タイトルに引かれてページを読み進めた途端、ぐいぐいと二人の心理描写に引き込まれてしまいました。
来栖の、愛らしいけれど妬ましいという相反した感情にはとても共感が持てて、彼の人間らしさが切々と伝わってくる内心、それを描く文章力にまず引かれます。
人犬となった幸奈の細かな所作、まだ人間として意識を持っている強さといった部分も胸に痛く刺さり、二人の今後がとても気になります。
また人間が人犬に加工されるという設定、それを反映する社会性など彼等を取り巻く環境が、いかにもありそうなリアリティをもって迫り、彼等の心理へと更にのめり込むキッカケを与えてくれます。読み物としてまさに一流の作品だと思いますので、切ない二人の心を読み進めたい方にはぜひともお勧めしたい作品です。
一気読みしてしまった(なろうに投稿されている最新話まで)。
復讐か情けか、一概には表現できない主人公、「人外」となったことで人間や「思いやり」を学んだ元いじめっ娘——現人犬。
その複雑な関係を深めるのはディストピアという背景である。もう少し言えば、「人間未満」とされた者を「人外」へ貶める世界。狂った人間がテクノロジーを“誤用”する近未来。
いや、“誤用”でもないのかもしれない。それは現代的な「自由」に基づく感覚なのであって。
そんな世界で「人外」とされた者を「人間」に戻そうとするのは異質だ。だからこそ、二人の辿る道が楽しみである。
わたしたちとは違う思考で溢れる世界を描く。これこそがSF、ディストピアだ。これは良作に出会った。
創作とはこうあるべき。
筆者が惜しげもなく晒けだした狂気と性癖と知性、卓越した文才が紡ぎだす人間模様――ヒューマンドラマ。
このジャンルにこれ以上ふさわしい作品を私は知らない。
決して感動に打ち震えるものでなく、決して心暖まるものでもない。
恐らくは相当に人を選ぶであろう問題作だ。
しかし、それを試さないのは何よりの機会損失である。
まずは是非あらすじをご覧いただきたい。
そして本編を読めば、狂おしい愛情、下卑た快感、後ろめたい背徳感、それでいてどこか切なく割りきれない感情があなたを襲うだろう。
まるで、奈落の闇が見える崖の縁を命綱無しで、じわり、じわり、と進むが如き読了感を味わうことになるだろう。
ああ、なんと素晴らしい。
それでいて本作は近未来SFであり、ミステリアスなラブストーリーでもあるのだ。
最後に私は筆者である、柳なつき氏にこう問いたい「あなたの目に人間はどう写っておられますか?」