第6話 謎解き姫は恋する乙女
ふぁーっとあくびが漏れてしまいそうな、のどかな昼休み。
日なたは日差しが強いが、木陰は程良く風も吹いて、心地良い。
「あー。平和だ」
こんな日は猫が羨ましい。特に野良。あの、自由気ままに歩くことを許された最高の身分。まるで王様ではないか。
僕にもせめて午後の授業がなければ、と思わずにはいられない。
そのとき。
ゴッと鈍い音を立てて何かが後頭部を直撃した。
「痛っ!」
あっけなくひっくり返る。文化部なんてこんなものだ。
特に、わが茶道部は校内最弱を誇る
「相変わらず情けない。もうちょっと体動かせよ」
背後に聞こえるのは、おそらくこの悲劇を引き起こしたであろう人物、蒼羽の声だ。
頭をさすりながら振り返ると、右手でテニスボールを
「悪い。待たせたな」
「……声のかけ方、他にあるよな。あと、絶対悪いとか思ってない」
「腕が
「僕をトレーニング器具じゃない。というか半分僕の話スルーしただろ!」
「昨日の労働報酬だ。あ、そーだ。川崎ー? 来いよ」
蒼羽が振り返った先をみると、
「……祐希。あー、なんか、その、昨日はごめん。僕が鈍感だったみたいで」
「……ううん。私も勝手にキレてごめん。これ、おわび? みたいな感じ。食べる?」
そう言って差し出されたのは……
「抹茶メロンパン!」
説明しよう!抹茶メロンパンとは、文字通り抹茶味のメロンパンなのだが、京都宇治の抹茶を贅沢に使用し、その豊かな風味を殺すことなくメロンパン本来のほのかな甘さと共にサクフワの食感に焼き上げた、まさにメロンパン革命の象徴!当然のことながら人気商品で教師も狙うといわれる、いわば幻のパン。それが何故ここに!
「秀介、とりあえず落ち着け。川崎も引いてる」
……柄にもなく取り乱してしまった。
「えーっと、どうしたの?これ」
我ながらとても馬鹿な質問。買ったに決まっている。
「……朝
「わざわざ?」
「うん。秀介、これ食べたかったんでしょ?」
「そうだけど……」
「……私ね、秀介が好き」
「ああ、ありがとう、って、ええ?」
「ずっと、ずーっと好きだったの。他の女子に嫌われても、秀介と一緒にいたかった。私、結構頑張ってアピールしてたのに、秀介、ちっとも気付かないんだもん。……ホント鈍感なんだから」
「え、と。ちょっと待って。祐希は、僕のことが好き、なの?」
「本人がそう言ってんだろ。鈍感男。
サラッと刺さる毒舌でより一層、真実味が増す。
「……えーっと、蒼羽も……知ってた感じ?」
「多分、川崎が秀介のこと好きだって気付いてねぇの、この学年でお前くらいだぞ。逆に気付いてなかったのが異常だ」
「……ごめん。突然。でもね、秀介のことが大好きなの。これだけは紛れもない本心。ああ、気にしないで。秀介は好きな人、いるんだよね。こんなの迷惑だよね。分かってる。私は、秀介が笑っててくれればいいから」
うつむき加減になっていて表情は分かりにくいが、マシュマロに負けるとも劣らない白い頬が真っ赤に染まっている。
改めて、祐希は可愛い、と思った。「可愛い」と「好き」はイコールなのだろうか、とも。
「えーっと……」
「ごめん、笠原。せっかく誘ってくれたのに、私やっぱ限界。ほんと、ありがとね」
そこまで言うと、祐希はパッと身を
「ちゃんと向き合ってやれよ。川崎が、さっきのを言う為にどれだけ勇気を振り絞ったか、俺には分からない。けど、川崎が本気だっていうのは痛いくらいに分かる。あいつは心の底から秀介の事が好きなんだ。それだけは絶対に忘れるな」
蒼羽もくるりと僕に背を向けて歩き出す。
「どこに……?」
「川崎の様子見てくる。こういう時は第三者の方が良いこともあるだろ。じっくり考えろよ」
突然の告白。
さっきまで平和だった僕の心は「好き」という一言にかき乱された。
五限目の予鈴が、やけに遠くに聞こえた。
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