第9-2話 エピローグ~川崎 祐希の場合~
「しゅ、う、す、け。帰ろ」
帰る準備をしている秀介に声をかける。
今までと、同じといえば同じ光景だけど、私的には180度くらい違う。
何といっても秀介は私の
気を付けていても頬が緩んでしまう。
「ねぇねぇ、ミルフィーユによっても良い?」
今日は特に、甘えたい日だ。
秀介に左腕に私の右手を絡める。
笠原に「細い」とか「情けない」とか言われてるけど、こうしていると秀介の腕は意外としっかりして、程良く筋肉もついている。
茶道も腕使うのかなぁ、なんて考えてたら、
「ミルフィーユに寄るのは良いけど、腕絡めるのは駄目」
ぶん、と振りほどかれてしまった。
「えー。いーじゃん。ケチ」
フイッと視線を逸らして、秀介が言う。
「……まだこういうのに慣れてないんだから勘弁してよ」
何それカワイイ。
それに「まだ」慣れてないから駄目、なんだったらなれてきたらいーよってことでしょ?
「じゃあ慣れてきたらいいんだ?」
そう言った途端、秀介の顔が「しまった」と引きつる。
面白くてなおも彼の顔を覗き込んでいると、突然彼は走りだした。
「あっ、ちょっと待ってよ」
慌てて追いかけるものの、荷物はジャマだし、足は遅いしでなかなか距離は縮まらない。
秀介は足が遅い方だけど、私はもっと遅い。
「待たない」
滅多にない彼のイジワルに少しだけキュンとした。
夕陽に染められた
もうすぐミルフィーユだ。
赤い夕陽を見たせいか、今日はイチゴを食べたい気分。
イチゴパフェにしようかな。
カラン、カラン。
軽く肩で息をしながらミルフィーユのドアを押す。入った瞬間、スイーツの甘い香りが私を包む。
「どれにする?」
先に着いていた秀介が私に訊く。
「イチゴパフェ!」
元気に答える。
秀介はチーズケーキにするみたいだ。あとで分けてもらおうかなぁ。あっ、でもこれ間接キス?
そんなことを考えながら席に着く。
いつものスイーツタイムなのに、ちょっとだけドキドキする。
ちらっと顔を上げて彼の顔を見ると、彼は調理場(って言うのかな?)の方をぼんやりと眺めていた。
別に、女性の店員さんを見てた訳じゃないとは思ったけど、何か悔しかったから、彼の頬に手を伸ばす。
「私を見てよ」
クイッと無理やり私の方を向かせた。何でもない風に言いたかったけど、拗ねたみたいになってしまう。
「ごめん、ごめん」
ふわっと笑って彼はポンポン、と私の頭を撫でる。
ほのかに伝わってくる手のひらの温かさが嬉しい。
こんな一面も持ってたんだなぁと今更ながら思う。
「お待たせしました」
イチゴパフェとチーズケーキが運ばれてくる。
「わー、美味しそう!」
コーンフレークが底に敷かれていて、その上にイチゴアイス。そして一番上にちょこん、と小さなイチゴ。
素早く合掌して溶けないうちにと味わいながらもある程度の速度で食べる。
でも溶けたのも美味しい。イチゴの甘酸っぱさが口一杯に広がる。
お口のシアワセ、まさに「口福」のひととき。
ふと、視線を感じて秀介の方を見ると、にこにことこっちを見ていた。
チーズケーキに手を付けた様子はない。
不思議に思って訊いてみる。
「食べないの?」
「いや、食べるよ。ただ、祐希は本当にスイーツが好きなんだなと思って。あと、美味しそうに食べる姿が可愛くて」
え? 秀介ってこんなこと言う人だったっけ?
思わず固まってしまう。
だって、人と話すのがキライな秀介が「可愛い」って。
次にやってきたのは赤面だった。
顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。
彼の顔を見てられなくて「ふにゃっ」とネコみたいな声が出てしまった。
テーブルに顔を伏せる。
「祐希、パフェ溶けるよ」
心なしか秀介の声は楽しそう。チーズケーキを食べながら楽しそうに笑っている。
「秀介……」
こんなの、こんなの反則だよ!
嬉しさと照れが混ざって甘い様な、酸っぱい様な。
そう、まるでイチゴみたい。
イチゴって、恋の味だ。
「さっきのは反則。めっちゃキュンってした。」
まだ頬は熱い。
照れ隠しと顔が火照ってるのでいつもより速いペースでイチゴアイスを食べる。
少し溶けだしていたけど、ひんやり冷たくてだんだん頬の色が戻っていく感じがした。
だいぶ落ち着いてきたところで、私も秀介を照れさせたくなった。
「秀介、一口あげる」
パフェをスプーンで
これでおあいこ、そう思ったのに。
「ありがと」
意外にも彼の対応は平然としていて、拍子抜けした。
これじゃ私のパフェが減っただけじゃない。
「……何か、秀介にすっごい負けた気分」
少し驚いたけど、間接キスが嬉しくて、思いっきりかぶりつく。
美味しい。
スイーツを食べると自然と笑顔になる。
私の笑った顔を見て、秀介も微笑む。
……ああ。そっか。私は、この笑顔を好きになったんだ。
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