第1話 ネコ魔王の最初の侵略
魔王様の部下、ニャー様の下僕になって2週間が過ぎようとしていた。
まだ魔王城の建設は始まっていない。とりあえず最北の村を占拠したところであった。
いくら私が強いとは言っても全ての人を相手に戦える訳ではない。ニャー様であれば可能かもしれないが掠り傷でも付けられたら私は泣いてしまう。
なので、私はニャー様に上申して王都から一番遠い北の村で足場作りを進言した。
私のような愚かな女の意見に耳を傾けて下さったニャー様は聞きいれて下さり、ニャー様が召喚した眷属を連れて私は出陣して村を平定させた。
始まったばかり、これからもニャー様の為に頑張っていかねば!
と拳を握り締めているとニャー様の柔らかい肉球でポンポンと叩いてこられる。
ああ……癒される……
「手が止まってるにゃ。もっとブシを寄こす……にゃにゃにゃ! レティスの涎が凄い事になってるにゃ! ニャーを食べる気かにゃ!?」
「め、滅相もございません。そ、そんな事はないでありますですよ?」
涎を拭いながらもニャー様にブシ、鰹節をせっせと口許に運ぶ。
一瞬怪訝な表情をお見せになられたが、ブシに目を奪われると私の手から美味しそうに食べ始める。
ブシを食べようとして私の指を舐めてしまわれる度に背筋に甘い痺れが走る。
はぁはぁ……ニャー様のように可愛い存在を食べるなんて……ち、違う意味であればアリかも!
そう考えた瞬間、ニャー様がビクつきこちらを見てくる。
駄目、私の願望を外に洩らしちゃラメェ――!
ニッコリと笑みを浮かべてブシをニャー様の口許に運ぶとすぐに注意がそちらに向き、再び美味しそうにブシを食べ始める。
ふぅ、本音を隠す王族の作法が上手くいって良かった……
内心は大変な事になっているが表面上は優しげな笑みを浮かべる事に成功している私にニャー様はブシを食べながら質問されてくる。
「レティス、此度の戦い、あっぱれにゃ。我が兵が優秀だったのもあるだろうが双方、怪我人を出さずに村を制定した手腕、見事にゃ」
「全てはニャー様が召喚された部下達の力があってこそです」
耳の裏を掻きながら言うと気持ち良さそうに目を細められるニャー様に息が荒くなりそうになるが必死に耐える。
私が言ったニャー様が召喚した部下の力というのは本当の話で、ニャー様の部下のネコ達を引き連れて出陣した私は可愛いネコに囲まれて鼻血を流し過ぎて失血死しそうになっていたので明らかに戦力にはなっていなかった。
この世界にはニャー様が来るまでネコという種族はなく、ネコを見た村人や警備兵達もガクガクと震えた。
可愛さになっ!
見てるだけでも膝を付きそうになっている者達の前に行ったネコ達がお腹を見せながら「にゃ?」と鳴くだけでほとんどの者が得物を手放した。
砂漠で水を求める者のようにネコに近寄るが逃げられ、皆は涙をした。
そこで颯爽と姿を現した私がソッと一匹の猫を抱っこして頬ずりをすると親の仇を見るように私を睨みつけてくる。
ああ、まさに愉悦の瞬間だった。この至福を独占してるというのは……
そんな者達を鼻血を流しながら見渡す私は悪魔の囁きをする。
「抱きたいか?」
「抱きたい!!」
私はネコのフワフワとした喉元の毛を掻き分けるようにして撫でるのを見せびらかして言う。
「モフりたいか?」
「モフ!? モフたいに決まっているだろう!」
村人達が目端一杯の涙を流しながら魂からの絶叫をするのを見た私には分かった。
こいつらは同士だ!
ウンウンと頷く私は胸に居たネコを抱き抱え、頭上に持って叫ぶ。
「ならば、王家を捨て、魔王様に忠誠を誓え! さすれば、お前達はネコがいる生活が約束される!」
「「「魔王様に忠誠を!! 魔王様、万歳!!」」」
村人達に一切の躊躇はなかった。それは気持ちが良いぐらいに王家をゴミ扱いであった。
こうして最初の村の激闘は幕を閉じた。
村人達が恭順して2週間が経ち、落ち着いた今、ニャー様が私に褒美が何が良いかと問われて私は
「ニャー様の椅子になりたいです」
と言うと呆れるように半眼で見つめて「ああ……そう?」と言われた。
ああ、その蔑むような目が堪らない!
おかしな奴とは思われたようだが心の広いニャー様は私を椅子として使ってくださっている。
ずっとニャー様にスルーされているが私の鼻血は止まる様子はない。ここで果てようと本望だ。
ギュッとニャー様を抱っこしているとブシの後味を楽しむように口の周りを舌で舐める。
その姿も愛おしい……
はぁはぁ、と息を荒くする私から目を逸らすニャー様が言ってくる。
「しかし、このブシは最高にゃ。ニャーの世界にはなかったのにゃ」
「その事で村人から申請があった事のご報告を忘れておりました。ニャー様達の為にブシ工場を増設したいという……」
「承認にゃ!!」
嬉しそうに即決するニャー様が可愛くて引き寄せるようにして抱き締める。
いきなり引き寄せられて驚いたニャー様がジタバタするので抱く手を弱めた。
不機嫌そうに見上げてくるニャー様が肉球で私の胸を下から押し上げる。
「これ邪魔にゃ! 無駄にでかい乳にゃ。少しは痩せるにゃ」
「ああんっ……はぁはぁ、無駄に大きくて申し訳ありません……」
思わず喜びに震える私は再び、抱き締めるとニャー様の頭の上に自分の胸を押し付ける。
きっとニャー様は呆れたような顔をしてるのだろうな、と思うと笑みと共に鼻血も増量された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます