第7話 ネコ魔王とついに動き出した報せ

 今日はニャー様の食後の散歩を兼ねて、市場の視察にやってきた。


 颯爽とマントを翻しながら歩むニャー様の可愛さに息が荒くなる私を余所に辺りを満足そうに見渡すニャー様がいた。


「盛況そうで何よりにゃ」

「はい、ニャー様が商人達に規制も税を課してないので取引が活性化し始めてます」


 ハヤフル王国では各地の街で関税をかける事を容認している。


 街を治める領主達も税は沢山欲しいが自分の街から売りに出る商品に関しては税をかけずに入ってくる商品に税をかけていた。


 出る方にかけないのは街で作ったモノが外に出ない事には街全体が潤わず、循環しないという考えからである。


 しかし、商人達も馬鹿ではない。


 その方法で活動的に売り買いしたところで運んだ商人達の利益は当然、削られるのは分かり切った結果であった。


 確かに、半分の税金で済んでると言えるかもしれないが、遠い街まで運ぼうというのはどうしても少なくなる。

 何故なら売る売らない問わずに街に入るだけで税が徴収される為であった。


 そこで非公認な街、闇市が開かれる場所が設けられて、そこで一時保管され、売り買いする事で作られた。


 だが、それに気付いた王国が闇市を潰す、再び、隠れて商人達が闇市を作るという千日手のようなやり取りが長い間、続いていた。


 しかし、その均衡は崩れ去る。


 この場所、ニャー様のお膝元では王国が手を出せない。


 ニャー様が顕現された事で支配されたこの元、村を始め、ニャー様に恭順を自分から示してきた近隣の村や街の支配する貴族ではなく村長などの役職のあるものと通じ始めていた。


 当然、近隣でもこっそりと住人の協力もあり、闇市は存在して活性化を始めていた。


 ほくそ笑む私は近隣の状況を思い出す。


 ネコの秘密部隊を送り込んでいるので今は一部の住人の協力であるが全ての住人がネコに降るのも時間の問題……


 住人を完全に掌中に収めたら支配階級の貴族を追い払う手筈を整えている。


「ニャー様の覇道を阻むモノは全て私が薙ぎ払う!」


 私には壮大な夢がある。


 そう、人類、皆、らぶネコ!


 それまで私の戦いは終わらない!


「にゃ? 何をレティスはブツブツ言ってるにゃ?」


 振り返ったニャー様が可愛らしく首を傾げて見上げてくるのを見て私は耐えに耐えていたモノが噴き出す。


 鼻から赤い飛沫を飛び散らかし、片膝付いた私は迷惑そうな顔をしたニャー様を見つめて言う。


「ニャー様への愛の言葉を紡いでました!」

「……にゃ」


 呆れるように絞り出した声というより鳴き声を洩らすと再び、市場を歩き始める。


 ニャー様はツンデレで私を萌え殺すおつもりかっ!


 はぁはぁ、と荒くする息を発展させようとしていると、ふと思い出す。


「そういえば、あの子は元気してるかしら……」


 いつも私の後ろに付いて回って来ていた妹を思い出す。


 ツンデレのニャー様と正反対の性格をしていたが妹だからという訳ではないが可愛げがあった。


 私が神の神託を受けた事を一番に喜んだ若干シスコン気味の妹を思い出すとムズ痒い想いから頬をコリコリと掻く。


「多分、怒ってるわよね……でも許してね? 姉さんは愛に生きると決めたの!」


 うっとりしているとニャー様の肉球で私の足をポンポンと叩いてこられる。


 我に返った私が足下に目を向けるとニャー様が魚を焼いてる屋台のオヤジに肉球を指す。


「焼き魚を買って欲しいにゃ?」

「喜んで!」


 勿論、私に否などない。迅速に財布を取り出して魚の丸焼きを一本分を屋台のオヤジに手渡す。


 微妙そうな顔をした屋台のオヤジが私から金を受け取って焼き魚を手渡してくる時に耳打ちされる。


「レティスさん、アンタ美人だから余計に目立つんだが……ブツブツと独り言が多いから気を付けた方がいいよ」


 な、なんですと!?


 自分の感覚ではまったく言ってるつもりではなかった事でも驚いたが、屋台のオヤジの言う通りであれば、私は完璧な不審者!


 今の考えを口にしていれば目の前の屋台のオヤジがそんな事は些事でアンタの奇行はそんなものじゃないと鼻血を噴き出したり、涎を垂らす残念系美少女として有名である事を教えてくれただろう。


 ショックに固まる私の足を叩くニャー様が「魚、魚!」と騒がれて条件反射でニャー様に焼き魚を手渡す。


 手渡されたニャー様が焼き魚に齧り付くと出来立てアツアツだったので舌が火傷したらしく近くにある噴水に走っていかれる。


 それを眺めてmp0に限りなく近くなった私が膝を付きそうになっていると街の外に繋がる城門から大声を張り上げながら走る青年の姿があった。


「ついに王国が動いたぞ! 不遜にもこの街に騎士団を引き連れてやってきている。しかも近衛らしい!」


 そう叫びながら私の横を駆け抜けていったのを見送りながら嫌な予感が頭をもたげる。


 ショック状態からショックを与えられて立ち直り始めた私は呟く。


「近衛騎士? となると旗頭は王族……まさかね」


 私は噴水でペロペロと水を舐めるニャー様を抱き抱えると魔王城へと走り出した。

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