第4話 ネコ魔王、後ろ後ろ

 今日はニャー様と一緒にブシ工場へと向かっていた。


 ドワーフが来た事で更にブシの品質が上がったと聞いて居ても立って居られなくなったらしく視察に行くとにゃーにゃーと騒がれては興奮、もとい、腹心として動かざる得ないので私はニャー様と共にブシ工場へと向かっていた。


 ニャー様を抱っこして歩く私はご機嫌であるが私の胸の隙間から見上げるようにして不機嫌そうな顔をしたニャー様が苦情を言ってこられる。


「足がプラプラして落ち着かないにゃ。お腹も、ちょっと気持ち悪いにゃ、さっさと下ろすにゃ」

「それはいけません。ニャー様は魔王様なんですよ? 御身の安全の為に私が身を張ってお守りしなくては!」

「ニャーはそんな心配されるような弱者じゃないにゃ! それ以前に……ここでニャーに危害を与えるようなモノがないとニャーのお髭が言ってるにゃ?」


 キリリと自信ありげにニャー様の可愛らしいお髭をピクピクさせるのを見て思わず見とれた私もここにニャー様を傷つけるようなモノなどありはしないと分かっている。


 通りを歩いているとニャー様に好意的に頭を下げる者や忠誠心の高い者であればニャー様のご尊顔を拝めて嬉し泣きをしながら土下座をしている者すらいる。


 だから、ニャー様を害するモノはないでしょう。有った所で私以外にも体を張ってでもニャー様を守る者など腐るほどいる。


 ええ、ええ。単純に私がニャー様を抱いていたいだけですとも?


 抱っこして歩く幸せもあるが、抱っこする私を見て羨望の視線と時折、私に対する憎悪が混じる嫉妬の視線が堪らない!


 それを澄ました顔をして知らぬ顔するのが私流。


「レティス。お前、また鼻血と涎が凄い事になってるにゃ?」


 呆れた様子でそう言うニャー様が私のビキニアーマーの胸の所に挟むように置いているハンカチとティッシュを取り出す。


 ハンカチで私の口許を拭った後、ティッシュを妙に手慣れた様子で器用に丸めて鼻に突っ込んでくださる。


 つ、突っ込む!? なんか興奮するっ!


 再び、涎が噴き出し、ティッシュの赤い面積を増やす私にニャー様が言ってくる。


「どうしてニャーがお前の世話をしてるにゃ?」

「度々、お世話になっております」


 割と最近、見てられなくなったのかニャー様にして頂くのが日課になりつつある私の楽しみの1つになっていた。





 工事中のブシ工場に着いた私達であったが、現場主任に言われた言葉によって項垂れていた。


「大変、申し訳ありません。ドワーフ達が道具などの出来に不満があると言い出して撤去中なのです……」

「先日の報告では貴方達を唸らせるような出来だと聞いてましたが?」

「その通りなのですが、それでもドワーフ達の目にはまだ改善の余地があると言うので……」


 ならば! と言いかけた私をニャー様が肉球で口を塞いでくる。


「構わないにゃ。部下が本気で取り組んでいる事を待ってやるのも支配者の器量にゃ……」

「……さすがはニャー様です」


 押さえられている肉球をドサクサに紛れて舐めようとしたが野生の本能がそうさせたのかは分からないが寸前でどかされて悔しくて堪らない!


 世の不条理と戦うニャー様と私に現場監督が思い出したように掌に拳をポンと叩くようにして表情を明るくする。


「ドワーフ達は認めなかった結果の品ですがサンプルがありますのでお持ちしましょうか?」

「本当かにゃ!?」


 一気に暗から明に変化させるニャー様の表情に私と現場監督は癒される。


 現場監督はニャー様に「はい。すぐにお持ちします」と言うとこの場を後にした。




 ブシのサンプルを受け取った私達はそのまま帰らず、魔王城と反対側を目指して歩いていた。


 ニャー様はサンプルのブシを平らげられ満足そうに口の周りを舐め回す。


「ドワーフ、恐るべしにゃ。前のブシと比べて格段に風味が増してるにゃ」

「それは何よりです」


 ご機嫌なニャー様は目を細めて幸せを反芻させているらしく、あまりの可愛さに私は初めて我を忘れそうになる。


 ええ、本日の初めてですとも!


 私の不穏な空気で我に返ったのか分からないがニャー様がトリップから戻り、辺りをキョロキョロし出す。


「にゃ? 魔王城とは違う方向に来てるにゃ?」

「はい。ブシ工場の見学が出来ませんでしたので出たついでなので海でもご覧になられたと思いまして」


 私の言葉を聞いたニャー様が「海にゃ?」と聞かれる様子からニャー様が海を知らないようだと私は初めて知る。


 海の詳細を聞いてこられるニャー様に「もうすぐ見えてきますので」と焦らし、ヤキモキするニャー様に癒されながら港へと向かった。


 港に着くと目を爛々とさせてたニャー様が海を眺める。


「何なんにゃぁ! このしょっぱい匂いとこの心を躍らせる生臭い匂いは!?」


 そう言い放つとニャー様は私の腕から飛び降りると同時に脱兎の如く走り去る。


「ニャー様、お待ちください!!」


 慌てて追うがすぐに見失った私は手当たり次第にニャー様を追って港を見て廻った。




 しばらく歩くと灯台が見えてきて、灯台へと続く道でマントを付けたネコがいるのを発見する。


「あんなところに居られたか……見つかって良かった」


 近寄っていき、ニャー様に声をかけようとするが寸前で止める。


 良く見るとニャー様の視線の先には海鳥が羽根休めしているのか飛ばずにジッとしているのを低い姿勢で見つめていた。


 ニャー様の尻尾を見ると緊張を匂わせる。


 どうやら野生本能が目覚めてしまったと理解した私はソッとニャー様の背後に廻り込み、同じように四肢を着いてお尻を上げる。


「はぁはぁ、可愛いお尻……」


 お尻を僅かに揺らし、飛びかかるタイミングを計っているようだが、私の目には私を誘っているようにしか見えない。


 ニャー様に鼻を栓して貰ってたティッシュを鼻血の勢いで吹き飛ばし、私の中で寝ていた野生本能を全開にしてニャー様の可愛いお尻を見つめ、私もゆっくりとお尻を振り始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る