第9-3話 エピローグ~笠原 蒼羽の場合~

 川崎は無事に自分の気持ちを伝えられた。


 秀介も自分の気持ちに気付けた。



 そして二人は、二つの道は交わって一つの恋路となった。

 

 これで良い。


 素晴らしい、出来過ぎたくらいのハッピーエンドだ。

 

 それなのに、何なのだろう。


 この、胸にぽっかりと穴があいたような虚しさは。

 


 あの日。


 川崎が泣いた日。


 あの日から、妙に川崎の事を気にしてしまう。


 もしかすると、俺も川崎に恋していたのかもしれない。


 だとしても、いや、だとしたら、この感情は俺の心に秘めておこう。


 二人の笑顔を奪ってまで、俺は幸せになんかなりたくない。


 それに、これから先、出会いはいくらでもある。

 


 ザッと風が吹いた。


 思わず一瞬目を閉じた俺の顔に、何かが貼り付いた。


 どうやら麦藁帽むぎわらぼうのようだ。


「すみません」


 まだあどけなさが残る、少女の声。


「いや、気にしないで……」


 言いかけて、言葉につまった。


 若草色のワンピースが目に眩しい。


 肩より少し長い、やや癖のある黒髪。眼鏡越しにこちらを見つめてくる澄んだ瞳。

 


 ──出会いはいくらでもある。








 そして、彼らの青春は、まだ始まったばかり。




 Fin.

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謎解き姫のイチゴパフェ 灯花 @Amamiya490

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