、会話する気ないじゃろ?」
「まったく使えない男だな……」
それはこっちのセリフだと吼えるドドンを無視して仕方がなくニャー様に受けた内容を語って聞かせる。
話を聞き終えると鼻息荒くフンッと鳴らすと腕組みをして私を見上げてくる。
「その件はワシの耳にも届いておった。一応、試作品を作っていたが実験がまだじゃが、ネコより先にお前のコミニケーション能力をどうにかしたほうが良い気が……」
「やるな、ドドン。さすがは変態、いや、元ドワーフの長だな!」
サラッと華麗に流す私に肩を竦めるドドンは私が手を突っ込んだ前掛けのポケットの隣にあるポケットを弄り出し、手応えを感じた様子を見せる。
取り出した物を見つめて自慢げに笑うドドン。
おお、ドドンのポケットは実用段階まで進んでるのでは?
などと思っていると取り出した物を私に見せてくる。
首を思わず傾げた私はドドンに問う。
「これは水着か?」
「原型はな。ビキニタイプのを改良したネコ成り切りセットじゃ!!」
ドドンが取り出したのはトラ柄のビキニにパンツにはご丁寧にもお尻のところに尻尾があり、更にポケットを弄り出したドドンが取り出したモノ、ネコ耳バンドを私に見せつける。
「これでネコになれるはずじゃ!」
「ドドン……お主、天才か!?」
一気に意気投合した私達はお互いの肩をバシバシと叩き合う。
ヨシ! と頷くドドンが私に言ってくる。
「早速、ニャー様に実践を含めて報告じゃ!」
私達は意気揚々と仕事場を後にしたが、私達の背後から荒い息を誤魔化す事も忘れた雌のケダモノと思春期特有のツンデレを発動させた少年が仕方がなさそうに赤くなっている頬を掻いて尾行されている事に私達は気付かずに王の間を目指した。
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早速、ニャー様に報告にやってきた私達であったが、ニャー様には半眼で見つめられ、口が半開きで臭いモノを我慢しているような顔で見つめられる。
「レティス、ドドン。頭は大丈夫にゃ? ニャーはとても心配にゃ?」
「ええっ! 駄目ですか!?」
可愛らしく首を傾げてシナを作るがニャー様の表情は一向に回復の兆しはない。
ニャー様の見つめる先には今にもビキニから胸が弾けそうな様子で四肢を付けて雌豹のポーズ。
パンツについた尻尾はゆっくりと旋回し、見つめる相手を誘うように揺れる。
がっしり? とした体躯にネコには負けるが濃い体毛が獣臭さを感じさせているはずであった。
「にゃ~ご」
野太い声で鳴いてみせるがニャー様の心には響かない。
私と同じように首を傾げるネコの成り切りセットを纏うドドンが私を見つめてくる。
「ネコの擬態は完璧じゃと思うんじゃが……ワシはちゃんとネコに成りきれておるじゃろ?」
「むむむ……分かった! 肉球がないからだ!」
それじゃ! と手を叩くドドンと私は問題に気付けて良かったと喜び合っていると横手から飛び出した影にドドンは蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられる。
飛び出してきた影が私の手を掴んで駄々を捏ねるように引っ張る。
「おかしいよ! おかしいよ! どう考えてもアレを着るのってお姉ちゃんだよ!」
「むっ? ターニャか。まあいい、私も最初は着るつもりだったがドドンが雄ネコ用だと言うんでな」
騒ぎだす姉妹を見つめて疲れた溜息を零すニャー様は私達から離れ、入口で頭痛に耐えるように頭に片手を当てるペーターに話しかける。
「ニャーは疲れたにゃ。ペーター、お茶でもどうにゃ?」
「はぁ、ご一緒させて貰います」
出て行くニャー様に付いて行こうとするがターニャに抱き着かれて追う事もままならずに叫ぶ。
「お待ちになってください、ニャー様!」
私の必死の叫びはニャー様に届かなかったようで振り返らずペーターを連れて王の間を出て行かれた。
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